スコラ・シャルロ魔法競技会、決勝戦が始まった。

 私──ミレイアとジェニファーの戦いだ。

「さぁて、どうしようかしら」
 
 ジェニファーは舞台をゆっくり、右に移動する。

「あなたのかわいいレイラちゃんと、同じ目にあわせてやろうかしらね──アイスバーン!」

 ジェニファーはいきなり、ゴルバルの杖を振った。

 ビキイイイイッ

 すさまじい音がした。

 地面が(こお)りつき、私に向かって凍気(とうき)がせまってくる!

 危険!

 私はジェニファーの氷結魔法を、左に大きく飛んで()けた。

「エクスプロジ……」

 続けて、ジェニファーが爆発魔法を唱えようとした時だ。私はスキを見つけた。

 タッ

「あっ」

 ジェニファーが目を丸くしている。私は一瞬にして、ジェニファーの目の前に移動した。高速移動の術だ。

 聖女の杖を突きつけ──。

「ヴィント・シュトース!」

 ジェニファーの腹目がけて、魔法を放った。

「うっ、が」

 ジェニファーは吹っ飛ぶ。

 5……いや、6メートルは吹っ飛んだだろうか。

 スタッ

 ジェニファーは空中で一回転し、そのまま地面に降り立った。

 まさか? 私は驚いた。

 ジェニファーに、あんな身体能力があったとは?

(ジェニファーは、運動の(たぐい)はあまり得意ではなかったはず。何か秘密がある……?)

 しかしジェニファーは、真っ青な顔をして、腹をおさえている。

 まともに私の突風魔法をくらったのだ。舞台上に寝転びたい気持ちでいっぱいだろう。

 一方、観客も騒いでいる。

「おい、ミレイアのやつ、一瞬でジェニファーの(ふところ)に飛び込んだぞ」
「み、見えなかった」
「でも、ジェニファーもすごい身体能力だぞ」

 ジェニファーは冷や汗をかきながら、笑っていた。

「ミレイアさあ……あんたの魔法なんか、たいしたことないじゃん」

 今度はジェニファーが、ゴルバルの杖を私に突きつける。

「くらえ!」

 ズドドドドドッ

 小さい火の球が、連続して杖から放たれる! 連発魔法だ。

 その数、8……いや、15? 多いっ!

「タアアアアアッ」

 私は気合一閃(きあいいっせん)──声を上げた。

「グラヴィティ・タウゼンタ!」

 ピタアアアアアッ

 15個の火の球は、私の目の前は、私の目の前で止まった。そしてすべて落ちて、消滅してしまった。
 これが私の、周辺の重力を操る、重力魔法だ!

「なっ……それがあったか!」

 狼狽(ろうばい)するジェニファーは、一歩後退した。
 
 ここだ!

「アストラペ・ライトニア!」

 私は雷の魔法を放つ。すさまじい勢いで、雷が天からジェニファーを襲った。

 ジェニファーは、ゴルバルの杖でそれを受け、魔法を消滅させた。

 ま、それくらいやるだろうとは思っていたけど。

「調子にのらないでよね、ミレイア」

 ジェニファーの声には、余裕がある。何だ──?

 ……上か!

 私の頭上には、ジェニファーが放った火の球が一つ、浮かんでいた!

 でかい! あんな工夫を?

 すさまじい勢いで、私に向かって降下する!

「くらって大火傷しなさい! あとで、もっと恐ろしい目に合わせてあげるけどね! アハハハハ!」

 ジェニファーは高笑いした。

 スッ
 
 上から振ってきた火の球は、私を通り抜けた。

「え? 何?」

 ジェニファーは目を丸くして、その光景を見ていたが、私は言った。

「あなたのほうが、もっと恐ろしいことになっているわよ、ジェニファー」
「え? 何よ……ううっ?」

 ジェニファーは驚きの声を上げた。

 私は7人のミレイアに分身し、ジェニファーを囲んでいたのだ。

「なにこれ?」

 ジェニファーの顔は真っ青だ。

「あたしの得意技、『分身の術』さ! ミレイアに伝授したんだ」

 ゾーヤが最前列の観客席で、声を上げる。

「しかし恐ろしいね、ミレイアは。私は3体の分身が限界なのに、7体も出すなんて……」
 
 7体の私は、静かに杖を振りかざした。

「ルーチェン・アットラペ!」

 7体の私は、光の縄を、杖から撃ちだした。
 
 ジェニファーを、光の縄の魔法で、捕縛(ほばく)するのだ!

 ギチイイイッ

 そんな音とともに、ジェニファーを完全に7本の光の縄で捕まえた。

「あ……あ、ぐ……」

 ジェニファーはうめいた。彼女の体は、光の縄でぐるぐる巻きにされている。かろうじて顔だけ出ている……。

「たす……けて……。たすけて」

 ジェニファーは小さく言った。

 しかし、私は予感がしていた。

 ジェニファーに近づいてはいけない……と!