ジェニファーが軽くゴルバルの杖を振ると、レイラは5メートル吹っ飛んだ。

 レイラは驚いていた。

 あのジェニファーに、こんな魔力があったなんて、信じられない。

「本当の『重力の霧』はこうやって放つのよ! ジェニファー式『グラビティ・ネブリナ』!」

 ジェニファーがゴルバルの杖を空に(かか)げると、レイラの頭の上に、奇妙な闇の(かたまり)が振ってきた。

「うっ、ぐっ」

 レイラの体に、闇の(かたまり)がまとわりつく。

 四方八方から、締め付けられるようだ! 360度から重力が襲い掛かってきている。

「な、何てこと!」

 勝負を見ていたユウミが、声を上げた。

「常識的な術ではない! 上下左右から重力をかけるなんて、そんなバカなことが? そんなことができるのは、アルバナーク婆様くらいだわ」
「だ、大丈夫よ。ユウミ」

 レイラはそう言いつつ、自分に光の防御壁(ぼうぎょへき)を作った。

 バーン

 その防御壁(ぼうぎょへき)を飛び散らせることにより、その重力の(かたまり)を打ち消した!

「あらあら」

 ジェニファーはレイラを見て、笑った。

「防御に全力を使っちゃって」
「黙りなさい!」

 レイラは声を上げた。
 
 その時、レイラはジェニファーの背後に、不気味なものを見たような気がした。──翼? 悪魔の翼!

 ジェニファーは恐ろしい顔でニヤニヤ笑っている。
 まるで──魔族!

(いけない。集中して──)

 レイラは気力を振り絞った。

「私の最強の術を受けよ! レイラ・ライトニア!」

 バアアアアアン

 すさまじい勢いで、天から雷が落ちた。しかし──。

 ジェニファーはゴルバルの杖を、すでに天に(かか)げていた。

 レイラの雷の魔法は、ジェニファーの頭上で消え去った──。

「な、そんな……」

 レイラは目を丸くし、一歩後退した。

 ジェニファーのゴルバルの杖が、避雷針(ひらいしん)のごとく、雷の魔法を打ち消したのだ。

「エクスプロジオン!」

 ジェニファーはレイラの足元を爆発させた。レイラは5メートルは吹っ飛んだ。

「軽めの魔法を使ったのに。結構、吹っ飛んだわね」

 ジェニファーは笑っている。

「ば、化け物……。い、いや、悪魔……」

 レイラはジェニファーを見て、そう言った。エクスプロジオンは初級の爆発魔法だ。しかし、ジェニファーの爆発魔法は、上級魔法くらいの威力があった。

「悪魔って言った?」

 ジェニファーはクスクス笑った。後ろでゲオルグも笑っている。

「悪魔なんてよく分からないけど、勝った者が正義よ! ──アイスバーン!」

 ジェニファーが唱えると、レイラの足が、一瞬にして(こお)りついた。

「ああっ!」

 レイラが痛ましい声を上げる。レイラはもう立ち上がれない。

「ま、待って!」

 ユウミとサラがあわてて、レイラの前に立ちはだかった。

「なぁに?」

 ジェニファーは、ニタリといやらしい笑みを浮かべた。

「しょ、勝負は──」

 ユウミが、レイラを守るようにして涙を流しながら言った。

「勝負はつきました」

 ジェニファーは、「オホホホ」と笑った。

「どういう意味? どういうことか、ちゃんと言ってごらんなさい」
「……レイラの──私たちの負けです」
「あらそう。じゃあ──」

 ジェニファーはニヤリと毒々しく笑った。

「ユウミとサラだけでもいいから、土下座してね」
「う、ううっ……」

 ユウミとサラは顔を見合わせた。なんたる屈辱(くつじょく)……。

 しかし、このままではレイラが殺されてしまうかもしれない。

「ま、参りました……」
 
 ユウミとサラは、涙を流して……土下座をした。

 ぞくぞくぞくっ……。

(たまらないわ!)

 ジェニファーは全身に歓喜(かんき)を感じていた。

「ひれ伏しなさい! もっと、もっとよ!」

 ガスッ

「ぎゃっ!」

 ユウミは悲鳴を上げた。

 ジェニファーはユウミを蹴り飛ばし、高笑いしたのだった。