ジェニファーは、元聖女ミレイアを支えていた、下級聖女レイラに勝負をいどまれた。

 レイラはスコラ・エクセンの成績優秀者。

 いつでも聖女の仕事ができるくらい、有能な下級聖女であり、術者である。

「レイラなんかに負けるわけにいかないけど」

 ジェニファーは、ゲオルグに向かって言った。

「ミレイアとの魔法競技会決勝前に、怪我なんかさせられちゃ、たまわらないわ。成り行きで、勝負を受け入れちゃったけど」
「大丈夫だ。僕についてきてくれ」

 ゲオルグはエクセン王国北の、スラム街へ向かって歩いていく。ジェニファーは、恐る恐るゲオルグについていった。

 ◇ ◇ ◇

「な、何よ、ここぉ?」

 ゲオルグは足を止めた。大きな古くさい建物がある。

 看板はない。アパートでもなさそうだし、店でもなさそうだ。

「ここは秘密結社ルーファスという場所だ。僕も一応、関係者だ。シャルロ王国にも支部があるぞ」
「……へ、変な場所じゃないでしょうね?」

 ジェニファーが聞くと、ゲオルグはニヤリと笑った。

「確実に君が強くなれる場所だ」

 ジェニファーとゲオルグは建物に入った。一人のローブ姿の者が、ロビーのソファに座っていた。

「よくいらっしゃいました、ジェニファー様。私はゲオルグ様の友人である、マイザル・デルザール」
「な、何よ、あんた。私のこと、知ってるの?」
「知っておりますとも。話はすべて聞いております。ついてきてください。あなた様の魔力が倍増しますよ」
「魔力倍増? ほ、本当なの、それ?」

 このデルザールなるローブ男は、建物の地下に降りていった。

 ジェニファーは首を傾げながらついていく。ゲオルグも一緒だ。

 ◇ ◇ ◇

「あ、こ、ここは!」

 ジェニファーは声を上げた。

 祭壇(さいだん)

 薄暗い部屋だ。

 魔法陣が地面に描かれている。周囲には8本の柱が立っており、壁際の棚には色々な色の薬品が入っていた。

「魔法陣の上に立ってくれ」

 ゲオルグが言うと、ジェニファーは怖々うなずいた。

「え、ええ。でも……」
「怖がることはありません」

 デルザールは笑った。

「あなたに素晴らしい力がもたらされますからな……。まるで神のような」
「神のような?」

 ジェニファーの顔が、少しゆるんだ。

「神って、あの……神?」
「そうですよ。あの天上の神。その同等の力を得られるのです」
「まさか……そんな! で、でもそれが本当だったら」

 ジェニファーの声は明るくなった。

「す、すごいわ! 国民が私を神様のように(した)ってくれたら、いい気分だわ。ま、まあ、ものは試し、やってみる」
 
 ジェニファーは、魔法陣の上に立った。

 グオオオオ……。

 どこからか熊のような、怖ろしい声が聞こえる。

 ググググ……。

 ジェニファーは首筋(くびすじ)が締め付けられるように感じた。

「ひ、ひいっ! な、何よ、これ!」
「とり()いたようだな」

 ゲオルグが笑った。

「悪魔ルシフェルが」
「……へ?」

 ジェニファーは体に熱いものを感じていた。心臓の音が高まった。

 ドクン……!

 自分の体に、変化が起きているのを感じた──。

 ◇ ◇ ◇

 次の日、ジェニファーとゲオルグが城の庭園に行くと、レイラが待っていた。ユウミとサラも一緒だ。

「さあ、勝負よ、ジェニファー」

 レイラが緊張した面持ちで言った。

「私が勝ったら、ミレイア様をシャルロ王国から連れ戻してちょうだい」
「何言ってんの?」

 ジェニファーは笑っている。

「私は最強の強さを手に入れたのよ。じゃあ、私が勝ったら、あなたは私にひれ付しなさい。いや、そんな必要ないかもね。3分後にはあなたはぶっ倒れているのだから」
「何をバカなことを!」

 レイラは三歩後退し、素早く杖から魔法を放った。

「グラビティ・ネブリナ!」

 ググググ……。

 ジェニファーの頭の上に、重力がのしかかる。重力の術だ。これはミレイア直伝だった。

 しかし、ジェニファーは(すず)しい顔だ。ジェニファーには、まったく重力が効いていない?

「何なのこれ? お遊戯(ゆうぎ)? ──はああああっ」

 ジェニファーが軽くゴルバルの杖を振ると、レイラは5メートル吹っ飛んだ。

 な、何という魔力……?

 レイラは驚きの表情で、ジェニファーを見ていた。

 ジェニファーは、まるで虫けらでも見るように、レイラを見下ろしていた。