スコラ・シャルロ魔法競技会、予選1日目の夜7時──。
私とナギトは、洞窟の入り口付近で、焚き火をした。焚き火の中では、森で捕獲した大ウサギがセルクの大きな葉にくるまれて、蒸し焼きになっている。
この予選では、食料の持ち込みは禁止だ。森で採れたものを調理するしかない。
「相手のゾーヤは、どんな女の子なんですか?」
私がナギトに聞くと、ナギトは焚き火に木の枝を入れながら言った。
「ゾーヤは気が強ぇ。貧困家庭の出身だよ。両親は離婚している。ゾーヤはアルバイトで学費を支払っているんだ」
「ああ……そうなんですか。でも、どうしてジェニファーとつるんでいるんですか?」
「ジェニファーは色々、物を配っている。ゾーヤにも与えているはずだ。ゾーヤは高額なものをもらえて、うれしいんだろ。──よし、焼けた」
蒸し焼きにされた大ウサギの肉は、すっかり内部まで火が通ったようだ。
パレックの葉を煮てとった塩を、ウサギ肉にかけて食べる……。
(ウサギ肉かあ……)
私はちょっと躊躇した。あのかわいいウサギでしょ。うーん……。でも、明日の勝負に向けて、力をつけておかないと。
えーい!
パクッ
「あ」
私は声を上げた。
「お、美味しっ……! 美味しいです! 味が深い! 高級な鶏肉みたいに繊細!」
「そうだろ。お前が採ってきたヨモギとか、香草も詰め込んで蒸し焼きにしたから、臭みは完全に消え去っているはずだ」
ナギトは胸を張った。私は、焼きウサギ肉を食べる手が止まらない。本当は食いしん坊な私……。
私たちは、2匹丸ごと、大ウサギを食べてしまった。
「明日の話だがな」
ナギトが言った。
「ゾーヤが相手だということは分かっている。場所は、地図の×印の場所。で、ゾーヤの競技パートナーだが……」
「分かるんですか?」
「多分、ランベール・ロデアルって男子だ。生真面目な野郎でさ。ゾーヤと仲が良いから、多分」
「あ、ランベール君は知ってます。勇者コースでは、かなり成績優秀だと聞いてます」
「ふーん、そうか。……オレは筆記試験がダメだからよ」
デザートは森で採れたリンゴだ。私が洞窟近くで見つけた。少し青いけど、結構美味しそう。
私はナギトにナイフを借り、リンゴの皮むきに挑戦した。……実は、リンゴの皮むきなんて、したことがない。料理全般もしたことがない。
聖女の仕事と勉強でいそがしかったから……。
とにかく、何か役に立とう……あ!
「痛ッ」
「大丈夫か!」
ナギトは私の手を取った。
(あっ……ナギト)
私の左親指からは、少し血が出ている。ナイフで親指を切ってしまったのだ。
ナギトは、私の左親指に絆創膏を張ってくれた。
「オレは武器を扱うからな。絆創膏くらいは、常備してるのさ。おい、そのリンゴを貸してみろ」
「えー」
「えー、じゃねえよ。ほら、ほく見てみな」
私はナギトに近づいて、ナギトの手元をよく見た。
「ナイフの刃元に、親指を当てるんだ。リンゴの持つほうの親指の部分は、刃に当たらない部分に置く」
「あ、う、うん」
ナギトの体温を感じる。
ナギトはリンゴをくるくる回して、器用に皮をむいていく。
「リンゴの正面が、いつも前に来るんだ」
「……うん。分かった……」
リンゴは2人で切り分けたけど、甘酸っぱくて、とても美味しかった。
◇ ◇ ◇
「さて、寝るか」
ナギトはあくびをしながら言った。
私とナギトは、歯磨き用植物ゴムを(これは持ち込み許可されていた)噛んだ。
それから、洞窟内に草と葉っぱを敷きつめてベッドを作り、寝ることにした。
◇ ◇ ◇
次の日の朝、地図の×印の場所に行ってみた。
洞窟から5キロ離れた場所にある。
そこには立派だが古ぼけた城が建っていた。
私とナギトは古城に入った。中は薄汚れている。廊下も部屋も、ほこりと土だらけだ。
王の間は、2階の奥にある、広いホールだった。奥に王様と女王用の立派な椅子がある。
「ナギト君──待ちかねたぞ。勝負だ」
少年の声がした。王座の後ろから、長髪の少年が現れた。
(あっ……ランベール・ロデアル!)
その少年は、2年A組の勇者コースの生徒、ランベールだった。
「ランベールか。もう戦闘しようって?」
ナギトはそう言いつつ、自分も背中の魔力模擬刀を引き抜いた。危険を察知したからだろう。
「いくぞ!」
ランベールが走った!
タッ
ズバアアアアッ
ランベールは、横に魔力模擬刀を払った。
しかし、ナギトはそれを避けていた!
「ランベール! 気が早いヤツだ!」
今度はナギトの攻撃だった。
シャッ
ナギトの狙いは正確だった。ランベールの右腕を、上から斬り下げた!
ガキイイイッ
「な、なにいいっ?」
ナギトは驚きの声を上げた。
刃と刃がぶつかったのだ。
間一髪、ランベールは自分の魔力模擬刀により、ナギトの上段斬りを防いだのだ。
魔力模擬刀は、刃の部分が魔法の光でできており、体の一部を斬られるとそこに電撃が走る。命に別状はない。
「ハハハ! なかなか良い試合じゃないか!」
女子の声がした。
いつの間にか玉座の後ろに立っていたのは、長い黒髪の女の子だった。
黒いローブを羽織った魔法使いコースの生徒──ゾーヤだ。
「ランベールはあたしの競技パートナーさ。ミレイア、しばらく見物といこう」
ナギトがランベールの腹を蹴り上げる。
ランベールは吹っ飛んだ!
「次はてめぇだ! ゾーヤ!」
ナギトが向かった先には、ゾーヤがいた。
ゾーヤは身構えたが、ランベールは魔力模擬刀を投げていた。その刃は、ナギトの足をかすめていた。
「くそっ」
ナギトは片膝をついた。
恐らくナギトの膝に、電撃が走っているのだろう。
「ナギト! 私があなたを守る!」
私は、ナギトの前に立ち、叫んだ。
一方のランベールも、右腕を抑えている。
刃と刃が重なった瞬間、右腕のどこかを負傷したのだろう。
「ゾーヤ! 二人は負傷しました! 今度は私とあなたが勝負よ」
私は宙から、聖女の杖を取り出した。
ゾーヤはニヤリと笑って、魔法使いの杖を身構える。
──戦闘開始だ!
私とナギトは、洞窟の入り口付近で、焚き火をした。焚き火の中では、森で捕獲した大ウサギがセルクの大きな葉にくるまれて、蒸し焼きになっている。
この予選では、食料の持ち込みは禁止だ。森で採れたものを調理するしかない。
「相手のゾーヤは、どんな女の子なんですか?」
私がナギトに聞くと、ナギトは焚き火に木の枝を入れながら言った。
「ゾーヤは気が強ぇ。貧困家庭の出身だよ。両親は離婚している。ゾーヤはアルバイトで学費を支払っているんだ」
「ああ……そうなんですか。でも、どうしてジェニファーとつるんでいるんですか?」
「ジェニファーは色々、物を配っている。ゾーヤにも与えているはずだ。ゾーヤは高額なものをもらえて、うれしいんだろ。──よし、焼けた」
蒸し焼きにされた大ウサギの肉は、すっかり内部まで火が通ったようだ。
パレックの葉を煮てとった塩を、ウサギ肉にかけて食べる……。
(ウサギ肉かあ……)
私はちょっと躊躇した。あのかわいいウサギでしょ。うーん……。でも、明日の勝負に向けて、力をつけておかないと。
えーい!
パクッ
「あ」
私は声を上げた。
「お、美味しっ……! 美味しいです! 味が深い! 高級な鶏肉みたいに繊細!」
「そうだろ。お前が採ってきたヨモギとか、香草も詰め込んで蒸し焼きにしたから、臭みは完全に消え去っているはずだ」
ナギトは胸を張った。私は、焼きウサギ肉を食べる手が止まらない。本当は食いしん坊な私……。
私たちは、2匹丸ごと、大ウサギを食べてしまった。
「明日の話だがな」
ナギトが言った。
「ゾーヤが相手だということは分かっている。場所は、地図の×印の場所。で、ゾーヤの競技パートナーだが……」
「分かるんですか?」
「多分、ランベール・ロデアルって男子だ。生真面目な野郎でさ。ゾーヤと仲が良いから、多分」
「あ、ランベール君は知ってます。勇者コースでは、かなり成績優秀だと聞いてます」
「ふーん、そうか。……オレは筆記試験がダメだからよ」
デザートは森で採れたリンゴだ。私が洞窟近くで見つけた。少し青いけど、結構美味しそう。
私はナギトにナイフを借り、リンゴの皮むきに挑戦した。……実は、リンゴの皮むきなんて、したことがない。料理全般もしたことがない。
聖女の仕事と勉強でいそがしかったから……。
とにかく、何か役に立とう……あ!
「痛ッ」
「大丈夫か!」
ナギトは私の手を取った。
(あっ……ナギト)
私の左親指からは、少し血が出ている。ナイフで親指を切ってしまったのだ。
ナギトは、私の左親指に絆創膏を張ってくれた。
「オレは武器を扱うからな。絆創膏くらいは、常備してるのさ。おい、そのリンゴを貸してみろ」
「えー」
「えー、じゃねえよ。ほら、ほく見てみな」
私はナギトに近づいて、ナギトの手元をよく見た。
「ナイフの刃元に、親指を当てるんだ。リンゴの持つほうの親指の部分は、刃に当たらない部分に置く」
「あ、う、うん」
ナギトの体温を感じる。
ナギトはリンゴをくるくる回して、器用に皮をむいていく。
「リンゴの正面が、いつも前に来るんだ」
「……うん。分かった……」
リンゴは2人で切り分けたけど、甘酸っぱくて、とても美味しかった。
◇ ◇ ◇
「さて、寝るか」
ナギトはあくびをしながら言った。
私とナギトは、歯磨き用植物ゴムを(これは持ち込み許可されていた)噛んだ。
それから、洞窟内に草と葉っぱを敷きつめてベッドを作り、寝ることにした。
◇ ◇ ◇
次の日の朝、地図の×印の場所に行ってみた。
洞窟から5キロ離れた場所にある。
そこには立派だが古ぼけた城が建っていた。
私とナギトは古城に入った。中は薄汚れている。廊下も部屋も、ほこりと土だらけだ。
王の間は、2階の奥にある、広いホールだった。奥に王様と女王用の立派な椅子がある。
「ナギト君──待ちかねたぞ。勝負だ」
少年の声がした。王座の後ろから、長髪の少年が現れた。
(あっ……ランベール・ロデアル!)
その少年は、2年A組の勇者コースの生徒、ランベールだった。
「ランベールか。もう戦闘しようって?」
ナギトはそう言いつつ、自分も背中の魔力模擬刀を引き抜いた。危険を察知したからだろう。
「いくぞ!」
ランベールが走った!
タッ
ズバアアアアッ
ランベールは、横に魔力模擬刀を払った。
しかし、ナギトはそれを避けていた!
「ランベール! 気が早いヤツだ!」
今度はナギトの攻撃だった。
シャッ
ナギトの狙いは正確だった。ランベールの右腕を、上から斬り下げた!
ガキイイイッ
「な、なにいいっ?」
ナギトは驚きの声を上げた。
刃と刃がぶつかったのだ。
間一髪、ランベールは自分の魔力模擬刀により、ナギトの上段斬りを防いだのだ。
魔力模擬刀は、刃の部分が魔法の光でできており、体の一部を斬られるとそこに電撃が走る。命に別状はない。
「ハハハ! なかなか良い試合じゃないか!」
女子の声がした。
いつの間にか玉座の後ろに立っていたのは、長い黒髪の女の子だった。
黒いローブを羽織った魔法使いコースの生徒──ゾーヤだ。
「ランベールはあたしの競技パートナーさ。ミレイア、しばらく見物といこう」
ナギトがランベールの腹を蹴り上げる。
ランベールは吹っ飛んだ!
「次はてめぇだ! ゾーヤ!」
ナギトが向かった先には、ゾーヤがいた。
ゾーヤは身構えたが、ランベールは魔力模擬刀を投げていた。その刃は、ナギトの足をかすめていた。
「くそっ」
ナギトは片膝をついた。
恐らくナギトの膝に、電撃が走っているのだろう。
「ナギト! 私があなたを守る!」
私は、ナギトの前に立ち、叫んだ。
一方のランベールも、右腕を抑えている。
刃と刃が重なった瞬間、右腕のどこかを負傷したのだろう。
「ゾーヤ! 二人は負傷しました! 今度は私とあなたが勝負よ」
私は宙から、聖女の杖を取り出した。
ゾーヤはニヤリと笑って、魔法使いの杖を身構える。
──戦闘開始だ!