1ヶ月後──。

 私──ミレイアは、スコラ・シャルロ魔法競技会の参加競技者に決定した。

 多分、マデリーン校長が推薦(すいせん)してくれたんだろう。

 土曜日の午後2時、私は競技パートナーのナギトと一緒に、馬車に乗り込んだ。

 予選の場所、シャルロ王国の東、リリシュタインの森に向かうためだ。

「結局、対戦相手は分からないのですか?」

 馬車にゆられながらナギトに聞くと、彼は答えた。

「分からないな。予選は4組、計8名選ばれている、ってことは分かるんだが」

 ◇ ◇ ◇

 午後3時30分──。

「着いたわよん」

 御者(ぎょしゃ)のマリオット先生が言った。
 目の前は、森が広がっている。リリシュタインの森だ。

「スコラ・シャルロ魔法競技会の予選A組は、このリリシュタインの森で2日間、戦うわよ」

 マリオット先生は、口ひげをなでながら言った。

「相手も同時刻、森の西から入るはず。火や雷の魔法も使用していいわ。木々や植物に、火は燃え移らないように、魔法がかけられているから──。怪我しないことを祈ります」

 マリオット先生は、私に森の地図を手渡してくれて、投げキッスを送ってくれた。

 ど、どうも……。

 ──私とナギトは、リリシュタインの森に入っていった。

 ◇ ◇ ◇

 森の中は湿(しめ)り気を感じる。
 当たり前だが、周囲は木々と植物、地面は土。
 都会からほとんど出たことがない私には、とても珍しい光景だった。

「オレが前を行く」

 ナギトは言った。

「お前は後ろを見張ってくれ」
「ええ」

 ナギトがズンズン歩いていく。

 ──その時!

「ミレイア!」

 ナギトは急に私を抱きしめ、私を地面に押し倒した。

 ガスッ
 ガスッ
 ドスッ
 
 鋭い音がして、何かが、地面に突き刺さった!

 あれは! 魔法でできた光の矢! しかも三本──。

 上を見上げると、ぼんやりとした光る透明の霊体は、弓矢を構えて私たちを狙っている。

「ハアアッ」

 ナギトはナイフを投げ、頭上の霊体を攻撃した。しかし、突き抜ける。

 ナギトが助けてくれた……? あの場所にいたら、魔法の矢が、私の腕に刺さっていた!

「いきます!」

 私は宙から聖女の杖を取り出し、身構え、魔法を放った。

「天の(さば)きをくらえ! アストラペ・ライトニア!」

 バーン! 

 超高速で、私の魔法の雷が、天から落ちた。この雷は霊体にも損傷(そんしょう)を与える。なぜなら、この雷は、霊の世界に存在し、この世に落ちてきたものだからだ。

『ウググッ』

 霊体は少しは焼け()げ、ギロリと私をにらんだ。脳天から雷が落ちたのだ。ダメージはかなり大きいはず。

『や、やるね……。予想通り、ミレイアか』
「あ、あなたは?」

 私が声を上げると、霊体の代わりのナギトが言った。

「あいつ、ゾーヤだ。ゾーヤ・ランディッシュの声だぜ。霊体だから、顔はよく分からんがな……。魔法使いコースの女子だ……。あいつが、今回、オレたちの相手だ!」
『ふん、バレたか。そうだよ、あたしはゾーヤ。肉体から霊体だけ抜け出し、挨拶(あいさつ)にきたよ。私の肉体は、ここから遠い場所にある』

 霊体はクスクス笑った。私はゾーヤを知っている。同じクラスの女子だ。ジェニファーの取り巻きの一人でもある。

『ジェニファーに言われたんだよ。ミレイアが来るはずだから、容赦(ようしゃ)なく、叩きのめせってさ!』
「ふーん……でもそれ、すごい技よ! 『幽体離脱』よね?」

 私は敵であるゾーヤを()めた。

「どうして、そんなすごい技を使えるあなたが、ジェニファーなんかとつるんでいるんですか?」
『うるさい!』

 霊体のゾーヤは声を上げた。

『ミレイア、あんたがムカつくだけさ。真面目ぶっちゃってさ。さあ、地図を持ってきたかい? ×印が書いてあるだろう。そこで、明日の朝、正々堂々、勝負だ。あたしのパートナーも来るからね。──じゃあな!』

 霊体のゾーヤは、ヒュッと姿を消してしまった。本体に戻ったんだろう。

「ゾーヤは、明日、どこかで待っていると言ってたな」

 ナギトはマリオット先生からもらった地図を広げた。

 地図を見てみると、森の中央部に、確かに×印がついている。
 これは……?

「へえ? あんがいお宝があったりしてな。明日、行ってみようぜ。今日はもう夕方5時だ。下手に動くと、森にひそむ猛獣(もうじゅう)が襲ってくる。──おっしゃ、晩飯(ばんめし)の用意をするぜ。──っと、見つけた!」

 ナギトは左腰につけた小さい(さや)から、また小型ナイフを取り出し──。

 ヒュン

 投げた!

「キキッ」

 そんな鳴き声がした。ナギトが前方に駆けていく。

「ほーれみろ。大当たりだ」

 ナギトは大きな茶色いウサギを抱えていた。ぐったりしたウサギの脇腹に、ナイフが突き刺さっている。

 ええっ? 見えなかった。そうか、大ウサギの体毛が、土と同色だから分かりにくかったのか。

「おっと、忘れちゃいけない。血抜きをするぜ」

 ナギトはウサギに刺さっているナイフを、もう一度ウサギの下腹部に刺し、上の方に斬りあげた。

 血が飛びだす。

 ナギトはウサギの内臓を取り出し、そのウサギを大きな葉っぱの上に置いた。

「血をぬいておくと、臭みがとれて肉が美味しくなるんだ」
「うわああ……」
 
 私は顔をしかめていたが、なぜか「見なければいけない」という使命感がわいて、解体されたウサギを見ていた。

「ミレイア、ヨモギだ。他に薬草類を()んでこいよ。『パレック』って植物も忘れるな」

 ナギトは私に言った。

「あ、はいっ」

 おそらく、ウサギ肉の臭み消しに使うんだろう。私は周辺を探し周り、ヨモギ、ミント、オレガノなどを見つけた。
 
 薬草類のあつかいは、アルバナーク婆に習ったから、慣れている。パレックもあった。これはどんな植物だっけ? えーっと……。

 私が考えていると、ナギトはもう1匹、大ウサギを仕留めて、大はしゃぎだ。
 
 ◇ ◇ ◇

 私たちはそこから2キロ歩き、小川の近くに洞窟を見つけた。

「ここを宿にしよう」

 ナギトが言った。

 あれ? もしかして、ナギトと一緒に、1晩過ごすことになるの?

 ……男の子と一緒に、夜をすごすなんて……初めて……。