勇者・聖女養成学校──スコラ・シャルロの休日がやってきた。その日は土曜日。
ジェニファーは、その日、エクセン王国のエクセン城に帰ってきた。
軍隊指揮官という任務を、週1回は果たさなければならない。
「おう、ジェニファーか。お前、どこに行ってたんだ?」
レドリー王子が、朝っぱらから、千鳥足で、ジェニファーに言った。
「レドリー……酒飲んでるでしょ」
ジェニファーは虫でも見るように、レドリーを見た。
「まーな。そろそろデートしようぜぇ」
「今日はいそがしいのよ」
「ああ、軍隊指揮官の仕事か。がんばってな」
レドリー王子は、また酒場に行くようだ。
その時、軍隊の副隊長──つまりジェニファーの部下、ゴーバスが急いでやってきた。
「ジェニファー様! ベスタ墓地に、スケルトンナイトが7匹襲来しました!」
「7匹? ちょっと数が多いわね」
「聖女の結界がなくなっておりますから……」
「お黙り! でも、今日は味方を連れてきたわよ」
「……僕だ」
すると、ジェニファーの後ろから、黒い服を着た、何とも怪しい少年がスッとあらわれた。
「ゆ、幽霊の類か!」
ゴーバスが剣を構えようとしたが、ジェニファーがあわてて止めた。
「違う違う! 彼はスコラ・シャルロの、クラスメート、ゲオルグ・ザイファよ。勇者を目指している生徒なの。勇者コースでは、学年トップクラスよ」
「ゲオルグ・ザイファです。よろしく……クククッ」
ゲオルグという怪しい少年は、黒い髪の毛をかきあげながら、言った。目の下にクマができている。
「ジェニファー様、この少年、大丈夫ですか?」
ゴーバスが心配して聞くと、ゲオルグはニヤリと笑った。
「僕はね、勇者を目指す身でありながら、黒魔法をあつかえるんだ。学生では、僕ほど、黒魔法をあつかえる者はいないだろう……。よろしくね、ゴーバスさん……クックック……」
「き、君も墓地に行くのか?」
「そうだ。ジェニファーはゴルバルの杖という、最高の杖を持っている。その使い方を、僕が指導してあげるのさ。僕は、今度開かれる、魔法競技会の指導者というわけだ」
「し、しかし、相手は魔物だ。遊びじゃない」
「ジェニファーと僕で、スケルトンナイトを、せん滅できる」
「な、何だって?」
ゴーバスは心配そうな表情で、ジェニファーを見た。ジェニファーは胸を張って、「その通りよ」と言った。
……い、一体、どうなってるんだ? このジェニファーの自信は?
◇ ◇ ◇
ジェニファーとゲオルグは、ゴーバスと5名の兵士と一緒に、馬車に乗り込んだ。
エクセン城の北、ベスタ墓地は、湿地帯だ。墓地から1キロ離れた場所で、降りなければならない。
8名が30分歩くと、ようやく墓地にたどり着いた。
──その時!
「何をしに来た……。おろかな人間どもよ! 立ち去れ!」
「帰れ!」
「帰らなければ、呪いの剣で、八つ裂きにするぞ」
恐ろしい声が周囲に響く! 墓の陰から、スケルトンナイトが飛びだした! 剣を持った、骸骨の魔物だ。
「ジェニファー! ゴルバルの杖を振ってみよ!」
ゲオルグが声を上げた。
「そのさい、空気が噴出するイメージを、頭の中に作り上げる!」
「分かったわ!」
ジェニファーはカバンから、ゴルバルの杖を取り出した。
そして頭の中で空気が噴出するイメージをしながら、杖を振った。
ゲシイイッ
すると、瞬時に空気の渦ができあがり、スケルトンナイト1匹を吹っ飛ばした。
「ギギッ?」
スケルトンナイトが大きく飛び上がって、ジェニファーの方に向かってくる。
「はあああっ!」
ジェニファーは再び、ゴルバルの杖を振った。
「ギエアアアアッ!」
ガシャアアッ
また、スケルトンナイトが叫び声をあげて吹っ飛ぶ。墓にぶつかて、粉々になった。
「す、すごいわ! ゴルバルの杖の威力がここまでとは! 私も天才ね!」
ジェニファーは胸を張った。
「調子がよろしいようだ。今度は火を使って、スケルトンナイトを燃やしてしまおう」
ゲオルグの指導の通り、ジェニファーは火を頭の中でイメージした。そして杖を振るう! その途端、火の球が高速でスケルトンナイトに向かっていき──。
ボワアアアッ……ゲシイイッ
スケルトンナイトを燃やして尽くした! 退治した魔物たちは宝石に変化してしまった。
「私って天才! すごい! ミレイアなんかよりすごい魔法の使い手よ」
ジェニファーがキャーキャー喜んでいる光景を、呆然と見ていたのは、ゴーバス副隊長と兵士たちであった。
「あ、あのー」
ゴーバスがジェニファーに聞いた。
「我々は何すれば?」
「邪魔だから、見学してて」
「け、見学……」
ゴーバスと兵士たちは、体育座りで、墓地の横の木の陰に座ることにした。まるでひなたぼっこだ。
ゲオルグはクスクス笑いながら、言った。
「ではジェニファー、今度は魔物を召喚しよう」
「魔物を召喚……えええっ?」
ジェニファーはちょっと不安になった。
「魔物召喚って……それはヤバいんじゃ」
「いや、魔物といっても、魔竜ダークドラゴンの子どもを呼び出すだけだ。たいしたことはない」
「ドラゴンの子どもかあ。それならなんとか大丈夫かな」
「では、集中し、魔法陣をイメージせよ! そして『いでよ、魔竜リトルダークドラゴン!』と唱えるのだ!」
「わ、わかった!」
ジェニファーは集中し、頭の中で魔法陣のイメージを作り上げた。ゴルバルの杖が怪しく輝く。
すると、本当に地面に魔方陣が作り上げられた。
ジェニファーは叫んだ。
「いでよ! 魔竜リトルダークドラゴン!」
グオオオオオッ
地面の魔法陣からニュッと現れたのは、魔竜リトルダークドラゴンだ! 子どもの魔竜だ! 牛一頭くらいの大きさである。大人のダークドラゴンは、その10倍の体長だが。
「魔物を破壊せよ!」
ジェニファーはリトルダークドラゴンに命令すると──。
バキイッ
ガシイッ
ベキイッ
リトルダークドラゴンは、スケルトンナイト3匹を、上から滑空し、押し潰した。
「あははは!」
ジェニファーが笑い声を上げた。
「すごい、すごいわ! 最高よ、ゴルバルの杖の威力は! 私の才能も最高だけど……ん?」
すると、リトルダークドラゴンは、墓地を破壊しはじめた。
グワシイッ
「あっ……」
リトルダークドラゴンは、ガーディアン卿の墓を壊した! ガーディアン卿は120年前の貴族で、エクセン王国の建国に尽力した、エクセン王国の大偉人である。
その墓を破壊してしまったのだ。
「やばい! な、なんとかしてよ!」
「……ふーむ」
ゲオルグはあごに手をやって、深く考えている。
「召喚した魔物は、後30分は魔法陣に戻せないな。クククッ」
「ククク、じゃねええーっ」
ジェニファーは叫んで、ゴルバルの杖でゲオルグの頭をどついた。
「どうするのよ! エクセンの大偉人の墓を壊しちゃったじゃないの!」
「それだけじゃない」
ゲオルグはクスクス笑いながら言った。
「エクセン王族の、18代目王と王妃の墓も壊したね」
「ああああーっ!」
レドリー王子の祖父と祖母の墓だ。粉々に破壊されている。ジェニファーは失神しそうになった。
ゴーバスと兵士たちは、膝をかかえて、それを見ていた。
一人の兵士はつぶやいた。
「あの二人とリトルダークドラゴン……どうします、副隊長」
「ほっとけ」
ゴーバスは頭を抱えながら、静かに言った。
ジェニファーは、その日、エクセン王国のエクセン城に帰ってきた。
軍隊指揮官という任務を、週1回は果たさなければならない。
「おう、ジェニファーか。お前、どこに行ってたんだ?」
レドリー王子が、朝っぱらから、千鳥足で、ジェニファーに言った。
「レドリー……酒飲んでるでしょ」
ジェニファーは虫でも見るように、レドリーを見た。
「まーな。そろそろデートしようぜぇ」
「今日はいそがしいのよ」
「ああ、軍隊指揮官の仕事か。がんばってな」
レドリー王子は、また酒場に行くようだ。
その時、軍隊の副隊長──つまりジェニファーの部下、ゴーバスが急いでやってきた。
「ジェニファー様! ベスタ墓地に、スケルトンナイトが7匹襲来しました!」
「7匹? ちょっと数が多いわね」
「聖女の結界がなくなっておりますから……」
「お黙り! でも、今日は味方を連れてきたわよ」
「……僕だ」
すると、ジェニファーの後ろから、黒い服を着た、何とも怪しい少年がスッとあらわれた。
「ゆ、幽霊の類か!」
ゴーバスが剣を構えようとしたが、ジェニファーがあわてて止めた。
「違う違う! 彼はスコラ・シャルロの、クラスメート、ゲオルグ・ザイファよ。勇者を目指している生徒なの。勇者コースでは、学年トップクラスよ」
「ゲオルグ・ザイファです。よろしく……クククッ」
ゲオルグという怪しい少年は、黒い髪の毛をかきあげながら、言った。目の下にクマができている。
「ジェニファー様、この少年、大丈夫ですか?」
ゴーバスが心配して聞くと、ゲオルグはニヤリと笑った。
「僕はね、勇者を目指す身でありながら、黒魔法をあつかえるんだ。学生では、僕ほど、黒魔法をあつかえる者はいないだろう……。よろしくね、ゴーバスさん……クックック……」
「き、君も墓地に行くのか?」
「そうだ。ジェニファーはゴルバルの杖という、最高の杖を持っている。その使い方を、僕が指導してあげるのさ。僕は、今度開かれる、魔法競技会の指導者というわけだ」
「し、しかし、相手は魔物だ。遊びじゃない」
「ジェニファーと僕で、スケルトンナイトを、せん滅できる」
「な、何だって?」
ゴーバスは心配そうな表情で、ジェニファーを見た。ジェニファーは胸を張って、「その通りよ」と言った。
……い、一体、どうなってるんだ? このジェニファーの自信は?
◇ ◇ ◇
ジェニファーとゲオルグは、ゴーバスと5名の兵士と一緒に、馬車に乗り込んだ。
エクセン城の北、ベスタ墓地は、湿地帯だ。墓地から1キロ離れた場所で、降りなければならない。
8名が30分歩くと、ようやく墓地にたどり着いた。
──その時!
「何をしに来た……。おろかな人間どもよ! 立ち去れ!」
「帰れ!」
「帰らなければ、呪いの剣で、八つ裂きにするぞ」
恐ろしい声が周囲に響く! 墓の陰から、スケルトンナイトが飛びだした! 剣を持った、骸骨の魔物だ。
「ジェニファー! ゴルバルの杖を振ってみよ!」
ゲオルグが声を上げた。
「そのさい、空気が噴出するイメージを、頭の中に作り上げる!」
「分かったわ!」
ジェニファーはカバンから、ゴルバルの杖を取り出した。
そして頭の中で空気が噴出するイメージをしながら、杖を振った。
ゲシイイッ
すると、瞬時に空気の渦ができあがり、スケルトンナイト1匹を吹っ飛ばした。
「ギギッ?」
スケルトンナイトが大きく飛び上がって、ジェニファーの方に向かってくる。
「はあああっ!」
ジェニファーは再び、ゴルバルの杖を振った。
「ギエアアアアッ!」
ガシャアアッ
また、スケルトンナイトが叫び声をあげて吹っ飛ぶ。墓にぶつかて、粉々になった。
「す、すごいわ! ゴルバルの杖の威力がここまでとは! 私も天才ね!」
ジェニファーは胸を張った。
「調子がよろしいようだ。今度は火を使って、スケルトンナイトを燃やしてしまおう」
ゲオルグの指導の通り、ジェニファーは火を頭の中でイメージした。そして杖を振るう! その途端、火の球が高速でスケルトンナイトに向かっていき──。
ボワアアアッ……ゲシイイッ
スケルトンナイトを燃やして尽くした! 退治した魔物たちは宝石に変化してしまった。
「私って天才! すごい! ミレイアなんかよりすごい魔法の使い手よ」
ジェニファーがキャーキャー喜んでいる光景を、呆然と見ていたのは、ゴーバス副隊長と兵士たちであった。
「あ、あのー」
ゴーバスがジェニファーに聞いた。
「我々は何すれば?」
「邪魔だから、見学してて」
「け、見学……」
ゴーバスと兵士たちは、体育座りで、墓地の横の木の陰に座ることにした。まるでひなたぼっこだ。
ゲオルグはクスクス笑いながら、言った。
「ではジェニファー、今度は魔物を召喚しよう」
「魔物を召喚……えええっ?」
ジェニファーはちょっと不安になった。
「魔物召喚って……それはヤバいんじゃ」
「いや、魔物といっても、魔竜ダークドラゴンの子どもを呼び出すだけだ。たいしたことはない」
「ドラゴンの子どもかあ。それならなんとか大丈夫かな」
「では、集中し、魔法陣をイメージせよ! そして『いでよ、魔竜リトルダークドラゴン!』と唱えるのだ!」
「わ、わかった!」
ジェニファーは集中し、頭の中で魔法陣のイメージを作り上げた。ゴルバルの杖が怪しく輝く。
すると、本当に地面に魔方陣が作り上げられた。
ジェニファーは叫んだ。
「いでよ! 魔竜リトルダークドラゴン!」
グオオオオオッ
地面の魔法陣からニュッと現れたのは、魔竜リトルダークドラゴンだ! 子どもの魔竜だ! 牛一頭くらいの大きさである。大人のダークドラゴンは、その10倍の体長だが。
「魔物を破壊せよ!」
ジェニファーはリトルダークドラゴンに命令すると──。
バキイッ
ガシイッ
ベキイッ
リトルダークドラゴンは、スケルトンナイト3匹を、上から滑空し、押し潰した。
「あははは!」
ジェニファーが笑い声を上げた。
「すごい、すごいわ! 最高よ、ゴルバルの杖の威力は! 私の才能も最高だけど……ん?」
すると、リトルダークドラゴンは、墓地を破壊しはじめた。
グワシイッ
「あっ……」
リトルダークドラゴンは、ガーディアン卿の墓を壊した! ガーディアン卿は120年前の貴族で、エクセン王国の建国に尽力した、エクセン王国の大偉人である。
その墓を破壊してしまったのだ。
「やばい! な、なんとかしてよ!」
「……ふーむ」
ゲオルグはあごに手をやって、深く考えている。
「召喚した魔物は、後30分は魔法陣に戻せないな。クククッ」
「ククク、じゃねええーっ」
ジェニファーは叫んで、ゴルバルの杖でゲオルグの頭をどついた。
「どうするのよ! エクセンの大偉人の墓を壊しちゃったじゃないの!」
「それだけじゃない」
ゲオルグはクスクス笑いながら言った。
「エクセン王族の、18代目王と王妃の墓も壊したね」
「ああああーっ!」
レドリー王子の祖父と祖母の墓だ。粉々に破壊されている。ジェニファーは失神しそうになった。
ゴーバスと兵士たちは、膝をかかえて、それを見ていた。
一人の兵士はつぶやいた。
「あの二人とリトルダークドラゴン……どうします、副隊長」
「ほっとけ」
ゴーバスは頭を抱えながら、静かに言った。