私はシャルロ王国の勇者、聖女養成学校──「スコラ・シャルロ」に編入した。
その学校の廊下で、ぶつかった男子は……!
「本当にいってぇなあ! ったく、誰だよ!」
「私だって痛いわよ!」
私は廊下に尻もちをつきながら、声を上げた。もう、その男子がナギトだと分かっていた。
ナギトは私を見て、わめいた。ナギトはまだ、私だと気付いていないらしい。
「何だ、こいつ! 思いっきりぶつかってきておいて」
「あなたこそ! ナギト!」
「おい、謝れっつーんだよ! ……って、あれ? 俺の名前を知ってるのか?」
私もナギトが目の前にいることに驚いていたが、ナギトも目を丸くしている。
「ミレイア? 何で、こんなところにいるんだ?」
私だってあわてている。
「そ、それはこっちのセリフ。ナギトこそ、なんで、スコラ・シャルロにいるの?」
「オレが、スコラ・シャルロの生徒だからに決まってんだろ。ええ? ……ってことは、お前、ここに編入したのか? 本当かよ!」
廊下にいた生徒たちも、噂をし始めた。
「ミレイアって、ナギト君と知り合いなの?」
すると、ジェニファーも騒ぎを聞きつけ、教室から廊下に出てきた。
ナギトを見て、目を丸くしている。
「まさか! この男の子、グリンマゼル団の子息でしょう? 新聞で見たことがあるわ。ミレイア、あなた、何でグリンマゼル団と知り合いなのよ?」
「ジェニファー? べ、別に、飛空艇で一緒になっただけだよ」
私はあわててジェニファーに言った。しかし、ジェニファーの興奮はおさまらない。
「グリンマゼル団といえば、エクセン王国の国家予算よりも、お金を持っているって有名よ! 何よ、ずるいわね!」
「あのね、ナギトとは知り合ったばっかりだし」
「くやしい! 王子のレドリーは最近冷たいし」
ジェニファーはブツブツ言っている。しかしナギトは構わず、私を助け起こしてくれた。周囲の女子からの悲鳴があがる。
「あ~! ミレイアがグリンマゼルのご子息と手をつないだわ!」
ナギトは騒いでいる女子たちをジロリと見やり、また私に言った。
「ミレイア、お前とは何か縁がありそうだな。じゃーな」
ナギトはさっさと歩いて行ってしまった。
「キーッ」
ジェニファーは猿のように、地団駄を踏んで、くやしがっている。
「『お前』だって! なんでそんなに親しげなのよ!」
ジェニファーは声を上げた。
「何かムカついたわ! 勝負よ、ミレイア!」
「しょ、勝負って?」
私はぽかんとして、ジェニファーを見た。ジェニファーは叫んだ。
「あんたも、『スコラ・シャルロ魔法競技会』に出場なさい!」
「ええ?」
スコラ・シャルロ魔法競技会とは、この学校の、聖女を目指す生徒たちが出場する、術や魔法を使った競技会らしい。
「私と勝負よ! どっちが優れた人間なのか、決着をつけてやる~!」
ジェニファーは一方的に騒いで、取り巻きたちと一緒に教室に戻ってしまった。
するとその時……。
『ミレイア・ミレスタさん。ミレイア・ミレスタさん。至急、校長室までおこし下さい』
魔導拡声器で放送がかかった。な、何なのよ、もう……。
私が職員室の奥の、校長室まで行くと、そこには30代後半くらいの痩せた美しい女性が、客用ソファに座っていた。クッキーをポリポリ食べている。
「ほこにふわって(そこに座って)」
女性……おそらく校長は、自分の前のソファを指差した。
「えーっと……このスコラ・シャルロの校長先生ですか?」
「そうでふよ(そうですよ)」
校長先生は紅茶を飲んで一息つくと、ニコッと笑った。
「ようこそ、エクセン王国の聖女、ミレイアさん!」
「ええっ?」
私は驚いた。私がエクセン王国の出身であることは、履歴書や手続き書に書いた。しかし、聖女であることは書いていないはずだ。
エクセン王国は無名で小国だし、聖女の名前など、あまり知られていないはずだ。
すると、校長先生は笑顔をたやさず、言った。
「だって、アルバナーク婆様の弟子でしょ。私もアルバナーク婆様の弟子よ」
「ええっ? そうなんですか?」
スコラ・シャルロの校長は、私の師匠、アルバナーク婆の弟子だったらしい。
校長は言った。
「私の名前は、ミランダ・マデリーンです。よろしく」
「え、はあ……。それで、何のご用でしょうか?」
「ミレイア、あなた、スコラ・シャルロの魔法競技会に出場なさい」
「ええええっ?」
ジェニファーとおんなじことを言ってる! 私は人と競うことが苦手で、好きじゃない。
「そういうのは、ちょっと苦手です」
「ミレイア、アルバナーク婆様の一番の教えは、何でしたか?」
「……『常に向上せよ』です」
「分かっているじゃないの。だったら、魔法競技会に出て、自分を高めなさい」
「でも……」
「ミレイア、あなた、『闇の堕天使』を視たのではないかしら?」
はっ……。そう、私は視た。確か、エクセン王国を出る時、不気味な、彫像のような、化け物のような謎の存在を視た!
「あ、あの存在を、マデリーン先生も視たのですか?」
「ええ、私も視ていますよ。この世界は近いうち、闇の堕天使が率いる、魔物たちとの大戦争になるでしょう」
「そ、そんな!」
や、闇の堕天使と魔物との大戦争!
「ミレイア、あなたはこの学校の魔法競技会に出場なさい。世界に危機がおとずれるかもしれません。その時に備え、自分を高めるのです」
「は、はあ……どうしよう」
私は、腕組みした。
この世界に危機……?
だとしたら、私は強くならなければいけない……!
その学校の廊下で、ぶつかった男子は……!
「本当にいってぇなあ! ったく、誰だよ!」
「私だって痛いわよ!」
私は廊下に尻もちをつきながら、声を上げた。もう、その男子がナギトだと分かっていた。
ナギトは私を見て、わめいた。ナギトはまだ、私だと気付いていないらしい。
「何だ、こいつ! 思いっきりぶつかってきておいて」
「あなたこそ! ナギト!」
「おい、謝れっつーんだよ! ……って、あれ? 俺の名前を知ってるのか?」
私もナギトが目の前にいることに驚いていたが、ナギトも目を丸くしている。
「ミレイア? 何で、こんなところにいるんだ?」
私だってあわてている。
「そ、それはこっちのセリフ。ナギトこそ、なんで、スコラ・シャルロにいるの?」
「オレが、スコラ・シャルロの生徒だからに決まってんだろ。ええ? ……ってことは、お前、ここに編入したのか? 本当かよ!」
廊下にいた生徒たちも、噂をし始めた。
「ミレイアって、ナギト君と知り合いなの?」
すると、ジェニファーも騒ぎを聞きつけ、教室から廊下に出てきた。
ナギトを見て、目を丸くしている。
「まさか! この男の子、グリンマゼル団の子息でしょう? 新聞で見たことがあるわ。ミレイア、あなた、何でグリンマゼル団と知り合いなのよ?」
「ジェニファー? べ、別に、飛空艇で一緒になっただけだよ」
私はあわててジェニファーに言った。しかし、ジェニファーの興奮はおさまらない。
「グリンマゼル団といえば、エクセン王国の国家予算よりも、お金を持っているって有名よ! 何よ、ずるいわね!」
「あのね、ナギトとは知り合ったばっかりだし」
「くやしい! 王子のレドリーは最近冷たいし」
ジェニファーはブツブツ言っている。しかしナギトは構わず、私を助け起こしてくれた。周囲の女子からの悲鳴があがる。
「あ~! ミレイアがグリンマゼルのご子息と手をつないだわ!」
ナギトは騒いでいる女子たちをジロリと見やり、また私に言った。
「ミレイア、お前とは何か縁がありそうだな。じゃーな」
ナギトはさっさと歩いて行ってしまった。
「キーッ」
ジェニファーは猿のように、地団駄を踏んで、くやしがっている。
「『お前』だって! なんでそんなに親しげなのよ!」
ジェニファーは声を上げた。
「何かムカついたわ! 勝負よ、ミレイア!」
「しょ、勝負って?」
私はぽかんとして、ジェニファーを見た。ジェニファーは叫んだ。
「あんたも、『スコラ・シャルロ魔法競技会』に出場なさい!」
「ええ?」
スコラ・シャルロ魔法競技会とは、この学校の、聖女を目指す生徒たちが出場する、術や魔法を使った競技会らしい。
「私と勝負よ! どっちが優れた人間なのか、決着をつけてやる~!」
ジェニファーは一方的に騒いで、取り巻きたちと一緒に教室に戻ってしまった。
するとその時……。
『ミレイア・ミレスタさん。ミレイア・ミレスタさん。至急、校長室までおこし下さい』
魔導拡声器で放送がかかった。な、何なのよ、もう……。
私が職員室の奥の、校長室まで行くと、そこには30代後半くらいの痩せた美しい女性が、客用ソファに座っていた。クッキーをポリポリ食べている。
「ほこにふわって(そこに座って)」
女性……おそらく校長は、自分の前のソファを指差した。
「えーっと……このスコラ・シャルロの校長先生ですか?」
「そうでふよ(そうですよ)」
校長先生は紅茶を飲んで一息つくと、ニコッと笑った。
「ようこそ、エクセン王国の聖女、ミレイアさん!」
「ええっ?」
私は驚いた。私がエクセン王国の出身であることは、履歴書や手続き書に書いた。しかし、聖女であることは書いていないはずだ。
エクセン王国は無名で小国だし、聖女の名前など、あまり知られていないはずだ。
すると、校長先生は笑顔をたやさず、言った。
「だって、アルバナーク婆様の弟子でしょ。私もアルバナーク婆様の弟子よ」
「ええっ? そうなんですか?」
スコラ・シャルロの校長は、私の師匠、アルバナーク婆の弟子だったらしい。
校長は言った。
「私の名前は、ミランダ・マデリーンです。よろしく」
「え、はあ……。それで、何のご用でしょうか?」
「ミレイア、あなた、スコラ・シャルロの魔法競技会に出場なさい」
「ええええっ?」
ジェニファーとおんなじことを言ってる! 私は人と競うことが苦手で、好きじゃない。
「そういうのは、ちょっと苦手です」
「ミレイア、アルバナーク婆様の一番の教えは、何でしたか?」
「……『常に向上せよ』です」
「分かっているじゃないの。だったら、魔法競技会に出て、自分を高めなさい」
「でも……」
「ミレイア、あなた、『闇の堕天使』を視たのではないかしら?」
はっ……。そう、私は視た。確か、エクセン王国を出る時、不気味な、彫像のような、化け物のような謎の存在を視た!
「あ、あの存在を、マデリーン先生も視たのですか?」
「ええ、私も視ていますよ。この世界は近いうち、闇の堕天使が率いる、魔物たちとの大戦争になるでしょう」
「そ、そんな!」
や、闇の堕天使と魔物との大戦争!
「ミレイア、あなたはこの学校の魔法競技会に出場なさい。世界に危機がおとずれるかもしれません。その時に備え、自分を高めるのです」
「は、はあ……どうしよう」
私は、腕組みした。
この世界に危機……?
だとしたら、私は強くならなければいけない……!