「君とはもうこれまでだ。婚約破棄(こんやくはき)をさせてもらおう!」

 レドリーは皆の前で、急に言い放った。

「何を言ってもムダだぞ、ミレイア!」

 ここは勇者・聖女養成学校エクセン校のパーティー会場。学校祭最終日のパーティーだ。

 私の名前はミレイア・ミレスタ。17歳。学生兼聖女だ。私の婚約者、クラスメートのレドリー王子が、パーティー会場で、私に婚約破棄(こんやくはき)を告げた……。

「ど、どうしてでございましょう」

 私は恋人──婚約者のレドリーに、あわてて聞いた。

 レドリー王子は長身。整った顔立ち。長めの茶色の髪の毛……。
 女生徒、皆が振り向くような容姿だ。まさに、このエクセン王国の王子様だった。しかし──。

「私はあなた様と、この国のために尽くしてきました。どうして私に、そんなことをおっしゃるのですか」

 私は17歳で学生だが、聖女という役職を任されている。エクセン王国全体──全土を私の魔法で作り上げた結界で覆う。その結界で、魔物の襲撃から、国を守ってきた。

 午前は学生という身分であるが、午後は12時から22時まで、聖女という仕事に没頭(ぼっとう)している。

 それなのに……。

「ミレイア、前から言おうと思っていたんだ! お前は真面目すぎて、笑いもしない。冗談も言わない。楽しそうにしない!」

 レドリーは舌打ちした。レドリーはこのエクセン王国の王子。私の死んだ父と、エクセン王は友人だった。その関係で、私とレドリーは2年前に付き合いだし、婚約することになった。

 彼は、私をジロリと見た。

「お前は、面白味に欠ける女だと言っているんだよ!」
「そ、それは……」

 確かにそうだ。私は笑うのも苦手だし、冗談一つも言えない少女だ。だけど、先代の大聖女、アルバナーク婆様(ばあさま)から、国民の皆様にふざけた姿を見せてはならぬと、教えを受けてきた。

「しかも、最近はイライラして、他の女生徒を蹴っ飛ばしたり、背中から水をかけたり、転ばしたりしているそうじゃないか。僕の将来の妻として、全くふさわしくない!」
「えっ?」

 そんなことはしていない!

「誤解です!」

 完全に誤解だ。私は、人に意地悪をするのが嫌いなのに。

 その時!

 パーティー会場がざわめいた。

「あーら、何をさわいでらっしゃるの? レドリー」

 私の前に現われたのは、貴族の娘、ジェニファーだ。

 シルクの輝くドレス、赤いハイヒールを身に付けている。

 そしてピンク色の口紅をひき、派手な化粧をしていた。

 私とレドリーのクラスメート。美しい金髪の髪の毛をなびかせ、レドリーにしなだれかかった。

「ジェニファー! ああ! 美しいよ」

 レドリーはジェニファーを熱く抱きしめた。

「まあ!」

 私は思わず声を上げた。

 ジェニファーも、聖女になるべく、勉強をしている。
 しかし、私が聖女なので、ジェニファーは別の役職──天候を予知したり、雨を少々降らせたりする、「天候の巫女」という役職についている。

 彼女の顔立ちは美しい。学校の1番の美女だ。

 私はあわてて聞いた。

「レドリー、私はあなたの婚約者なんですよ! なんでジェニファーを、抱き寄せるのです?」
「はあ? あんた、レドリーに婚約破棄(こんやくはき)を言い渡されたんじゃなくて?」

 ジェニファーは、私をゴミでも見るような目で言った。

「まったくにぶいわねえ! 私はレドリーと付き合っているのよ! 半年前からね!」

 何てこと! レドリーは私に黙って浮気を……! 

「ま、そういうこったな」

レドリーは悪びれず口を開いた。

「で、ここからが重要な問題なのだが。ミレイア、君には、聖女をやめてもらう」
「はっ?」
「聞こえなかったのか? ミレイア。これからは新時代。聖女という役職は廃止。魔物の防衛は、すべて我がエクセン兵士たちに任せるのだ。すなわち、結界での魔物の防衛を廃止する」
「そんなバカな!」

 聖女を……結界を廃止?
 どよどよっ、と周囲がざわめいた。さすがに、パーティー会場にいる生徒たちも、この言葉に驚いたようだ。

「無茶です!」

 私は抗弁(こうべん)した。

「兵士では大群の魔物が攻めてきた時に、対処しきれません! そ、そもそも、どうして聖女という役職を廃止するのですか?」
「ふん、あんたをエクセン王国から追放したいからよ」

 ジェニファーは言った。

「は?」
「これから、私とレドリーの仲を邪魔されちゃたまらないわ。聖女を廃止して、兵士に魔物を守らせる。これ、私のアイデアなの」

 私は、開いた口がふさがらなかった。

 パーティー会場には、魔法力に長けた先生方もいる。しかし、レドリーはエクセン王国の王子。誰も口出しできなかったのだ……。