数年後、アリサは小学校を卒業しました。

 小学校は五年生からほとんど登校していませんでした。

 周囲の大人達の(すす)めもあり、小学校は卒業でき、中学校に入ることになりました。

 中学生になったものの、二年生の途中からは、行くのがおっくうになりました。

 結局、二年留年して、通信制の高校に入り、卒業しました。

 ◇ ◇ ◇
 
 アリサは好きな絵の道に進むため、美術の専門学校に通うことになりました。

 彼女は大人になっていたのです。

 でも、ジャバーゾの夢は何度か見ました。

 悪い精霊(せいれい)はずっと彼女にとり()いていたのです。

 彼女は体がまだ重く、心も重たかったのです。

 大人になっても、涙を流していました。

 悲しい時は、絵を描いて没頭(ぼっとう)し、心の苦しみを忘れるしかありませんでした。

 ◇ ◇ ◇

 ある時、アリサは数年ぶりに、夢の中で精霊(せいれい)ジャバーゾに出会いました。

 ジャバーゾは年老いていました。

 善人の仮面を被り、苦しみの中にいる子どもを探しているようでした。

 でも、夢の中に立っている大人になったアリサには気付きません。

 ◇ ◇ ◇
 
 ジャバーゾは以前と同様に、(やみ)精霊界(せいれいかい)の王でした。

 アリサはジャバーゾに対して怒りに燃え、彼の行動を見守りました。

 年老いたジャバーゾは、アリサの横を素通りし、ベッドの上の子どもに本を読み聞かせています。

 アリサはそれを見て、私は帰ろう、と思いました。

 ジャバーゾとはもう関係ないんだ――。

 その時、精霊(せいれい)ジャバーゾはギョロリとアリサの方を見やりました。

 物凄く恐ろしい顔をしています。

「いつでもとり()くぞ。いつでもこっちにおいで。君は、いつでもこっちに来れる人間なんだ」

 ジャバーゾは善人の面を(かぶ)り直して、声色を変えて言いました。

「アリサ、いつでもいらっしゃい。無理すると、良くないからね」

 アリサは大人になっていましたが、心がくじけそうでした。

 ジャバーゾが恐ろしくて仕方がなかったのです。

 しかし――。

「あなたも、私に構わず、あなたはあなたの生き方をすれば良いんじゃないですか?」

 アリサは、声を振り絞って言いました。

 ジャバーゾはおや、という顔をして、「私の、生き方ですか?」と驚いたように言いました。

「あなた、どこでそんな言葉を覚えたんですか? 私からは絶対に逃げられないんですよ」
「逃げないわ。あなたからは逃げられないってわかったから」

 アリサはジャバーゾに自分から近づいていって、きっぱり言いました。

 ジャバーゾは動じませんでした。

 しかし、善人の面が泣いています。

 アリサはそこで目が覚めました。

 怒りで、(にく)らしくて、悲しい夢でした。

 だってずっと、ジャバーゾが近くにいるのですから。

 自分の影はずっとついてくる。

 それが分かったのですから。光がある限り、精霊(せいれい)ジャバーゾは、アリサにとり()いて行動するのです。
 
 でも、アリサは大人になっていました。

 ジャバーゾに負けまいと、生きるのです。

 自分の影を背負って――。

 影の色は、もうアリサの光に負けていました。

 アリサは震えながら、それでも勇気を持って、夢から立ち上がりました。