お茶を飲み終えると僕たちはゲームを再開した。
綾奈は無言でコントローラーを握り、僕は無言でゲーム画面を眺める。
「……」
「……」
そう、無言で。
散々場を引っ掻き回したおばさんが部屋を去ると、部屋の中には何とも居心地の悪い空気が残った。
綾奈は何も言わずにコントローラーを操作している。背を向けられてしまっているため彼女がどんな表情をしているのかは分からない。もっとも、顔を向けられたところで彼女の顔をまともに見ることはできないかもしれないが。
ただ、まず間違いなく怒っているであろうことは顔を見ずとも分かる。
おばさんが彼女を揶揄うのなんて日常茶飯事であるが、それに対してあそこまで感情を出す彼女は久しぶりに見た。いつ以来だろうかと考えたが思い出せそうにないため諦める。そんなこと今はどうだっていい。
この気まずい空気をどうにかしたいところだが、僕が謝るのはおかしい気がする。では他になんて声をかければよいかも思い浮かばず、ただただゲーム画面と彼女の後ろ姿を交互に眺めている。
お互い言葉を発しない中、場違いに明るく陽気なゲームのBGMだけが部屋の中僕たちの間を流れている。その曲の雰囲気のままにこの部屋の中の雰囲気も明るいものに変えてくれればいいのにと思ったが、そんなことは叶わず、ただただ上滑りしていくだけだ。
しばらくそんな無言の時が続いたが、さすがに何か言わなくてはと思い口を開きかけた時
「ねぇ……」
不意に綾奈が口を開いた。
「何かな?」
これ幸いと応じる。
けれど彼女はそれきり何も言わず、再び無言の時が流れる。相変わらず背をこちらに向け、視線はゲーム画面に注がれているためやはりその表情は分からない。けれどその声色にはあまり怒気は感じられなかった。
彼女の次の言葉を黙って待っていると、やがて彼女はとても小さい声でボソリと呟いた
「蓮は…………大きいおっぱい、嫌いなの?」
何を言い出すのかなこの娘は?
おばさんが残していったこの微妙な空気をどうにかして払拭しようと頭を悩ませている時に何でわざわざそんな蒸し返すようなことを訊いてくるのか?
気まずさの濃度がまた一段階上がったような気がする。
気まずくないのだろうか? 僕は非常に気まずいぞ。
コントローラーを握る手は止まっておりそれに合わせて画面の中のレン君の歩みも止まっている。場違いなBGMだけが変わらず流れ続けている。