「で? 今日は何をするの?」
彼女にもらったクッションの感触を楽しみながら訊ねると、彼女はよくぞ訊いてくれましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「へへー今日はねー」
そうして少し勿体ぶりながら後ろに隠していたソレを僕の目の前に突き出した。
「コレだよー!」
それは今から二十年以上も前に発売さえたとあるRPGのソフトだった。
「これもう何度もやったよね?」
僕はこれまでプレイした当時のことを思い返しながら言った。
「それに前にやったのそんなに昔じゃないよね?」
一、二週間前だったような気がする。
そんな僕の言葉に彼女はどこか得意気だ。
「蓮……良いものってのはね? 何度やっても良いものなんだよ?」
そうまるで優しく諭すように言う彼女は良い笑顔を浮かべている。
「それは分かるけどさ、もう少し間空けても良いんじゃない? ほら、余韻とかあるでしょ?」
何かに感動した時、その余韻というものを僕は尊く思っている。
自然と長く後に引く記憶と想いの残像、そこに抱く正負様々な感情、そこまで含めて感動だと思うからだ。それを僕は大事にしたい。
そんな僕に向かって彼女はその少し気の強そうな大きな目をクリッとさせ、首を傾げると
「蓮はやりたくないの?」
そう言ってそのRPGのカセットを僕の目の前に掲げた。
日焼けと手垢によって変色した角が少し丸っこい四角いカセットを見る。
「そりゃ……」
僕は頬を掻きながら
「…………やりたいけどさ」
視線をフイッと彼女とカセットから逸らした。
そんな僕の様子に彼女は微笑み、床に置かれているレトロなゲーム機にその名作ゲームのカセットを喜々として差し込んだ。
僕たちの付き合いは小学生の頃からになる。
家が近所であったことと趣味が合ったこともあり当時からよく一緒に遊んでいた。そしてそれは高校生となった今でも変わらない。
週三~四日、こうして彼女の部屋にお邪魔している。僕の部屋に彼女が来ることもあるがそれは稀だ。
時間帯は基本夜。夕飯後の数時間だ。
過ごし方は映画を観たり、漫画を読んだり、ただ何となく話をしたりと色々だが、特に多いのがゲームだろう。お互いの共通の趣味であるためだ。
多様なゲームがある昨今だが、僕たちはあえて昔の、前世紀に流行った今では大分レトロなゲームを好む。
もちろん世代的には僕たちの生まれるずっと前のものであるため、正直当初は「昔のゲームなんて……」と馬鹿にしていたところがあった。けれど実際プレイしてみてその考えを恥じ、改めることとなる。
良いものに古いも新しいも関係ないということを知った。
そのためここ最近はこの日焼けし少し黄ばんだレトロなゲーム機がフル稼働している。
数あるジャンルの中で僕たちが一番やるのがRPGだ。
一人であっても楽しめるのが大きかった。以前はお互い一人きりでゲームをしていたから。そんな僕たちには都合が良かった。
今でもRPGが一番心惹かれる。
あとは個人的なことで言うと、物語の中の主人公に憧れた……………といったところだろうか?
「今日どっちがやる?」
「綾奈で良いよ。僕は見ている方がいいんだ。それにその方が綾奈だっていいでしょ?」
「ん……まあね」
そう言うと彼女はコントローラーを握りゲーム機のスイッチを入れた。
ゲームのオープニングムービーが流れ終わると、彼女は慣れた手つきで進めていく。
主人公の名前を決めていざスタート………なのだが……
「なんで主人公の名前僕の名前なの?」
画面の中では『レン』と呼ばれる男の子が彼の母親に起こされている。
「え? だって主人公だし」
「理由になってないよ。……もっと他にあるでしょ? 格好良い名前」
「蓮って名前カッコイイよ?」
「……別に格好良くない」
そんなこと今の今まで言われたこともない。少なくとも僕はそう思っていない。
「カッコイイのになぁ……」と呟きながらゲームを進めていく。残念ながら名前は『レン』で決まりのようだ。お祭りで賑わう広場の中を駆け抜けていく。
ゲームの中の彼は僕自身ではないが、自分の名前がついているだけで妙な親近感を感じてしまう。そして自分とのあまりの違いにそれを後悔する。自分はあんなに格好良くない。
それを突き付けられるようで気分が萎えるのだ。けれど同時にゲームのキャラクターと何を比べ、張り合っているのかと馬鹿馬鹿しくなる。
ゲームのキャラクターというものは当たり前に格好良いものだ。現実と比べること自体が間違っている。余計なことを考えるものではない。
そこで不意に部屋の扉がノックされた。