住宅地の中、舗装された道を進み、地元の列車の走る線路の高架下を潜り抜けると視界は再びひらける。
目の前、一面に広がるのは田園風景。
空は広く、連なり建ち並ぶ鉄塔が田畑を横切るように幾本もの電線を渡している。その下を地平線に向かって弧を描くように線路が伸び、今しがた走り過ぎたローカル列車が去っていく。
広い空に列車の警笛が高くこだまする。
その様を見てここが田舎であることを改めて感じた。
僕たちの高校はそんな田舎風景の真っただ中にある。
間もなく見えて来た校門に生徒の列は吸い込まれていく。勿論僕たちも例外なくその一方向の流れにのって校門を通り高校の敷地内へと入っていった。
歩く僕たちの横を自転車通学の連中が通り過ぎ、そのままトタンでつくられた簡素な駐輪場へと向かっていく。本来であれば僕もあちら側の人間なのだが、今日は随分と面倒な思いをした。
校舎へと向かいながら朝からの不運と苦労を嘆き溜息をついていると
「せーんぱい!」
唐突に女子生徒が数人声をかけて来た。
「おはようございます! 先輩!」
「あー、おはよう!」
隣を歩いていた雄馬が慣れた様子でにこやかに挨拶を返した。
僕には見覚えのない子たちだが、大方彼と同じ部活の後輩といったところだろうか? 皆その目をキラキラと輝かせ雄馬を見つめており、親し気に話しかけている。
これは部外者である僕は控えるべきだろう。現に彼女たちの目に僕は映っていない。
「先行くよ?」
僕はそう一言断ると彼らから離れ、昇降口へと先行した。
一人だらだらと歩くものや、複数人でゲラゲラと笑いながら歩く者の間を縫いながら外階段をあがり、生徒でひしめく昇降口へと入った。
靴を脱ぐと靴箱から出した上履きに履き替え、靴を仕舞った。そして教室へと向かおうとしたところで、雄馬が追い付いてきた。
「おーい、待ってくれよー」
彼はそう言うと僕同様に上履きに履き替え、僕の隣りに並んだ。
「なんで先行っちゃうんだよ!」
「だってお前、部活の後輩? ……と話してただろ? 邪魔しちゃ悪いと思ったんだよ」
「別に邪魔じゃねーよ?」
「お前はそうでも向こうはそうじゃないだろ、きっと。あの子たちお前にしか用なかったみたいだし。それに僕も居心地悪いし」
「相変わらず自己評価低いなー」
「いや、正当な評価だよ」
そう、正当な評価だ。
周りの連中から見た僕の評価なんてたいして高くもない。本当にたかが知れている。
実際この学校において僕に気をとめる人間なんて僅かなものだ。たとえ何日か欠席しようが気づかれないのではないかと思う。
いじめにあっているだとかそういうことはない。少なくともこの学校に入ってから直接的に露骨に継続的に悪意を向けられたことはない。見えないところでどうかは分からないが表立ってはない。
ただ、関心をもたれない。
大多数の人間にとって僕は無影響なのだ。
いたところで得はなく、いなかったところで害はない。
そんないてもいなくてもよい存在。それが僕という存在だ。
別に悲観なんてしていない。それが事実というだけのことであり、僕もそれを受け入れている。
だからこれは正当な評価だ。
僕たちが並んで歩いていると背後から男子生徒が走って来て僕たちを追い抜いて行った。そのすれ違いざま彼は冗談めかしたように隣の雄馬のことを軽く小突いていき、雄馬もそれに片手を上げて応えた。
そのやり取りを見ながら少し遅れて彼がクラスメイトであることに気づき、その後ろ姿を見送りながら僕はふと
「お前さ、何で僕みたいなのといるの?」
そう隣の雄馬に向かって訊ねた。