「早食いは身体に悪いぞ?」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
 未だ恨めしそうにしている彼だったが、僕が無視を貫いていると、無駄だと悟ったようで頭をガリガリ掻きながら溜息をついた。そして話を元に戻す。
「良いんだよ、朝練は。朝やらない分放課後の練習しっかりやってるから。それで十分に練習になってるの。休日に自主練だってしているしな。だから朝は少しでも寝ているに限る。睡眠は大事だ」
「そんなものかな……」
 確かに睡眠は大事だ。
「学校生活は部活だけじゃないだろ? あくまで勉強が本文だ。なのに睡眠不足で授業に集中できないのはマズイだろ?」
「そうだな」
 授業に出たはいいが内容が頭に入ってこないのでは何の意味もない。教師の話を子守歌に机に突っ伏すのがオチだ。実際そんなやついくらでもいる。
「だからちゃんと寝て、勉強して、放課後はしっかりと部活する。家に帰ってからは僅かばかりの自由な時間を楽しむ。ほら健全だろ?」
「その通りだな」
 文句のない、割と理想に近い生活ではないだろうか。
「要は時間をどう上手く使うかだよ。一日のスケジュールをしっかり組んでやるべきことはしっかりとこなし、寝る時は寝る」
「まったくだな」
 彼は間違ったことは言っていない。むしろその意見には賛成できる。そういうことなのであれば朝練のこと含め彼の時間の使い方に文句はない。
「納得してくれたか?」
「ああ」
「そうか」
「咎めて悪かったね」
「いやいや、分かってくれたのならそれでいい」
 彼は満足したように笑った。
 有意義な生き方がどのようなものか、それは人にとって多少異なるところだろう。誰の目から見ても健全かつ人生を謳歌しているように見えるものをさすこともあれば、他者には理解しがたくとも本人にとっては満足する生き方というものだって当然ある。一概にどうとは言い切れない。
 ただ、やるべきことをしっかりとこなし、プライベートを楽しみ、そしてしっかりと睡眠をとれているというのであれば、それは有意義な過ごし方だと言えるのではないだろうか?
 僕はそう思う。
 そう思えば僕の人生もおおむね有意義だ。
 だから文句なんて、ない。


「ところでさ……この間借りたゲームクリアしたぞ! お陰で徹夜続きで眠くて眠くて……ああ……朝陽が眩しい」


 ああ……こいつやっぱり駄目なやつだ。