「まったく、朝から……散々だ!」
僕は田んぼの真ん中を走っている。
自転車で、ではない。自分の足でだ。
コンクリートで舗装された地面を蹴るたびにタタン、タタンと音が響き。身体に衝撃が走る。
足の裏に鈍い痛みがじわじわとこもっていき、ぜえぜえと荒い息が吐き出される。
身体が上下に揺れ、それに合わせて見慣れた景色も上下に大きく揺れる。
身体が切る風が、内から発せられた熱によって火照る身体をその冷たい手で撫でていき、激励なのかもしくは冷やかしか分からない声が耳にごうごうと響く。
日射しは目にきつく、眩しく。
小鳥は縦横無尽にやかましい。
視界の先、目指すところはまだ遠く、広大だ。
いつもと違う。
実に新鮮な光景、体感、春の朝。
清々しい。
本当に清々しいくらいに
最悪な気分だ。
タイヤが潰れている理由は何てことないことだった。
まぁ……パンクだ。
本当に何てことないことだ。
何てことないことではあるが、正直今この時の僕にとっては冗談ではないことだ。
家から学校までは自転車でおよそ十分〜十五分。
朝のHRが始まるのが八時四十分。
今の時刻が八時を少し過ぎた頃。
あ……終わった?
そんな思いが一瞬脳裏を過った。
けれどその次の瞬間どうすれば遅刻せずに済むかを考え始める。あらゆることを諦めた僕だがこれに関しても諦めるつもりはまだない。
あらゆる案を思い浮かべては却下し、極々短い時間でいろいろ考えた結果、唯一取れる手段は……走ることだけだった。そして今に至る。
家から近いが故にいつもそんなに余裕をもって家を出ているわけではない。それでもいつも通り自転車で行けていれば余裕なぐらいなのだ。
教室に入って自分の席に着き、自動販売機で買ったミルクティーを飲みながら一息つくくらいの余裕は十分にある。
家から近いことが仇となってしまった。
大体何でここでパンクなどするか? 考えかけるがすぐにやめた。
そんなことを考えている暇があったら少しでも足を上げ前へ出し、腕を振ることだ。愚痴っていたところで無駄に時間が過ぎ、酸素を使うだけだから。
朝の閑静な住宅地を抜け、大通りで信号に引っかかってイライラし、ひらけた景色の広さに眩暈をさせながら田畑の真ん中を真っ直ぐ伸びる道をひた走る。
足に、腕に、脇腹に、心臓に痛みが走り、身体が鉛のように重い。息は上がり、口の中はカラカラに乾き、喉の奥には血の生臭い香りがする。僅かにかき始めた汗が背中を濡らし非常に気持ちが悪い。
運動部でもない僕は普段学校の授業以外で運動する習慣などなく、もともとの運動神経も大したことはない。
……多少身体を動かしていた時もあったが……それはもう昔のことだ。
本当にしんどい。
けれどどれだけ苦しかろうが立ち止まることは許されない。立ち止まろうものなら遅刻が確定する。それは僕の本意ではない。
だから走らなくてはならない。