「【おん返し】?」

「いつのまにか増えたみたいね。後天的にユニークスキルを入手できるなんてなかなかないことよ」

 マリヴェラに【魔眼】の力でスキルの詳細を見てもらうことにした。
 つまり俺は今【しつけ】と【おん返し】の2種を持っているということなのか。

「【おん返し】つまり恩返しね。15歳以上でおん返しスキル所持者に一定の情がある場合、術者が習得したスキルを複製されるみたい」
「つまりどういうことなんだ」
「多分、フィロがスキルを習得したらロードも同じスキルを習得するってことね」

 この前卒院したフィロが【剣王(ソードキング)】スキルを得たことで俺にもその力が付与されたようだ。
 そして『魔導』に適正のあるテトラが【二連詠唱(ダブルマジック)】を習得することで俺にもその力が付与される。

 卒院した5人分のスキルが俺に自動で複製されるということか。
 修行せずともスキルを手に入れられる恩返し……強すぎないか?
 いや、本当強いかわからん。一度試してみよう。

「何で【おん返し】なのかしら……。恩返しでない理由、まだ何か隠されてるわね」

 それからまた時が過ぎた。


 ◇◇◇

 子供達のお昼寝タイム、世話をマリヴェラに任せて俺は孤児院の外に広がるミドガルズ大森林へ入ることにした。

 この孤児院は魔物が多く住んでいるミドガルズ大森林に面しており、俺がここへ来た時は本当に魔物の被害で大変だった。
 なので時々見回りで強力な魔獣が徘徊していないかチェックすることにしている。
 正直、日々【おん返し】スキルによって習得したスキルがどんなものか試したくてたまらないのが本音である。
 最初習得したスキルは初心者スキルだったのに今やもう中級、上級レベルを習得しているのだ。

 なまくらのロングソードを腰に差して、あたりを散策する。

 5人の子供達から得た【おん返し】
 主に使えるのは『武道』に適正のあるフィロメーナと『魔導』に適正のあるテトラが習得している2人のスキルだろう。

 ちなみに俺には戦闘の才はないと思っている。
 成長率が見れたら悲惨なことになっていただろう。あの子達と比較したら雲泥の差である、
 まぁ……あの子供達がやばいだけなのだけど……。

 がるううううううううう!

「お、フォレストウルフが5匹か」

 ミドガルズ大森林に住む狼型の魔物だ。

 10歳の時は渾身の【威圧(プレッシャー)】で何とか追い払えたが、あれから20年。1体であれば苦もなく倒すことができる。
 さすがに5体となると大人となった俺でも苦戦するかもしれない……。
 だけど不思議と恐怖はない。

「【剣聖(ソードマスター)】スキル発動」

 フィロメーナが習得した『武道』スキルカテゴリーの【剣聖(ソードマスター)】スキルである。
 効果時間はおおよそ10分で使用後待機時間(クールタイム)は極小だ。これはフィロメーナが極限まで使用後待機時間(クールタイム)を縮める常時発動(パッシブ)スキルを修得しているため俺にも効果が現れているのだ。
 上級の【剣王(ソードキング)】を習得したと思っていたらいつのまにかさらに上位の【剣聖(ソードマスター)】を習得していた。

 【剣聖(ソードマスター)】スキルは様々な効果を剣に付与することができて、攻撃力と防御力に補正が入り、最終ダメージに倍率がかけられる有用なスキルである。

 才のある剣士が40、50年かけて習得できるスキルを天才のフィロメーナが1、2年で習得する。そしてそれを恩返しスキルで複製するのである。

「我ながらチートな手段でスキルを得てるな……」

 といってもフィロメーナがスキルレベル20とかなら、俺はスキルレベル1なのでその職の人には勝てない。
 だが……俺には5人分のスキルを修得しているので違った戦い方が出来るのだ。
 俺はロングソードを翳して、【剣聖(ソードマスター)】の中にある光剣術の効果を剣に付与する。

「ハアアアアアアアアア!」」

 光剣術は剣の刃に光属性を付与させて、攻撃範囲を飛躍的に広げることができるスキルである。
 弱い敵にはこれがもっとも効果的だ。

 横に一撃振り切るだけでフォレストウルフの3体はこれで蹴散らせる。
 たった1回斬りつけるだけでこの程度の雑魚敵であれば瞬時に倒すことができるのだ。
剣聖(ソードマスター)】の攻撃力と最終ダメージへの補正のおかげで無類の攻撃力となっている。

「ち、後ろから」

 フォレストウルフの1体が後ろから噛みついてきた。
 だが見えている。

「【気配察知】からの【受け流し(パリィ)】」

 周囲3アメル(メートル)の敵の動きが感覚で分かる【気配察知】スキルと物理攻撃を確率で無効果する【受け流し(パリィ)
 天才の戦士のスキルを一般人の俺が使いこなすんだ。便利すぎるぜ。

 そのスキルを使えば俺はフィロメーナの動きを完全に再現することができる。
 フォレストウルフの飛びかかりを受け流して、なまくら剣でそのままたたき潰した。
 あっと言う間に4体を倒し、残りの1体が後ろを向いて逃げ出した。

「悪いが逃がしはしない。魔法の詠唱開始」

 魔法は魔方陣を展開し、詠唱を行うことで魔法を撃つことができる。
【魔導】の天才。テトラが魔法をどんどん覚えるせいで俺の使用できる魔法が際限なく増えているのだ。

 特にびっくりしたのはこの魔法。

「【空間転移(テレポーテーション)】!」

 近距離高速移動魔法である。
 視覚にある範囲内を一瞬で移動することができる。

 ウルフの進行方向に移動した俺にウルフは明らかに驚いたそぶりを見せた。

 手を翳し【初級火炎魔法(ファイアボール)】を発動させる。

「こいつはおまけだ【魔法連射(リピートマジック)】」

 ファイアボールを一発でいい所をわざと【魔導】カテゴリーのスキル【魔法連射(リピートマジック)】を発動させる。
魔法連射(リピートマジック)】は最初の魔法の威力を半分にした上で魔力が続く限り同じ魔法を連射することができる。

初級火炎魔法(ファイアボール)】の連射でウルフを撃破することにした。

魔法連射(リピートマジック)】も30年近く研鑽を積んだ魔法使いが覚えるようなスキルである。それを天才のテトラが1、2年で習得して、俺が恩返しで複製する。
剣聖(ソードマスター)】に【空間転移(テレポーテーション)】に【魔法連射(ラピッドファイア)】。
 俺はいつのまにかとんでもない人間になってきたんじゃないかと思ってきた。

 まぁ子供達の努力をまるパクリしてるからあんまり大手を振って自慢はできないけど……誰かを守るために使うなら許してくれるよな。


 ◇◇◇


 孤児院に帰ってきたらなぜか騒々しい雰囲気になっていた。
 マリヴェラがあたふたしている。

「どうしたマリヴェラ」

「ロード! ペリルとポーラがおつかいに行ったまま帰ってこないの!」

 孤児院の子供達に何かあったのか!?