「帝国め……宣戦布告早々に占領されるとは思ってもみまい」
覇王イガルシュヴァラはほくそえむ。
ずっと機会を待っていた。魔王が七英雄を滅ぼすと言っていたあの時からいつでも帝国を攻められるように準備を進めていたのだ
覇王の私室は古都レイアリルのレイアリル城の最上層にある。イガルシュヴァラはどしりと玉座に腰をかけた。
「おい、ヴィークスとプロメニルを呼べ」
「承知しました」
側近は部屋を出て、急いで目的の人物を探しに出た。
今は亡きレイアリル王国がオシロス傭兵団に滅ぼされて10年、取り残されたレイアリル王国の住民達は苦しい生活を強いられてきた。
帝国の宣戦布告は元レイアリル王国の国民にとって朗報となったはずだが、搾取され続けた国民達には歯向かう気力すらなかった。
王国の軍隊は傭兵団に吸収され、傭兵仕込みの10万の軍隊は戦争国家として勝利の結果を残し続けていた。
「兄貴」
ヴィークス・オシロスとプロメニル・オシロス。王の私室に堂々と入るその2人は覇王と同じ恐ろしい気迫を解き放っていた。
覇王イガルシュヴァラの血を分けた兄弟でありその絆は強い。
単純な武力、統率力に優れた長男イガルシュヴァラ。隠密行動、暗殺、情報収集に優れた次男ヴィークス、長距離射撃、アウトレンジの名手である三男、プロメニル。
この3兄弟が揃った傭兵団は最高位の1つとさえ言われる規模を誇っていた。決して褒められた活動をしているわけではないがその実力で不評をあげる者たちを薙ぎ払ってきたのであった。
「来たか。予定通り先制パンチは与えられたんだろうなぁ」
ヴィークスは頷く。ただその頷きに帝国を叩き潰した喜びにあふれているようには見えなかった。
三男プロメニルがその理由を口にする。
「帝国西部ヤムスカはすでに住民が退避していた。帝国軍が少数残っていただけだったな」
「何? 俺達の動きが読まれていたと言うのか?」
《鋼魂摂政》の発表の1時間後、報道を確認したイガルシュヴァラは予定通り即時の軍事行動を指示した。
覇国に最も近い、ヤムスカの街を強襲し、破壊の限りをつくしたが人はすでに退避されており、街を占領できたものの思っていた成果は得られなかった。
「わからない。軍隊はすぐに撤退をしやがった。でも物資の補給はできたから帝都侵攻の足がかりにはできる」
次男ヴィークスの回答ににやりとする覇王イガルシュヴァラ。10年間、オシロス国内を我が物のように扱ってきたが次第に物足りなくなっていた。
じっくりと狙っていた帝国がこんな形とはいえ狙える位置にいるのだ。こんなチャンスはまたとしてない。
ガトラン帝国は前皇帝が1年前に亡くなり、軍隊の弱体化が進んでいる。国力に差があるとはいえ、イガルシュヴァラには自信があった。
「まぁいい。帝国を頂くチャンスだ。ヤムスカに1万の兵を駐留させろ。【アンドラス】とアレを出していい。愚かな帝国に教えてやれ、俺達が最強だってことをな」
◇◇◇
「ママ、大丈夫ですか?」
「うん、なんかソワソワするね。戦争が始まるからかな」
魔王エストランデ様は緊張したそぶりでフィロの入れてくれた紅茶を口にしていた。
今回は俺もスーツで全身鎧を着込み、魔将軍ディマスとして活動している。
そんなわけで俺達は帝国西部アドリリュードの街にいる。
最西の街ヤムスカからある程度離れており、街の規模も大きく拠点としては最適である。
この街で帝国軍は司令部を立てることにし、総司令はアルヴァンが務める。
アルヴァンが軍の編成を終え、俺達が泊まる宿にやってきた。
「さて、予定通り覇国はヤムスカに兵を駐留させている。事前情報だと1万という所だね」
「今のところはアルヴァンの想定内ですか?」
フィロの問いにアルヴァンが肯く。
「ああ、問題ない。今回の作戦を説明する」
アルヴァンの狙いは帝国VS覇国の構図を魔王国VS覇国へと変えることだ。
大義名分を利用して帝国が覇国を挑発。覇王イガルシュヴァラが即時攻めてくるのが分かっていたため予めヤムスカの街の住民を避難させ、少数帝国軍人を派遣。
攻めてきたことを確認した後、撤退をさせた。
元々帝国は覇国に対して良い感情を持っていない。これまで何度も西部に何回もちょっかいかけられていたのはニュースなどでよくきいている。
覇国が強くなる前に逆に攻め滅ぼせばという案もあったが、覇国は地形的に攻めづらい国であり、大軍を進軍させ辛いと言われている。
その結果前皇帝は覇国に対して弱腰になってしまい、昨日までやられたい放題だったわけだ。
覇国を倒すことは帝国にとって利点があり、覇王を倒すことは七英雄に復讐をする魔王国にとって都合がよい。
この戦いは絶対に負けられない。
「まずは出鼻をくじく必要がある。目的は2つ。ヤムスカの解放。そして高速航空艇アンドラスの奪取だ」
何となく戦況が見えてくる話だ。
アルヴァンに基礎を教えたのは俺だ。考えが見えてくる。
「まずはヤムスカの解放。これはフィロとパパの2人で頼みたい。後詰で帝国兵3000を用意させる」
戦力差は3倍以上か。
だが一騎当千のフィロが一緒であればそれも可能となる。
「ヤムスカを解放すると敵はアンドラスを出すはずだ。そこをテトラとパパの2人でやってもらう」
「働かせ過ぎじゃないのか」
「パパにはしっかり働いてもらうよ。そのためにメリシュの薬で体力をつけてもらったんだ」
まぁ、実際は問題なくやれるだろう。
むしろこの体力が尽きてしまうのを見てみたいと思うくらいだ。
「あ、あの……私は何もしなくていいのかしら」
魔王様がぶるぶる震えながら言う。
「ママは基本戦場には出さないよ。最高指揮官らしくどしっと座ってくれ」
「そ、そう?」
「この戦いが終わったらママにはやってもらいたいことがある。そこで頼むよ」
「何だかわからないけどわかったわ」
「魔王様、音頭を頼みますよ」
「私!? ごほん、わかりました。ディマス、フィロ、テトラ、絶対に死なないように。生きて帰ってきなさい。わかったわね」
「ああ」「わかりました」「らじゃ」
戦いが始まる。
覇王イガルシュヴァラはほくそえむ。
ずっと機会を待っていた。魔王が七英雄を滅ぼすと言っていたあの時からいつでも帝国を攻められるように準備を進めていたのだ
覇王の私室は古都レイアリルのレイアリル城の最上層にある。イガルシュヴァラはどしりと玉座に腰をかけた。
「おい、ヴィークスとプロメニルを呼べ」
「承知しました」
側近は部屋を出て、急いで目的の人物を探しに出た。
今は亡きレイアリル王国がオシロス傭兵団に滅ぼされて10年、取り残されたレイアリル王国の住民達は苦しい生活を強いられてきた。
帝国の宣戦布告は元レイアリル王国の国民にとって朗報となったはずだが、搾取され続けた国民達には歯向かう気力すらなかった。
王国の軍隊は傭兵団に吸収され、傭兵仕込みの10万の軍隊は戦争国家として勝利の結果を残し続けていた。
「兄貴」
ヴィークス・オシロスとプロメニル・オシロス。王の私室に堂々と入るその2人は覇王と同じ恐ろしい気迫を解き放っていた。
覇王イガルシュヴァラの血を分けた兄弟でありその絆は強い。
単純な武力、統率力に優れた長男イガルシュヴァラ。隠密行動、暗殺、情報収集に優れた次男ヴィークス、長距離射撃、アウトレンジの名手である三男、プロメニル。
この3兄弟が揃った傭兵団は最高位の1つとさえ言われる規模を誇っていた。決して褒められた活動をしているわけではないがその実力で不評をあげる者たちを薙ぎ払ってきたのであった。
「来たか。予定通り先制パンチは与えられたんだろうなぁ」
ヴィークスは頷く。ただその頷きに帝国を叩き潰した喜びにあふれているようには見えなかった。
三男プロメニルがその理由を口にする。
「帝国西部ヤムスカはすでに住民が退避していた。帝国軍が少数残っていただけだったな」
「何? 俺達の動きが読まれていたと言うのか?」
《鋼魂摂政》の発表の1時間後、報道を確認したイガルシュヴァラは予定通り即時の軍事行動を指示した。
覇国に最も近い、ヤムスカの街を強襲し、破壊の限りをつくしたが人はすでに退避されており、街を占領できたものの思っていた成果は得られなかった。
「わからない。軍隊はすぐに撤退をしやがった。でも物資の補給はできたから帝都侵攻の足がかりにはできる」
次男ヴィークスの回答ににやりとする覇王イガルシュヴァラ。10年間、オシロス国内を我が物のように扱ってきたが次第に物足りなくなっていた。
じっくりと狙っていた帝国がこんな形とはいえ狙える位置にいるのだ。こんなチャンスはまたとしてない。
ガトラン帝国は前皇帝が1年前に亡くなり、軍隊の弱体化が進んでいる。国力に差があるとはいえ、イガルシュヴァラには自信があった。
「まぁいい。帝国を頂くチャンスだ。ヤムスカに1万の兵を駐留させろ。【アンドラス】とアレを出していい。愚かな帝国に教えてやれ、俺達が最強だってことをな」
◇◇◇
「ママ、大丈夫ですか?」
「うん、なんかソワソワするね。戦争が始まるからかな」
魔王エストランデ様は緊張したそぶりでフィロの入れてくれた紅茶を口にしていた。
今回は俺もスーツで全身鎧を着込み、魔将軍ディマスとして活動している。
そんなわけで俺達は帝国西部アドリリュードの街にいる。
最西の街ヤムスカからある程度離れており、街の規模も大きく拠点としては最適である。
この街で帝国軍は司令部を立てることにし、総司令はアルヴァンが務める。
アルヴァンが軍の編成を終え、俺達が泊まる宿にやってきた。
「さて、予定通り覇国はヤムスカに兵を駐留させている。事前情報だと1万という所だね」
「今のところはアルヴァンの想定内ですか?」
フィロの問いにアルヴァンが肯く。
「ああ、問題ない。今回の作戦を説明する」
アルヴァンの狙いは帝国VS覇国の構図を魔王国VS覇国へと変えることだ。
大義名分を利用して帝国が覇国を挑発。覇王イガルシュヴァラが即時攻めてくるのが分かっていたため予めヤムスカの街の住民を避難させ、少数帝国軍人を派遣。
攻めてきたことを確認した後、撤退をさせた。
元々帝国は覇国に対して良い感情を持っていない。これまで何度も西部に何回もちょっかいかけられていたのはニュースなどでよくきいている。
覇国が強くなる前に逆に攻め滅ぼせばという案もあったが、覇国は地形的に攻めづらい国であり、大軍を進軍させ辛いと言われている。
その結果前皇帝は覇国に対して弱腰になってしまい、昨日までやられたい放題だったわけだ。
覇国を倒すことは帝国にとって利点があり、覇王を倒すことは七英雄に復讐をする魔王国にとって都合がよい。
この戦いは絶対に負けられない。
「まずは出鼻をくじく必要がある。目的は2つ。ヤムスカの解放。そして高速航空艇アンドラスの奪取だ」
何となく戦況が見えてくる話だ。
アルヴァンに基礎を教えたのは俺だ。考えが見えてくる。
「まずはヤムスカの解放。これはフィロとパパの2人で頼みたい。後詰で帝国兵3000を用意させる」
戦力差は3倍以上か。
だが一騎当千のフィロが一緒であればそれも可能となる。
「ヤムスカを解放すると敵はアンドラスを出すはずだ。そこをテトラとパパの2人でやってもらう」
「働かせ過ぎじゃないのか」
「パパにはしっかり働いてもらうよ。そのためにメリシュの薬で体力をつけてもらったんだ」
まぁ、実際は問題なくやれるだろう。
むしろこの体力が尽きてしまうのを見てみたいと思うくらいだ。
「あ、あの……私は何もしなくていいのかしら」
魔王様がぶるぶる震えながら言う。
「ママは基本戦場には出さないよ。最高指揮官らしくどしっと座ってくれ」
「そ、そう?」
「この戦いが終わったらママにはやってもらいたいことがある。そこで頼むよ」
「何だかわからないけどわかったわ」
「魔王様、音頭を頼みますよ」
「私!? ごほん、わかりました。ディマス、フィロ、テトラ、絶対に死なないように。生きて帰ってきなさい。わかったわね」
「ああ」「わかりました」「らじゃ」
戦いが始まる。