確かにこのやり方なら最速で作業を終わらせることができるのだろう。

 しかし、このやり方、人道としてふさわしくない。
 俺は子供達に人道から離れた行為をしてほしくなかった。

「このようなことで無理矢理人を従わせるのは間違っている。俺は親として了承できない。分かってくれ!」
「ロードの言うとおり。私達はそんなことあなた達にしてほしくない。あなた達が人の道を歪めてまで七英雄を倒すのなら倒さない方がいいわ」

 作業を終えたメリシュが戻ってくる。
 俺とマリヴェラは強い思いでアルヴァン見つめた。
 ここで逆らってくるか、納得して洗脳を解いてくれるか……ここがポイントだろう。

 アルヴァンとメリシュは笑った。

「僕たちは分かってるよ」
「え?」

「ええ、私達はパパとママの教えをずっと守っているわ。人に優しくあれと七英雄のようになるなと……私達に教えてくれたわね」
「そ、そうね」

「もしパパやママの教えがなければ僕たちは何も考えずただ人々を利用することだけを考えていただろう。だけどパパやママの教えに僕達は涙ながら感動したんだ」
「だから今回の計画を立てたの。無理矢理従わせるのがだめなら、正統な報酬を与えて従わせるなら良いってことよね!」

 んんーーっ!?
 なんだ、なんか思っていた展開と違ってきてるんだが。

 アルヴァンは一枚のチラシを差し出した。

「今回この2000人は応募という形で人を集めている。たった1日実験に付き合うだけで平均時給3倍の給料を出すアルバイトという形でね」

 チラシを掴んで読んでみた。
 成人15歳以上限定のアルバイト。経験一切不要。丸一日(24時間)拘束されるだけで体調や病気が良くなり、平均時給の3倍の給料がもらえる。かつその時間の記憶は飛ぶために寝ているだけで大金を得ていると同じことが起きると……。

 怪しすぎるチラシだが一切嘘はない。

「指注射と一緒に治せそうな病気をただで治してあげたわ。被験者は快適な目覚めとなるでしょう」
「おまけに埋め込んだ職人スキルはそのまま実生活に使える。帝国の労働者の技術向上につながることだ」
「給料はミナさんが手配してすでに口座に振り込まれているわ。リーゼが稼いだ銭があるから予算は天井知らずよ」

「パパ、ママ、これが僕達の人道だ!」

 それから1日が過ぎた。

 労働者2000人よる洗脳工事により、無事魔王国の防衛設備はわずか1日で完成してしまった。

 テトララボに作られた機動魔導工房には数百体の魔導人形が配備され、有事に動く手はずとなっている。
 魔王国は魔功炉エネルギーを使った光波防御シールドが張り巡らされ、飛行兵器に対抗するための巨大魔導砲が複数備え付けられた。

 今回の件で改良型魔功炉が2基追加されて、導力エネルギーはさらに安定供給されることとなった。

 空いた口が塞がらないとはこういうことをさすのだろうか……。

「ロードくん、マリヴェラ!」

 リーシュがやってきた。彼女は昨日のアルバイトの参加者の1人である。
 工事が完了した後、2000人は再び孤児院の前の草原に集められて一斉に洗脳が解除されたのだ。

「なんかよくわからないけど、本当に一日経ってるのね! 今、主人に聞いたらバイト料もいっぱい入ってみたいだし、ホクホクだわ」
「リーシュ、体に不都合とかないよね?」
「ないない。むしろ快調よ! 子育てできつい腰痛患ってたんだけど、起きたら完全に治ってたの! 最高ね!」

 リーシュは昨日、虚な目でひたすら魔導兵器を組み上げていたけどな。
 どうやらその記憶はまったくないようだ。

 健康になって、お金が入って満足してリーシュは帰っていった。

「ねぇロード」
「ああ」
「人道ってなんだろうね」
「俺も分かんなくなってきた。……でも、あれだけ喜んでるだったらやってよかったんだろうなって気になってきた」
「そうね。人を動かすのは正当な報酬が必要ってよく言うもんね」

 ベストな選択肢を選んでしまう子供達の恐ろしさに加え、俺とマリヴェラは戦略兵器が追加されていく孤児院の姿をただ見ているだけしかできなかった。

「防衛計画第二弾の企画書はいつ頃できる?」
「そうね。まだ進捗30%くらいだわ。それより優先したいことがあるからテトラ、資材をアテをつけておいて」
「ラジャ。アルヴァン、お金が足りない」
「ああ、来週リーゼのアルバムと写真集を出すからその利益で予算を組むぞ」

「第二段階はまだいいから! 少し落ち着く時間をくれえええええ!」
 もはや魔王国の進む道は一切止められないのかもしれない。