「やぁママ、ドナルース宮殿は帝国数百年の歴史を感じさせるよい所だろう」

 これはひどい。
 アルヴァンはにこりと俺とマリヴェラを迎え入れるが……。
 左の壁、右の壁、天井、すべてにマリヴェラのポスターが張り巡らせている。
 アイドルオタクの部屋みたいだ。

「何なのこの部屋!?」
「宰相用の執務室だな。今は僕が使っている」
「そこを聞いているんじゃない」
「何かご不満な点がありましたか?」

 やべぇぞ、ライナさんも疑問に思っていない。
 ということ最近、この部屋がこんなポスターだらけの部屋になったわけじゃなさそうだ。
 ポスターに日付まで律儀に書いてある。20歳くらいのマリヴェラの写真から21歳、22歳、23歳、24歳……毎年ある。

「ライザさん、ミナさん。このポスター……おかしいと思わないの!?」
「はい、アルヴァン様の秘書になった時にはすでにポスターだらけだったので」
「もう見慣れちゃいました」

「アルヴァン! 肖像権の侵害ってあるんだけど!?」
「やだなぁ、ママの写真を貼っているだけじゃないか。ママ想いの男性は多いよ」

 ここまでマザコンをこじらせていたとは……。

「床はないんだな」
「ママの顔を踏むなんてありえないからね。でもママの赤眼をイメージしたレッドカーペットを敷き詰めて」
「ああ……もういいぞ」

 ただでは転ばないな。

「こうすることでママが見ているようで力が入るんだ。朝から晩までママに見られていたい」

 同性だけどこれは引くわ……。

「私の抱き枕カバーとかないわよね?」
「え、あるけど」
「そんな当たり前のように言わないで…‥‥」

 アルヴァンの寝室とかもとんでもないことになっていそうだな。
 しかし写真映りがいいポスターだらけだ。ピントも合ってるし、表情も実に良い。
 ただ今のマリヴェラの顔はげっそりしている。

「私、このポスターを撮られた記憶がないんだけど」
「ああ、そのあたりはプロの盗撮カメラマンに撮ってもらったものだよ」
「プロの盗撮カメラマンって何よ!?」

 なるほど通りで隠し撮りが上手いわけだ。しかし本当に良いポスターだ。
 自分じゃなきゃこういうポスターは見る分にはいい。
 データで欲しいな。

「その盗撮カメラマンは捕まえなさい!」
「無理ですよ。警察はアルヴァン様に媚びへつらう組織なので絶対に捕まえることができません」

 ミナさんが告げる。
 なるほど……権力者の特権ってやつか。

「母想いのアルヴァン様は本当に素敵です」
「それ充分私服肥やしているじゃない!? あなたの発言に矛盾を感じるわ!」

 母想い? 俺の知っている母想いと違う、
 そこでアルヴァンの携帯端末から着信音が鳴る。取り出したのはママホではないので魔王国関係ではないのだろう。
 アルヴァンは私達に断って少し離れた。

「君達、この部屋を見ておかしいと思わなかったのか?」
「最初は驚きましたが、これがアルヴァン様の全てと理解して受け入れました」

 ライナさんは盲目的な愛だな。

「私は今でもちょっと……気後れしちゃう所がありますけどぉ」

 ミナさんはまだ引き返せる所らしい。
 ライナさんが話を続ける。

「アルヴァン様の雑談は9割マリヴェラ様のことばかりでしたから」
「私の話って何があるの………?」

「えっと、教えてもらったのはマリヴェラ・ハーヴァン様 29歳 5歳の時からハーヴァン孤児院で育つ。身長1.71アメル(メートル)体重54エリアリ(キログラム)3月生まれで趣味は料理と子育て。自分磨きを怠らない努力家だけど、努力しすぎて、幼なじみの4人の女友達がいて一番美人でスタイルがよかったけど行き遅れる。好物は味噌汁ぶっかけごはん。恥ずかしいエピソードとしてお尻が大きくて井戸にはまって抜け出せなくなったことがある。視力両眼とも5.0  Gカップブラを着用しスリーサイズは上から92」

「も、もういいです! どんなけ知ってるの!?」
「ああ、お尻事件あったなぁ! 懐かしい」
「……あれ、アルヴァンがいなかった時の話だけど、まさかロード!」
「ち、違う俺じゃない! 多分リーシュとかじゃないか、なっ!」

 マリヴェラの若い頃はおてんば娘だったからな……。
 美人でスタイルもよく高嶺の花のような存在に見られたけど結構孤児院の中ではやらかしている方だった。
 子供を育てる立場になってからまともに振る舞っているが……。

「これぐらいならみんな知っていますよ~」

 ミナさんが笑顔で呟く。
 マリヴェラはてててっと歩き、執務室の扉を開けて側にいた護衛の人に声をかけてみた。

「あ、あの」
「はい?」
「私のこと知ってるますか? あ、知らないですよね。すみません、変なことを」
「マリヴェラ様ですよね。井戸のお尻がはまって抜け出せなくなったって噂の好物は味噌汁ぶっかけごはん」
「いやあああああああ! 個人情報バレバレェェェェ!_」

 扉を閉めて強制的に話を打ち切った。
 なるほどママと離れているのが恋しくて、他人にベラベラと個人情報を垂れ流していたのか。

 狂気というか病んでるというか。

「そろそろ皇帝陛下の所へ行こうと思う。ママ、準備はいいか」
「アルヴァン」
「なんだい、ママ」

 女性がうっとりしてしまそうな甘いマスクで優しげな声を投げかけるアルヴァン。
 だけどマリヴェラだけには通じない。

「このバカムスコ!!」
「ごふっ!」

 国のトップに強烈な腹パンをできるのはマリヴェラだけだろう。
 これがマリヴェラの教育方針、男への鉄拳制裁である。