「あの魔功炉で星の生命エネルギーを吸い出して導力エネルギーに変えている。魔石よりよっぽど便利」
「それってさ……星が死ぬことだよな? 大丈夫だよな」
「大丈夫。私達が生きている間は問題ない」
「その言い方、未来はどうなるか分からないってこと!?」

「計算だとあと50万年存在できるこの星が5万年くらいになる程度だから」
「10分の1!?」

 5万年という途方もない年だから感覚がバグりそうだ。

「パパ」

 アルヴァンが声をかけてくる。

「魔功炉については極秘で頼むよ。星の生命を吸って動く発電機なんてバレたら変な活動家を生み出しかねないからね。最近多いんだよ、魔法を行使できる人間は神の使徒とか言ってテロ活動するバカがね」

「なんだかよく分からないけど、これで孤児院全体の導力が賄えていることよね?」
「そうだよママ。私を褒めて褒めて」

 えっへんと物足りない胸を突き出して、マリヴェラに撫でを求めている。
 星を死滅させるような炉を開発した魔導研究者。バレたらマジで討伐されてしまいそうだ……。
 アルヴァンといい、テトラといいとんでもないことをし出かしてるな。

 俺が子供達を守らないと!


 ◇◇◇


 中央管制室に戻った時、一人の少女が中枢の席へ座っていた。
 あれは……?

「パパ、ママ、お姉ちゃん達」
「ペリル!?」

 ペリル・ハーヴァン11歳。
 ハーヴァン孤児院で育てている子供の一人だ。
 金色のお下げ髪がふわりと揺れる。

「中央管制室が起動したから出番だと思って来たよ」
「いやしかしなぁ」

 アルヴァンを見る。

「成人してる奴らはともかくまだ未成年のペリルまで巻き込むつもりはないぞ」
「パパやママの想いは分かっている。実際に未成年組は本人の意志を尊重させていた。参加するのはペリルの意志であり、その能力に僕達は注目した」

 このあたりのことアルヴァンが分かっていないはずがないか。
 ペリルはマリヴェラがあの河川敷で拾った子供だ。【SSR拾い】のスキルの恩恵を受けている。
 俺はペリルに向けて【しつけ】スキルを発動。

 統率  SS+
 武道  E
 魔導  A
 政治  F
 教養  SS+
 魅力  A
 容姿  S
 道徳  A

 見ての通り、天才の成長率を持っている。

「ペリルはわたしの補佐をさせる。当然戦場に出さないし、出させない。中央官制室の管理が主な仕事だよ」

テトラはそう言うがまだ未成年なんだぞ。

「う、うーん」
「中央官制室は何も戦いに使うわけじゃない。むしろ孤児院の防衛や子供達を守ることに力を使う機会が多い」

 そう言われると悩ましい。

「パパ、小さい時に悪党に誘拐された時のことを今でも覚えているよ。あの時、パパが助けてくれたから今があるの」

 ペリルは一時期、他国から来たゴロツキどもに誘拐されたことがある。
 俺が恩返しスキルを使うことで何とか退けることができたが正直血の気が引いたし、マリヴェラと二人で夜遅くまで防衛のことを相談し合った。
 もしペリルが管制の仕事をしてもらえるなら子供達の危険も最小限に押さえきれるのは間違いない。

 ……心情的には俺の復讐に関わって欲しくないんだけど。

「ペリルなら24時間、ここの管理が出来るから本当に最適だと思う」

 テトラはフォローのつもりで言う。
 実際にその通りなんだよな。
 ペリルは生まれつきは高度な【並列演算(マルチタスク)能力】を持っている。
 俺達で2や3が限度なのに対して、10以上の並行処理を同時に行える力を頭脳を持っている。
 ざっくり簡単にいえば掃除しながら、料理しながら、勉強しながら、買い物にいけて、かつ中央官制室の制御ができるって感じだな。
 1つの体じゃそんなの無理? ならば増やせばいい。

「買い物行ってきたよ!」
「掃除終わらせてきたよ!」
「洗濯終わらせてきたよ!」
「収穫してきたよ!」

 中央官制室の中にたくさんのペリルが入ってきた。

「おかえりなさい」

 マリヴェラが暖かくたくさんのペリルを出迎えた。

 かわいい我が娘がいっぱいいた。もちろん五つ子とかではない。
 これがペリルのユニークスキル【実体分身(マテリアル・イリュージュン)】だ。
 実体のある分身を無数に作ることができる。分身の頭脳を使用者と共用となる。
 ペリルはこのスキルを並列処理と組み合わせると1つの頭で10人分のお仕事ができるというわけだ。

「ママ、褒めて褒めて」
「えらい、ペリルが積極的に孤児院の仕事してくれるからママらくちんだわ」

 最近、ペリルのこのスキルがあまりに有用すぎて俺とマリヴェラの孤児院運営が堕落しているような気がする。
 承認要求が強い子なので褒めてあげると凄く喜んでくれる。

「ではペリル。さっき言ったことお願い」
「テトラおねーさん、分かった!」

 テトラの指示でペリルは分身を10人まで増やす。各々が管制室の椅子に座り端末の操作を開始した。
 頭脳を共用しつつ管制システムを掌握し、操作を行う。
 10人で別々で操作するより、優秀な1人が10人分の力で動かす方が圧倒的に処理速度が違う。
 テレパシーのさらに強力なものと言った方が分かりやすいだろう。

「うん、わたしが操作するよりペリルが10人が動かす方が圧倒的に処理速度が違うね。すごいよ」
「やったぁ!」

 1人が起きていて、9人が睡眠を取ると充分休息になることも今までの経験上分かっている。
 なのでペリルの分身1体を置いておけば24時間ずっと官制室の監視ができるのだ。
 11歳の子供で判断できないことがあればテトラが入ればいい。

 この管制システム。思ったよりすごい。

「最後にこれを渡しておくよ」

 アルヴァンが懐から手のひらサイズの携帯端末を俺とマリヴェラに手渡してくる。
 これは……。

「高機能携帯端末……通称スママートフォンだ」
「言いにくいな!」
「僕は略してママホでいいと思ってる」

 スマホじゃダメだったのだろうか。