魔英雄ディマスとして戦場に出る少し前、魔王国エストランデという大層な名前になったハーヴァン孤児院に俺達はいた。
 アルヴァンは孤児院の食堂にあるホワイトボードに文字を書き始めた。
 そうしてドンとホワイトボードを叩く。

「パパには英雄になってもらう!」
「え、英雄?」
「うん。魔王国の国力を上げるのに手っ取り早いものがある。それは今、僕達がいるガトラン帝国を 従属国とすることだ」

 10人未満の国が人口20万のガトラン帝国の宗主国になるということか。無茶苦茶だな……。

「知っての通り、帝国はすでに僕のおもちゃだ」

 アルヴァンはガトラン帝国の摂政を務めており、現皇帝陛下はアルヴァンの傀儡らしい。
 帝国議会も貴族も全て掌握しており、アルヴァンが独裁しているのが現状だ。
 
「だが民衆全てまで掌握しているわけじゃない」

 まぁそうだろう。4年足らずではあくまで中枢ぐらいが精々だ。それでもおかしいけど。

「それでパパに英雄になってもらって民衆に対して人気取りをして欲しいんだ。魔王国は帝国に取って宗主することが正しいこととして民衆をコントロールするんだ」
「そんなうまくいくのか?」
「ねぇアルヴァン。あまりロードには無理をして欲しくないの。それだと前に出て戦うってことよね」
「マリヴェラ」

マリヴェラは心配そうな顔をする。先の戦いで心配をかけちまったからな。

「そ、そう? ママがそう言うなら……」

 アルヴァンは少し気落ちしてしまう。重度のマザコンのためマリヴェラに無理と言われたら推し進められない。

「分かったよ。じゃあ無理やり帝国を従属国とする。ちょっと不安要素があるんだけどね」
「どういったものがあるんだ?」
「無理やり併合するから民衆が暴れ出すだろうね。革命家とか出始めるから圧力かけて踏み潰さなきゃいけなくなる。ちまちまアリを潰すのはめんどくさいんだけど、仕方ないよね」

 アルヴァンがまるで独裁政権の悪の親玉みたいなことを言ってる。
 創作とかだったらアルヴァンはその革命家に討伐されるラスボスの筆頭になりかねないぞ。
 いや、ありえる……。アルヴァンなら強引に計画を進めようとして悪として討たれかねない。

 ダメだ。親としてその選択肢はNGだ。

「マリヴェラ、このままだとアルヴァンがラスボスとして倒されるかもしれん」
「で、でも!」
「俺は大丈夫だから」

俺はアルヴァンの目を見て、計画を当初の通り進めることを言った。

「では場所を移動しようか」

俺とマリヴェラは驚いた。

「ここは……」

 アルヴァンの提案通り、英雄になるための活動を行うことになった俺はここでは何だからと別の部屋へと通される。
 食堂の奥にある一室。旧第二物置場だった部屋だ。

「君達の卒院制作の場だったな。結局使われないままだったが」

 卒院制作とはその名の通りで卒院時、子供達に協力させて1つのものを作らせる。
 その結果がこれなわけだ。物置を潰して、1室、怪しげな部屋に改築された。
 ちなみに物置にあったものはテトラが開発した魔法『収納魔法(アイテムストレージ)』のおかげでどこかよくわからない所に保存されている。
【恩返し】の恩恵で俺もスキルを持っているので孤児院のものは結構よく分からないどこかに保存される。

 明かりをつけるとそこは魔導機械により管制化される部屋だった。
 堂々と天にはモニターが張り巡らされ、用途が分からない処理端末(スーパーコンピュータ)が数台置かれている。
 テトラやメリシュや()()()が帰省した時にいじくってるのは見ていたが……子供のお遊びだと思い込んでいた。

「さぁ……ここが魔王国の中枢となる。ママ、この鍵をまわしてくれ」

 全ては4年前……もっと前から計画されていたのだろう
 このハーヴァン孤児院の物置き場が魔王国エストランデの中央管制室に生まれ変わる時が来た。
 マリヴェラは王としてゆっくりと端末制御盤の中央に位置する、トグルスイッチに掴んだ。

 そしてくいっとON側へスイッチをまわした時、中央管制室の全ての魔導機器の電源が入り、稼働を始めた。

 ゴゴゴゴゴゴと轟音が響き、外へ向けるとテトラが14歳の時に作成した怪しげな塔にも電源が入り、塔から虹色の光が漏れ始めたのだ。

 築100年近いオンボロ孤児院なのにこの管制室だけは最新設備と技術が惜しみなく投入されていたのだ。

「わ、私とロードの孤児院が……」
「君達はずっと準備していたんだな」

「その通りだよパパ、ママ。僕達は伊達や酔狂で七英雄に挑むわけじゃない。人が少ないのであれば技術で奴らを上回る」

 ハーヴァン孤児院の敷地面識は膨大だ。
 ガトラン帝国の中でも自然豊かな地方に位置し、まわりには何もない。魔物が多く住む、魔の森と接していることから地価も安いのでこの土地を所有できているのだ。
 近隣のトラッタの街からも少し離れており、孤児院自体高地に存在するため空から以外で視認することは難しい。

 誰にも知られず、いろいろ作るのには都合がいいというわけか。
 この5人と去年卒院した()()()を含む【15歳組】達が孤児院の敷地で何か作っていたのは知っていたが全員関係者だったのだろうな。

「1つだけ聞かせて欲しい」

 俺はテトラとアルヴァンに視線を向けた。ちなみにフィロはニコニコしながら無言を貫いていた。
 知能成長率Fなので多分何もわかってない。親だからよく分かる。

「これらの魔導機器は導力を電気エネルギーに変換して動かしている。そうだよな?」

「うん、そう」

 テトラは答える。
 自然界にあらゆる所に存在する魔法の素、魔石。採掘されたその魔石にいろいろ手を加えてることで電気エネルギーを生み出す導力となる。それらを利用して世の中の魔導機器は動いているのだ。
 つまりこれらの機械を動かすには大量の魔石が必要で、魔石加工し、導力に変更し、それを電気エネルギーとして各地に送るための発電所が必要となる。
 トラッタの街の発電所は小さい。とてもじゃないがこの孤児院の魔導機器を動かす電気エネルギーを賄えているとは思えなかった。
 化石燃料も導力にはなるのだが……、あれは環境を悪くするから非推奨となっている。

「ぬかりないよ。あれを見て」

 テトラが指をさすのはさきほどから虹色の光を天に向けて出す塔。
 ……あれは何なんだろうな。
 
 全員で側まで向かうことにした。

「私が新開発した発電機。魔石を一切使用しないクリーンな魔導設備だよ」
「おお、すごいな! そんなことが可能なのか! やはりテトラは天才だな」
「ま、設計はメリシュと()()()だけどね」

 教養MAXのメリシュと魔導MAXのテトラ、機械工学知識MAXの()()()の知恵が合わさればできないものは存在しない。
 パパは嬉しい。

「従来の魔石による発電に比べて導力は100倍以上の力を誇る」
「すげぇ! あの塔1本だけで発電所の何十個以上も導力を賄えるのか」

「魔石と違ってすぐに無くなることないエネルギー源」
「魔石を採掘しすぎて閉山する所が増えてきて、問題になっているからな!」

「環境にも優しい。今を生きる生物には一切の不具合のない夢の力」
「そんなパーフェクトなものが存在するのか!?」

「不具合、事故が起こっても私達に危険は一切ない」
「今、噂になってる原子力とか怖いもんな!」

 最後にテトラに聞いた。

「そのエネルギー源って何なんだ?」

「星の生命エネルギー」

「へ?」

「あの塔を魔晄炉って名付けようと思うんだけどどうかな」
「よく分からないけど怒られそうだから魔功炉(まこうろ)にしようか!」

 ……ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ。