「エリオスめ……死にやがったか。くそっ!」

 七英雄の1人、覇王イガルシュヴァラは悔しさで顔をにじませ、強く拳を打ちつけた
 イガルシュヴァラ・オシロスは帝国の方角を見据え、窓の外から睨みを効かせる。
 2アメル(メートル)を超える鍛え上げた肉体は歴戦の戦いの様を物語っており、決して柔ではないことの証明となる。

 元はオシロス傭兵団の若頭であったイガルシュヴァラは英雄王アレリウスに見出されて勇者パーティ入りをした。
 魔王討伐を経て、傭兵団に戻ったオシロスは傭兵団の団長となり、小国の1つのレイリアル王国を滅ぼした。

 その後、覇国オシロスという名に変えて戦争国家として名を挙げ続けた。

「イガルシュヴァラ様はエリオス様を侮っていたのではなかったのですか?」

 側近に声をかけられ、イガルシュヴァラは酒瓶をあおる。

「愚図で臆病者だったが弟分だったことに違いはねぇ。他の奴らと違って奴は明確に下だったからな」

 七英雄はその道のスペシャリストが集まる集団であった。
 英雄王であり、勇者でもあるアレリウス。卓越した魔導の使い手でもあった聖女ローデリア。
 覇王として最強の傭兵と言われたイガルシュヴァラですらこの2人には勝つことができなかった。

「魔王エストランデだったか。ふざけやがって、魔王は24年前に死んだ。アレリウスのクソ野郎が紛れもなく殺したんだ」
「では偽物でしょうか?」
「親族がいたのかもしれねーな。魔王には確か娘もいた。生きちゃいねーだろうが」

 イガルシュヴァラは顔立ちをさらに険しくする。

「そんなことはどうでもいい。許せねぇのはエリオスを殺したことだ! あいつのものは俺のもの。俺のものを奪った野郎は報いを受けなきゃいけねぇ!」
「あの場には帝国の鋼魂(こうこん)摂政、アルヴァン・ハーヴァンがいたという噂があります」

「帝国が一枚噛んでいるってわけか。フン、そろそろ大国を食いてぇと思ってた所だ。次の標的はガトラン帝国に決める」
「よろしいのですか? 魔王は七英雄の動きで次を決めると言っていましたが」

「だからいいんじゃねぇか。弟分の仇はこの覇王が取る! 帝国のテロリストどもに兵器を売って泳がせてやれ。もし帝国が妙な動きをしてきたら一気に先制で噛み付いてやる」
「承知しました」

「帝国を喰ったら次はアテナス王国だ。アレリウス、あいつを這いつくばらせてロードの墓に謝罪させてやる」
「ロード? 初めて聞く名ですね」
「ふん、もう25年近く前に俺が手塩にかけて教育してやったガキだ。反抗的だったがいい目をしてやがって何度骨をぶち折っても負けん気で起き上がってくる。それをアレリウスは無駄だと追い出しやがった。崖から落とした言ってやがったから間違いなく生きちゃいねー。……この俺様が強く育ててやろうとしたのによ」
「そんなことがあったのですね」

 イガルシュヴァラは立ち上がる。

「くっそ、なんで弟分ばっかり死にやがる。魔王も帝国も……この覇王が壊滅してやる」