このハーヴァン孤児院が魔王国へ生まれ変わることになった大事な初日に……大事に育てた娘がベッドの中に入り込んでいる事実を俺は何と評したらいいのだろう。
 夜這いかけてくるとは……もう朝だけど。
 しかし、テトラも可愛くなった。
 フィロや他の同年代の子達に比べれば発育は良くないかもしれないが一般的に充分美女だと言える容姿だと思う。

 だが。

「テトラ」
「パパのために純潔を守ったよ。抱いてぇ」

 魔法衣を脱ぎ脱ぎし始めるテトラを止める。

「テトラ、俺は父として君達を娘として見ている。そういった感情はどうしても浮かばないんだ」
「ふむ」
「君はまだ19歳だ。結婚適齢期とはいえ充分若いし、他の男」
「パパ」

 テトラが俺の顔に向けて手を翳す。

「【睡眠(スリープ)】【混乱(コンフュ)】【暗闇(ブラインド)】【魅了(チャーム)】」
「おまっ! 魔法のオンパレード!?」

 フィロといいテトラといい何で強硬手段してくんだよ!?
 だが甘い! おねしょしてた時代から育ててるんだ。テトラの性格は熟知している。

 こんなことあろうかとスキル【状態異常無効(アンチステータス)】を発動している。
 俺には状態異常は効かない

「てごわい」
「ふ、焦ったが……まだまだだな」
「だったらもっと高度な!」
「ふーん、テトラぁ、何をやっているのかな」
「ひょえ!」

 さて……孤児院の最高権力者のママの登場だ。
 マリヴェラが笑顔で院長室に入ってくる。
 今回も俺が下でテトラが上だから大丈夫だろう。

「テトラ、孤児院でそんなことをしてはダメよ」
「おかまいなく」
「誰に向かって言ってるのかしら」
「ひえ!?」

 テトラはマリヴェラに頭をがしりと掴まれる。
 当然ながらフィロやアルヴァンが勝てない以上テトラもマリヴェラには勝てない。

「悪い子にはママがお仕置きをしてあげないといけないわね」
「に、逃げ!」

 テトラは『魔導』スキル【空間転移(テレポーテーション)】で逃げようとするがかすかな詠唱を見切って、マリヴェラに捕まえられて口を塞がれる。
 詠唱を封じられれば魔法は使えない。
 マリヴェラのママとしての力がSSS級の魔導スキルを持つ娘を上回った。

「テトラ、ママもこの4年でさらに成長したわ。成長したママの力を見せてあげる」
「あ、……ああ!」

 テトラは絶望した顔をするがもう遅い。

 マリヴェラの教育方針はとても分かりやすい。
 悪い子をした子供には共通の折檻を与える。男は鉄拳制裁であり、女は泣くまでくすぐられる。
 そんなわけで。

 完全に組み伏せられてしまい、小柄なテトラは逃げられない。

「あひゃひゃひゃひゃひゃあああぁぁぁぁあ」

 テトラは姉妹随一のくすぐったがり屋でとても大きな弱点を抱えていた。
 マリヴェラの習得した14年のくすぐりスキルは子供達に恐怖を与えるレベルとなっている。
 ちなみに鉄拳制裁も意外にバカにならない威力を誇っている。俺も何度殴られたことか。

 ひとしきりお仕置きを終えて、マリヴェラは去って行った。

 泡を吹いて倒れているテトラに声をかけた。

「おーい、テトラ。大丈夫か」
「あへぇ……、あんなん……無理ぃ」

『魔導』の天才もママには勝てないのだ。