『私の名は魔王エストランデ。滅んでしまった魔王国エストランデの王……魔王の後継者です』

 これはいったい……。
 マリヴェラは背を向けて言葉を発している。何をやってるんだ、こんなこと……俺は聞いていないぞ。

『24年前に滅びた我が王国。侵略戦争に敗れたのであれば弱国して仕方のないこともあるでしょう。しかし魔王国は魔物を操作して世界を揺るがしたという罪で滅ぼされました。しかしそれは全て虚言です。『七英雄』が魔王国の利権を我が物にせんとするために世界中で流した虚言なのです』

 これが今、世界中に流れているというのか。

『この24年間、世界を支配してきた七英雄。彼らの活躍で人々は豊かになったでしょうか? 貧困や絶えない戦争。虚言ゆえに魔物の勢いは当然減るはずがありません。全ては七英雄の存在が悪なのです』

 ばっさりと七英雄を悪だと断じてしまった。
 マリヴェラは続ける。

『本日、七英雄の1人エリオス・カルバスの支配からカルバス王国の民を助け出しました。この話は明日、世界中に広まることでしょう』

 この映像は事前に準備をしていたのか……。魔王国の話が出る前から用意していたとは思えない。俺がこの国に来ている間に撮ったと思っていい。
 アルヴァンは俺がエリオスに勝利する前提でこの映像の準備をしていたのか。

『そして残る6人の七英雄に告げます。あなた方が変わらねば……先のエリオスと同じように正義の鉄槌が下されるでしょう。よく覚えておくことです』

 マリヴェラは一呼吸置く。

『魔王の名をその身に刻むと良いでしょう。我が名は魔王エストランデ。それではさらばです』

 こうして通信は途切れてしまった。

「あははは!」

 通信が途切れた瞬間、エリオスは笑う。

「随分と手の込んだことをしてくれるじゃねぇかロードォォ! 七英雄を敵にまわしてタダで済むと思うなよ!」

 顔を歪めながら起き上がり、ペタリと座り込むエリオスが強い口調ですごむ。
 相当な一撃を与えたはずだが……スキルで生き残ったのかもしれないな。確か七英雄は全員、即死回避のスキルを持っていたはずだ。どんなに強力な攻撃を与えてもこらえることができる強力なスキル。
 ただ瀕死なのには違いない。

「言ってしまったことは仕方ないわね」

 聞き覚えのある声と共に玉座の間の扉が開く。
 黒髪で赤眼の女性……それは紛れもなくさきほどモニターに移っていたあの子の姿だった。

「マリヴェラ!? どうしてここに」

 マリヴェラの後ろからひょこっと女の子が現れる。

「パパ、久しぶり」
「テトラか!」

 テトラ・ハーヴァン。
 フィロとアルヴァンと同い年の女の子。
 魔導の才能に優れ、魔導機器の扱いに手慣れている女の子だ。
 ツーサイドップの青髪を揺らして俺の近くに来る。

「遅れてごめん」
「そうか……ここまでマリヴェラを連れて来れたのはテトラの仕業か」
「ブイ」

 テトラは【空間転移(テレポーテーション)】をさらに強力にした遠距離の転移も可能な魔法を使うことできる。それでマリヴェラをここに連れてきたのだろう。
 マリヴェラが俺とテトラの横を通り、エリオスに近づく。
 危険だと感じたが、後ろでフィロが庇う構えを取っているので恐らくは大丈夫だ。

 エリオスはマリヴェラを見つめる。

「黒髪と赤眼……。そういや魔王をぶっ殺した時に娘を魔法で転送して逃がしやがったな……ロードと一緒だったとは」
「父や故郷のみんなを殺した七英雄の1人ね。でも私はあなたの顔は覚えてないわ。もしかして後ろで震えていた人?」

「このガキ!」

 怒ったエリオスが動かないように俺は精霊剣『スピランシェ』を奴に向ける。
 少しでも前に出たら串刺しになる所だ。

「はん! どんなにイキった所でガキが七英雄には敵わないんだよ! 俺が捕まった報告を受けたらアレリウスさんが直にてめえらなんぞ」

「アレリウスがおまえなんぞ助けに来るかよ。それはおまえが一番知ってるだろ?」

「っ……」

 図星をつかれたのかエリオスは俺から視線を外した。

「各地に散らばってた兵が王宮に近づいてるみたい。どうする? フィロとわたしがいれば全滅させられるけど」

『武道』に秀でたフィロと『魔導』に秀でたテトラの2人がいれば1,000人だろうが余裕で戦えるだろう。
 お任せしてもいいが……。

「頼む。だが殺すことは許さない。兵達は七英雄によって人生を歪められた者達ばかりなんだ。彼らに罪はない」
「はーい、パパの頼みですから」
「ん。人殺しはわたしも好きじゃない……いいよ」

「じゃあ僕は各地の忍び込ませた者達に連絡を取る。パパ、後は頼むよ」

「ああ」

 アルヴァン、テトラ、フィロが玉座の間から立ち去っていった。

 残るはエリオスと俺とマリヴェラのみ。

「おい、ロード。捕まえるんなら優しくしてくれよ。俺は王なんだ。手厚い保護を頼むぜ」

 なるほど、今までの流れで俺が立派に子供達を育てて、親として一人前になっていると思ったのだろう。
 そうだな。子供達には人殺しはなるべくさせたくない。その一線を気軽に越えてしまうともう戻れなくなってしまう。

 そこだけは親として絶対に防ぎたい。

 だから……、だから。

「何か勘違いしてないか? エリオス、おまえは今日死ぬんだよ」

 俺は力の限り、エリオスを蹴飛ばした。