「おまえ達は絶対に許さん!」

「はっ、許さんだと!? 【愚者の門(カオスティックゲート)】の前に成す術ないくせに何ができる!」

「この程度のスキル、大したことないって分からないのか」

「はぁ!?」

「スキル【怨返し】を発動!」

 俺はエリオスに向けて両手を翳す。
 部屋の中に貼られたフィールドを構成するエネルギーを全て吸収した。
 その結果、部屋の中に及ぼしていた速度を抑制していた効果を全て打ち消した。

「【愚者の門(カオスティックゲート)】のスキルを吸収する!」

「ば、バカな!」

 速度低下の檻から解放され、動きが自由になる。

「【愚者の門(カオスティックゲート)】の効果中はスキルが発動できねぇはずだ! 何をしやがった!?」

「知っているはずだろう? 【愚者の門(カオスティックゲート)】の効果を防ぐことができるスキルがあると」
「そ、それは!」

「【英雄孔(ヒロイックオーラ)】……。この技を発動したときスキル【愚者の門(カオスティックゲート)】の効果は無効化される」

「その技は七英雄しか使えねぇはずだ! 魔王討伐用に開発したスキルだぞ。使える奴なんているはずが」
「いるだろ一人。七英雄を観察し続けた一人の子供が。吸収したスキルは七英雄のみが使用できる【英雄孔(ヒロイックオーラ)】だろうが例外じゃない」

 俺は顔を隠していた兜を脱ぎ捨てる。

「【英雄孔(ヒロイックオーラ)】」

 すでに発動していたこのスキルを可視化させる。
 淡い色のオーラが全身から出て、俺の力を増幅させた。

「っ!? その頬の傷……。まさかロード、ロードなのか!」
「久しぶりだよ、エリオスさん。24年経っても腐ったままとはな!」
「生きてやがったのか!」
「ああ。俺と同じ姿をした子供のことを聞くために負けてるフリをしたのに……思わぬことを聞いてしまったな」
「負けてるフリだと……?」
「俺はもうガキじゃない。よくも俺の故郷を……家族を皆殺しにしてくれたなっ!」

 精霊剣『スピランチェ』を翳す。
 俺の手から黒い光を出現させた

「【愚者の門(カオスティックゲート)】……エリオスの速度を抑制しろ!」

「なんだと!?」

 エリオスの周囲に【愚者の門(カオスティックゲート)】を展開させる。
 エリオスは自分の持っていたユニークスキルの力によって速度低下のバッドステートを受ける形となる。

「バ、バカな……俺のユニークスキルを奪っただと!」

「【おん返し】の力の1つ【怨返し】は敵のスキルを吸収し我が物とすることができる」

「けっ……こんなもの【英雄孔(ヒロイックオーラ)】を使えば! ……なぜだ、なぜ発動しない!?」

 俺はゆっくりとエリオスの元へ近づく。

「怨みは倍返しって言葉を知らないのか!【怨返し】は奪ったスキルをより強力なものとして使用することができる。てめぇごときの【英雄孔(ヒロイックオーラ)】で防げると思うな」

 精霊剣をエリオスに向けた。

「そんな……ふざけるな! 【愚者の門(カオスティックゲート)】は俺のスキルだ! 奪うなんて許されるかぁ!」

「俺から全てを奪ったおまえらが言うか! これで終わりだ!」

「ロードのくせにいいいいいい!」

 この状況でも対抗してくるとはさすが七英雄だけはある……。
 だが……俺は今にもエリオス(おまえ)をぶち殺したい。

 脳内に浮かぶ100を超えるスキルの欄が揺れていく。
 一度に発動できるスキルは4つまでなのにその激情はその縛りからも解き放ってしまいそうだ。


「【スキル発動制限限界突破《アクティブスキルオーバーリミット》】!」

 怨返しにより、恩返しで得た数々のスキルが自動的に選択されていく。
 もはや止めようもなく溢れんばかりの怒りがこみ上げる。

人体特攻(マンキラー)

                【必中攻撃(シュアヒット)
 【魔力変換(マジックコンバート)

        【追加効果発動(リピートエフェクト)

                       【防御貫通攻撃(ペネトレイトアタック)

物理威力+10%(フィジカルダメージアップ)

             【物理威力+20%(フィジカルダメージアップ)

物理威力+30%(フィジカルダメージアップ)

                           【ダメージ確定クリティカル】

             【クリティカルダメージアップ】

 【ダメージ限界突破(リミットオーバー)

                 【戦闘特化形態(アタックスタンス)

            【戦闘特化形態(アタックスタンス)ダメージアップ】

 【戦闘特化形態(アタックスタンス)クリティカル】
               
                【戦闘特化形態(アタックスタンス)セカンドアタック】

 【正面攻撃(フロントアタック)ダメージアップ】

           【弱点攻撃(ウイークアタック)ダメージアップ】

                          【ジャストアタックダメージアップ】
 【領域開花(ゾーンリリース)

          【状態異常(アンチステート)ダメージアップ】
 
 【至近距離(ゼロレンジ)ダメージアップ】

             【体力全開時(パーフェクトボディ)ダメージアップ】

 【英雄特攻(アンチブレイブステータス)


 頭に流れるこむ数十、数百のアクティブスキルを同時に発動する。
 習得している攻撃系のスキルの全てが俺に力を与えてくれ、精霊剣『スピランチェ』を持つ手の力が強くなる。

「ハアアアアアアアアアア!」

「ば、バカなぁぁ!?」

 より強力となった【愚者の門(カオスティックゲート)】のスキルによって動きが制限されるエリオスは咄嗟に宝剣ベルヴェラを翳すが、無限のスキルに強化された斬撃を止められるはずもなく、その一撃は宝剣をコナゴナに吹き飛ばす。

「墜ちろっ!」
「がはっ!」

 そのまま剣を縦に振り下ろしエリオスの体に強力な一撃を与えた。
 ついに決着がついた。


 ◇◇◇


「はぁ……はぁ……」

「パパ!」

 フィロとアルヴァンが近づいてくる。

「さすがです! やっぱりパパは最高の人です」
「ああ、最後の【怨返し】は見事だったよ。僕の想像を超えてくるとはさすがだよ」

「ぐぅ……あぁ……クソガキどもめぇぇぇ」

 戦闘不能に近いダメージを受け、血を流し横たわるエリオスは唸っている。
 俺は振り返ってアルヴァンの目を見た。

「アルヴァンは次はどうするつもりだ?」
「予定通りだ。そろそろ始められる」

 アルヴァンは懐から小さな魔導機械を取り出した。
 それが噂の携帯導話というやつか。導力エネルギーを変換して通信することができる機器。
 大国に少数存在すると聞いたことがある。

 すると頭上にあるモニターが急遽動き出した。

「彼女の力を利用して、導力ジャックを行った。これから世界中に……メッセージが流れるぞ」

 彼女? もしかして魔導が得意だったらあの子が動いているのか。
 モニターに表示された1人の人物。背を向いて顔を隠しているがその長く美しい黒髪を見間違えることはない。
 まさか。

「マリヴェラ!?」