そして今日の夜はフィロを含めたパーティが開催された。
 自慢の娘が大活躍して顔を見せてくれたんだ。これ以上に嬉しいことはない。

 マリヴェラもフィロも子供達もいっぱい話をしてこの誕生日は本当に良い日だったと思う。
 他の子供達の顔も見たいな……。
 自由に動けるフィロと違って、他の子達はなかなか難しいのだろう。

 そして夜もふけてしまった頃。

「あの、パパ」

 フィロが院長室へ顔を出してきた。
 ベッドに入ったタイミングだったのでびっくりした。
 シャツにショートパンツとラフな格好でゆったりと近づいてきた。

「ん、どうした?」
「お願いがあるんです。私の願いを聞いてくれませんか」
「ああ、俺で出来る事なら何でも」

「じゃあ昔みたいに一緒に寝てくれませんか」
「待ちなさい」

 俺の制止も聞かずにフィロはベッドに侵入してくる。
 15歳の時はまだまだ子供だと思っていたが19歳となると体つきもぐっと大人っぽくなり、顔立ちも美しくなった。
 健康美溢れる手足につい……目が行きがちだ。

「子供の頃言いましたよね」
「ああ……」
「将来はパパのお嫁さんになるって」

 そういえば……言っていた気がする。
 まさか冗談だと思っていたのにずっと覚えていたのか。

 フィロがぐっと抱きしめてきた。
 男好みの良い匂いがそそってしまう。

「ママを選ばないなら……私を選べばいいんです。若い子の方がいいですよ」
「ふぅ……」

 俺はフィロの肩を掴んだ。

「フィロ、俺は君の気持ちには応えられない。俺は娘にそういった感情を抱かないようにしている」
「むっ」
「君は若くて美しい。俺ではなく他の男……」
「断られるのは分かってましたので……強硬手段を取らせてもらいます」
「え」
「でや!」
「おまっ! 力つよっ!?」

 こいつ、俺のズボンに手をかけやがった!
 くそっ、すげぇ力! 俺の身体能力はフィロの恩返しによるものがある。
 さすがに本家本元には敵わない。

「パパのために純潔を守ってきたんですよ~。私の初めてを奪ってくだ」

 やばい! フィロに犯され……。

「フィロ~。何をしてるのかなぁ」

 院長室に入ってきたのはマリヴェラだった。
 俺が下になり、フィロが俺の上に乗って、服を引っぺがそうとしている状態なので……状況は理解しやすい。

 フィロは微笑んだ。

「ふふ、私は19になりましたから夫探しをしているのです。なのでパパを」
「もう、だめよそんなことをしちゃ。やめなさい」

 マリヴェラは優しくフィロを諭す。

「お断りです。私がパパを捕まえ、きゃっ!」

 マリヴェラはフィロの頬を両手で掴んでおでこがつくほど顔を近づける。
 マリヴェラの瞳が怪しく光った。

「ねぇ、フィロ。ママの言うことが聞けないの……?」

「ひっ」

 フィロの体が震える。

「おかしいわねぇ、ママはそんな子に育てた覚えはないわぁ。イケナイ子ね」
「あわわわわわ、ごごごごごめんなさい……ママ、許して」
「うん、分かってくれたならいいの……フィロ、大好き」

 フィロは体全身を震わせ、涙目となってしまう。
 そんなフィロをマリヴェラは優しく抱きしめた。

 フィロは幼少の時からの教育により絶対にママに逆らえないように精神から刷り込まれている。
 なのでこの孤児院出身の子供達は絶対にマリヴェラに逆らえない
 帝国最強と呼ばれた冒険者がたった一人のか弱い女性に敵わないのだ。育ての親というのは強い。
 というより魔王の子としての力がユニークスキルに似たものとして左右されているかもしれない。

「ん、誰か来たようだ」

 話の腰を折る形となったが、孤児院の外に誰かの気配を感じる。
 マリヴェラとフィロも俺の声に反応する。

 3人で表へ出ると……1人の男性が孤児院の前で立っていた。
 あれは……。

「遅いですよ。何時だと思っているんですか」
「悪い。だが23時40分。ギリギリ間に合っただろう」

 フィロがその男性に駆け寄った。
 灰色に近い髪色に端正な顔立ち、堂々とした佇まい。
 帝国の政治家が良く着る、フォーマルスーツに身を包んだ姿は印象深い。

 俺達の息子、アルヴァン・ハーヴァンが夜遅くにやってきたのだ。

「パパ、ママ。寝静まった夜に申し訳ない。どうしても今日中に成さねばならないことがあったんだ」

「アルヴァン……。忙しいのにわざわざ来てくれたのか」
「当然じゃないか。僕の愛するママの誕生日に顔を出さないなんてね」

 アルヴァンはマリヴェラに近づいた。

「誕生日おめでとう。そして遅くなってごめんなさい。」
「ありがとうアルヴァン。あなたの元気な姿が見られて本当に嬉しいわ」

 マリヴェラは感激で涙ぐむ。
 5人の卒院生で一番忙しい政治家のアルヴァンが来てくれたんだ。
 感無量と言ったところだろう。

 アルヴァンはスーツのポケットから書類を取り出した。

「ママの29歳の誕生日に合わせて僕達5人で用意したんだ。受け取ってくれるかな」
「もしかしてアルヴァンだけでなく他の子達も!?」
「私が渡さなかったのはこれが理由です。ママ、受け取ってください」

 そういえばフィロも誕生日プレゼントを渡してなかったな。
 もしかしたら大きなことを考えているのかもしれない。

 アルヴァンはにっこりと笑い、マリヴェラに手紙のようなものを渡す。
 マリヴェラは手紙を開いてじっくりと眺めた。

 感激で緩んでいた頬が……次第に真顔になっていく。

「なんぞこれ」

 実に素で出た声だった。

 俺はその手紙をのぞき込んだ。

『帝国議会は下記を承認する。ハーヴァン孤児院を魔王国エストランデと改名し、マリヴェラ・ハーヴァンを魔王として任命する』

「なんぞこれ」

 俺も呟いてしまった。