そんな哲学めいた思考に一人苦笑いを浮かべていると、チャイムが鳴った。

 ーーピンポーンーー

 この病院は、病室に入る際にはインターホンを鳴らすのかと少々不思議に思い扉を見つめるが、いつまで経っても開く気配がない。

 なんだったのだろうかと訝っていると、ベッドのすぐ脇から声がした。

「どこを見ている?」
「おぅわっ!?」

 突然の声に、思わず奇声をあげる。

「古森さ〜ん。お久しぶりです〜」

 ベッドの脇には、スーツをビシッと着こなし細めの眼鏡をかけた、いかにもやり手ビジネスマン風の小野様。そして、ランニングに短パン、裸足という出で立ちに、尖った耳と、尖った犬歯。さらには、頭に二本の角という、何かのコスプレをしているようにしか見えない小鬼の姿があった。

「えっと……何をしているのですか?」

 思わず失礼な聞き方をしてしまったが、小野様は気分を害した様子もなく、相変わらず淡々と話をする。

「定期視察だ」
「定期視察?」
「そうだ。今回の研修は前回と違い、現世時間の三十年後まで区切りがない。そのため、こうして私が定期的にそなたの様子を見にくることにした」
「え? あ、そうなのですか……。僕はてっきり……」
「てっきり? なんだ? 視察は不服か?」
「いえ。そう言うわけではありませんよ」

 僕は、思わず頭を掻く。

 てっきり……三十年後まで会えないのだと、感傷に浸っていました。

 なんて事は、恥ずかしいので口にはしない。

「古森さん、古森さん」

 小鬼は、ベッドによじ登ると嬉しそうな笑顔を見せる。

「僕、初めて現世に来ました〜!!」
「あ〜、そういえば、そうだったね。どうだい? 本物の海か川にはもう行けた?」
「いえ。まだです〜。今回は小野さまに特別に連れてきて頂いたので、まずは、視察目的である、古森さんにお会いする事を優先させてここへ来ました〜。でも、この後でちょっとだけ寄り道してもらえるのです〜! ね、小野さま?」

 小鬼は、まるで遠足に行く子供のようにウキウキを隠し切れていない満面の笑みを振りまいている。

「まぁ此度は、初回故、多少大目に見る予定だ」

 小野様は、なんだかんだと言いながら、やはり小鬼に甘い。この二人の不思議な関係性の謎はまだ解けていないが、それはこれから付き合っていく中で次第にわかってくるだろう。

「そういえば……」

 二人の関係性についても大いに気になるところではあるが、せっかく会えたので、僕は目覚めてから気になっていた事を小野様に向けてみた。