僕の身に起きた事は、例え真実を話したとしても信じてもらえない。
「あ〜、やっぱり頭打ったからかなぁ」
ヘラヘラと答えると、弟はそれ以上深くは追求してこなかった。
「そんなことを言ってると、また母さんに怒られるぞ」
「あはは。そうだね。気をつける」
僕らは、一頻り笑い合う。
「あのさ、にいちゃん」
「何?」
「咲がさ……、にいちゃんの事故を知って、会いたいって……。まだ、目が覚めた事は知らせてないけど、とても心配してたから。……その、いいかな?」
弟はなんだかモジモジとした感じで、僕にお伺いを立ててくる。もしかして弟は、僕の咲への気持ちに気がついていたのだろうか。
この気持ちにも、近いうちに決着をつけなければいけないな。そう思いながら、僕は軽く頷いた。
「僕はいいけど、こんな状態だから何もお構いはできないよ?」
「いいんだよ。アイツにそういう気遣いは。知ってるだろ、幼馴染なんだから」
そう言いながら、弟は膝を叩いて立ち上がった。
「じゃ、連絡してくるわ。たぶん、すぐにでも来るって言うと思うから、俺、迎えに行ってくる」
立ち上がった弟を見上げた瞬間、「りんごの風船」と言って泣いていた小さな弟の俤が重なり、僕は思わず口を開く。
「大きくなったな、保」
「ハァ? 何言ってんの? 随分前に、にいちゃんの身長越してたっつうの」
弟は、手をヒラヒラと振りながら病室の出口へと向かう。弟の背中を見ていた僕は、ある事を思いついて、広くなったその背中に声をかけた。
「あのさ、シュークリーム買ってきてよ。とびきり美味しいやつを四つ。あと、りんご味の飴」
僕のリクエストに、扉に手をかけていた弟が振り返る。
「そんなに注文があるなら母さんに言えば良かっただろ。……まぁ、今日は特別に聞いてやるけど。じゃあ、また後でな」
母も弟もいなくなり一人になると、先ほど微かに鼻を掠めただけだった金木犀の香りが妙に強く感じられて、窓へと視線を向ける。光が眩しくて思わず目を細めた。
話に夢中でまだ口をつけていなかったペットボトルのお茶を、無意識に口へと流し込む。少し濃い目のお茶だった。初めは渋いのに、喉元を過ぎるとほのかに甘くスッキリとした喉越しに、思わずゴクゴクと喉を鳴らす。一頻り飲むとペットボトルから口を離し、しげしげとお茶を見つめた。
生きるという事は、このお茶みたいだ。渋くて嫌なことも、時が過ぎれば、受け止め方が変わるし、スッキリと心が晴れることもある。
「あ〜、やっぱり頭打ったからかなぁ」
ヘラヘラと答えると、弟はそれ以上深くは追求してこなかった。
「そんなことを言ってると、また母さんに怒られるぞ」
「あはは。そうだね。気をつける」
僕らは、一頻り笑い合う。
「あのさ、にいちゃん」
「何?」
「咲がさ……、にいちゃんの事故を知って、会いたいって……。まだ、目が覚めた事は知らせてないけど、とても心配してたから。……その、いいかな?」
弟はなんだかモジモジとした感じで、僕にお伺いを立ててくる。もしかして弟は、僕の咲への気持ちに気がついていたのだろうか。
この気持ちにも、近いうちに決着をつけなければいけないな。そう思いながら、僕は軽く頷いた。
「僕はいいけど、こんな状態だから何もお構いはできないよ?」
「いいんだよ。アイツにそういう気遣いは。知ってるだろ、幼馴染なんだから」
そう言いながら、弟は膝を叩いて立ち上がった。
「じゃ、連絡してくるわ。たぶん、すぐにでも来るって言うと思うから、俺、迎えに行ってくる」
立ち上がった弟を見上げた瞬間、「りんごの風船」と言って泣いていた小さな弟の俤が重なり、僕は思わず口を開く。
「大きくなったな、保」
「ハァ? 何言ってんの? 随分前に、にいちゃんの身長越してたっつうの」
弟は、手をヒラヒラと振りながら病室の出口へと向かう。弟の背中を見ていた僕は、ある事を思いついて、広くなったその背中に声をかけた。
「あのさ、シュークリーム買ってきてよ。とびきり美味しいやつを四つ。あと、りんご味の飴」
僕のリクエストに、扉に手をかけていた弟が振り返る。
「そんなに注文があるなら母さんに言えば良かっただろ。……まぁ、今日は特別に聞いてやるけど。じゃあ、また後でな」
母も弟もいなくなり一人になると、先ほど微かに鼻を掠めただけだった金木犀の香りが妙に強く感じられて、窓へと視線を向ける。光が眩しくて思わず目を細めた。
話に夢中でまだ口をつけていなかったペットボトルのお茶を、無意識に口へと流し込む。少し濃い目のお茶だった。初めは渋いのに、喉元を過ぎるとほのかに甘くスッキリとした喉越しに、思わずゴクゴクと喉を鳴らす。一頻り飲むとペットボトルから口を離し、しげしげとお茶を見つめた。
生きるという事は、このお茶みたいだ。渋くて嫌なことも、時が過ぎれば、受け止め方が変わるし、スッキリと心が晴れることもある。