「では、行きますよ〜。はい、三、二、一〜」

 そして右膝には、ニつ目の傷と同じライン上、三つ目の傷の右斜め下に、新たに赤く焼け焦げた小さな傷が付けられた。

「終わりました〜。完璧ですね〜」

 小鬼は満足そうに僕の傷跡を見ている。

 僕はされるがままと言う感じで、ベッドに腰かけた状態で小さく挙手をする。

「あの……?」
「なんだ? 古森」

 事務官小野はよく通る声で、僕の質問の先を促す。

「認証印は五つ全てを得なくても良かったはずでは?」
「その通り。よく覚えているな」

 事務官は意外そうに僕の顔を見ている。

 結構な大騒ぎをして間違いを正されたのだから、いくら僕でも忘れたりはしない。

 そう言い返すべきなのかもしれないが、この不可解な状況が気になって、言い返すどころではない。

「そなたの言う通り、認証印は研修のクリア如何を確認するために施されるものなので、此度の場合は、全て得ることは特に重要ではなかった」
「じゃあ、なぜ……?」
「事務官付特別補佐になるためです〜」

 小鬼がウキウキを隠しきれないといった様子で、言葉を挟んできた。

「えっと、その事務官付特別補佐とは一体……?」
「小鬼。私が順を追って話す故、しばし静かにしておれ」

 事務官は小さくため息を吐きつつ、小鬼を諫める。

「申し訳ございません〜。つい嬉しくて……」
「まぁ良い。そなたも、そのサプリでも飲んで少し落ち着くが良い」

 先ほど小鬼によって僕の手から回収されたカップを事務官は顎で示す。

「いえ、大丈夫です〜」

 そう言いつつ小鬼はお口チャックのポーズを取った。

 事務官小野は軽く咳払いをして、場を引き締めてから口を開いた。

「その焼印が地獄の認証印であることは、そなたも知っておろう?」
「はい」

 僕は軽く頷く。

「地獄主導で今回のような研修が行われることは極めて稀であるが、焼印が施されること自体は、実はそれほど珍しい事例ではないのだ」
「そうなのですか?」
「うむ。焼印が施される理由は様々ではあるが、総じて地獄が定めた何かしらをクリアした時に焼印は施される」
「はぁ」
「そして、五芒星を得た者は地獄の苦行を免除される可能性がある」
「五芒星?」

 僕が聞き慣れない言葉に首を傾げていると、事務官が鋭く僕の右膝へと視線を送る。

「そなたの膝にある、それらの傷のことだ」
「えっ?」

 僕はベッドに腰掛けたまま、右足をピンッと伸ばして膝の傷をまじまじと見た。よくよく見ると、五つの傷は星形のような配列をしている。