「克服?」
「だって、そうでしょ? あなたはすごく饒舌で、とてもじゃないけれど、人見知りには見えないわ。何か方法があるなら是非教えて頂戴。私は、あの子に少しでも人と繋がる機会を持ってほしいの。これから先の人生を、ずっと自分の殻にだけ閉じ籠って生きていくなんて、寂しすぎるもの」
「確かに、これから先、一人きりというのは寂しいでしょう。でも、先ほども言いましたが、周りの人ができることは推測と確認くらいです。いくらあなたが人見知りの克服方法を知っていても、人と繋がってほしいと思っていても、本人が自身で人との繋がりが大切であると気がつかなければ解決はしないと思います」
「それは……分っているわ。でも、……でも、何か変わるきっかけを……」

 どこか浮ついた表情だった母の顔は、次第に緊迫したものへと変わっていった。母はこれからの僕の人生を心の底から心配しているのだろう。この緊迫感は、母の僕への愛情の表れだ。

 以前の僕ならば「煩いことを言うな」「僕の気持ちも知らないで」「僕は一人が気楽でいいんだ」なんてことを思っていたかもしれない。でも今の僕にはそんなことは思えない。こんなにも母の愛情を目の当たりにしているのだから。

 母は必死だ。目にはうっすらと涙が滲んでいる。

 こんな思いをさせていたなんて、僕はなんて我儘に生きていたのだろう。死んでから気がついたって、もう遅いのに……。

 どんなに後悔しても、僕が現世で母のために何かをすることは、もう叶わない。

 だったら、せめて今、目の前にいるこの母の役に立ちたい。

 僕も泣きそうになった。でも、涙をぐっと堪えると、とびきりの笑顔を母に向ける。

「きっかけを望むなら、それはあなたですよ」
「えっ?」
「あなたが推察と確認を続けていれば、必ず彼にあなたの思いが届く日がくるはずです」
「そう……かしら?」

 母は不安そうだった。

 でも、これは間違っていないと思う。だって僕はここに来て、小鬼に、そしてこの『ありがとう体感プログラム』内で出会った保や咲に、人と向き合うきっかけをもらったから。相手を気遣い、言葉を交わし、気持ちを知ることの大切さに気付かされたから。

 だから、僕は自信を持って頷いた。

「はい! 僕はそうして気づくきっかけをもらいましたから」

 ソファに座る小鬼をチラリと見る。小鬼は満面の笑みだった。

「僕は、人と話すことの大切さに、自分の思いを伝えることの大切さに、最近になって気がつきました」