「あの、シュークリームですが……」
「うん?」
「二等分にするということでは、ダメだったのでしょうか?」
「えっ?」

 母は小首を傾げたまま、しばし固まってしまった。

「ですから、残り一つのシュークリームを、半分ずつ息子さんたちが食べればよかったのではないかと……」
「あなた……」

 僕の遅すぎる提案を、固まったまま驚きの顔で聞いていた母が、ポツリと声を漏らした。

「はい?」
「もしかして……、お兄ちゃんなの?」

 母の言葉に、今度は僕が身を固くして驚く。

 これまでの研修でも、見知った相手と言葉を交わしてきたが、彼らは僕を「古森衛」として認識していなかった。今回もそういうことだろうと漠然と思っていたのだが、ラスボスは、やはりこれまでとは違うのだろうか。

 突然のことに、僕は動揺を隠せず不自然に口をパクパクとしながら、事情を知っていそうな冥界区役所職員の二人に視線を向ける。しかし、二人ともが母の言葉に驚いたかのように目を見開いていた。

 どうやらこの出来事は、彼らにとっても想定外の出来事のようだ。彼らからの助言が得られないとなると、この状況はどのように対処すべきなのだろうか。

 あまりの驚きに思考が追い付かずにいるのに、それでも、僕の口は僕の意思とは関係なく言葉を発していた。

「ど……どうして、それを?」

 つい先程、カモミールティーで潤したはずの喉からはカラカラの声が出た。

 そんな僕にはお構いなしに、母は嬉しそうに手を叩く。

「やっぱり〜! うちの子と同じようなこと言うから、びっくりしちゃったわ〜」
「えっ?」
「うちの子もよく言うのよ。弟と半分でって。しかも、自分の取り分までなんだかんだ理由つけられて弟に取られちゃうの。結局、本人は食べれずじまい。あなたも、実はそうなんじゃない?」
「えっ?……あの……」

 母は少し呆れたように微笑みながら、僕を見る。どうやら母は、僕を保の兄として認識している訳ではなく、下に兄弟のいる他人として話をしているようだ。

 僕は、他人として振る舞い続けることに安堵しつつも、どこか寂しい気持ちになっていることに気がつかないフリをする。

 冥界区の二人も、話の流れから状況を察したのか、胸を撫で下ろしているのが視界の端に映った。

 母は、さぞかし複雑な表情をしているであろう僕に、真っ直ぐに視線を合わせてくる。

「あのね、お兄ちゃんだからって、我慢することないのよ」
「えっと……」

 母の真意が分からず、僕の反応は鈍くなる。