「しっかりしろなんて、簡単に言うなよ! 他人事だから小鬼はそんなに簡単に言うんだろうけど、結果はもう決まっているんだろ! 四回目がクリア出来なかったんだから!」

 僕の態度に小鬼はしばし固まった後、何か言いたげに僕と事務官小野の顔をチラチラと見比べる。

 事務官はそんな小鬼の視線に気付いているようだが、表情一つ変えず僕を冷ややかに見据えていた。

 尊敬する事務官の冷ややかな視線の意味を察したのか、小鬼はガックリと肩を落とし項垂れながら事務官の足元へと戻って行った。

 そんな小鬼の打ちひしがれた後ろ姿を苛立たしく見ていると、僕の視線を遮る様にして事務官が一歩僕に近づいてきた。

「古森、小鬼に八つ当たりするのはやめろ。昨日、研修を完遂出来なかったのは、そなたが自ら動かなかった結果だ。自業自得であり、我らが文句を言われる(いわ)れはない」

 事務官小野の至極真っ当な言い分と、有無を言わせぬ威圧に僕は口籠るしかない。

 確かにその通りだ。自分の殻に閉じ籠っていないでもっと自発的に行動していれば、こんな焦燥感に(さいな)まれることなどなかっただろう。

 僕は俯き唇を噛みしめながら、手のひらが白くなる程に両手を強く握り込む。

 僕の様子をしばらく黙って見つめていた事務官は、特に慰める訳でもなく叱咤するでもなく、ただ淡々と物事を進めようとしている。

「さて、古森。まずは、そなたに言っておきたいことがある」

 そんな事務官の事務的な態度に反発を覚えながらも、僕は従順に従う。

「なんですか?」
「そなたは先ほど、既に最恐レベル行きが決まった様な物言いをしていたが……」
「そうでしょ! 四回目がクリア出来なかったんだから」

 僕は、もう分かり切っている話に投げやりに答える。しかし、事務官小野は淡々と話を続けた。

「それは、そなたの考えであろう。我らの答えを勝手に決めぬように」
「えっ?」
「以前にも言ったが、此度(こたび)の研修は、そなたの人となりを見ることが目的だ」
「はぁ……」
「結果次第では、他の者同様に救済措置が与えられることになるやもしれんと伝えてあるはずだが?」

 そういえば、初めの説明の時にそんなことを言われた気もする。

 事務官の鋭い視線に晒されながら、彼の言葉を頭の中で反芻するうち、僕は絡まった糸が(ほど)けるような感覚を感じた。

 額に手を当てて、目を瞑る。頭の中でゆっくりと考えを整理する。

 そして、一度糸口が見つかれば途端に糸が解けるように、僕はある考えに突然辿り着いた。