ある朝、鳥のさえずりが聞こえ目が覚める。
身体を起こそうとすると頭がガンガンと痛む。
身体もとても熱い。
「はぁ……げほっ」
咳も可愛らしいものではない。
これは風邪を引いてしまったようだ。
どうしようか。
茅都さんはもう起きているだろうか。
茅都さんに今日は大学に行けないと報告しなければ。
けれど、茅都さんに迷惑をかけてしまうのではないかという考えになる。
数日前、茅都さんの帰りが遅い日があった。
その日は普通に大学があり、茅都さんも大学に来ていた。
それなのに、茅都さんが帰って来たのは時計の針が夜の十二時を回った頃だった。
夕食は家で食べるとのことだったのでわたしもあまり遅くならないだろうと思っていた。
わたしも茅都さんになにかあったのではないかと心配で寝れなかったのだ。
あまり人のプライベートに踏み込んでしまうのも良くないのではないかと思い、なぜ遅くなったかの理由は聞かなかったが、茅都さんは明らかに疲れた表情をしていた。
ㅤただでさえ、疲れているだろう茅都さんに迷惑を掛けたくない。
わたしは熱を測ろうと思い、体温計を取りにベッドから降りた。
「……っ」
すでに身体が限界だったのかフラッと倒れそうになる。
「──危なっ」
ぎゅっと誰かに抱きしめられた。
意識がふわふわしていて誰だかわからない。
「妃翠、ごめんこんなに体調悪そうなのに気づいてあげられなくて」
意識がハッキリとしてくる。
「茅都さん……?」
喉が痛くて上手く声が出せず、掠れた声になる。
「そうだよ……なんでこんなに身体熱いのに立ち歩いたの」
「体温計……取りたくて」
わたしが言うと、茅都さんはわたしの身体をひょいと持ち上げた。
「え?茅都さんっ、この体勢恥ずかしいわよ……」
急にお姫さま抱っこなんてされたらすでに熱い身体が一層熱帯びてしまう。
「熱があるお姫さまには丁度いいと思うけどな」
茅都さんにそう言われ何とも言えない。
「ほら、熱測って」
茅都さんに体温計を渡される。
体温計から音が聞こえ、自分の体温を見る。
「三十九度……」
茅都さんに見せると頷いた。
「さすがにそれくらいあるだろうなとは思ったけど……結構高いな」
こんなに体温が高くなることがなかったので不安になる。
昔、今の体温よりかは低かったけれど、高熱が出たときに使用人に熱があることを伝えたけれど食事も出されず、倒れたことがある。
そのときは病院送りになったけれど、お父さまや継母さまは何一つ心配してくれなかった。
そのときに悲しいという感情を思い出した気がした。
「……妃翠?」
茅都さんの手がわたしの頬に触れる。
「あっ……」
わたしは涙を流していた。
「どうしたの?身体辛い?」
なにも答えられない。
茅都さんもお父さまたちと同じようにどこかへ行ってしまうのではないだろうか。
もう、見捨てられるのは嫌だ。
「水、取って来るね」
茅都さんがわたしのベッドから離れようとしたとき。
「だ、ダメ……離れちゃダメ……」
自分の口から発されたものとは思えない言葉が出た。
茅都さんは案の定驚いた表情をしていた。
「……今日はずいぶんと素直だね」
茅都さんはまたわたしのベッドに腰かけた。
(──いつもこんなに素直に甘えてくれたらいいのに)
茅都さんの心の声が聞こえる。
そう言われても甘え方がよくわからない。
「大丈夫、妃翠のそばから離れたりしないよ。……でも、水飲まないと妃翠の身体ずっと辛いよ?」
昔のことを思い出すと信用していた人に裏切られるのではないかと不安になってしまう。
茅都さんはきっとそんなことをするような人ではないとわかっているけれど。
「わかったわ……」
わたしは大人しくベッドに横になる。
少ししてから茅都さんが戻ってきた。
「お待たせ、一人で飲める?」
茅都さんの質問に疑問を抱いた。
「飲めるけれど……一人で飲めないって言ったらどうなるのかしら?」
わたしが聞くと、すぐに茅都さんの心の声が聞こえた。
(──これ、天然なのか?それとも僕が試されてるのか?)
わたしには理解できなかったがきっと茅都さんは深いことを考えているのだろう。
「んー……口移しで飲ます」
わたしは思わず水を吹き出すところだった。
「……な、なななにを言っているのよ!」
わたしは急に大きな声を出したからなのか咳が止まらなかった。
「よしよし、そんなに恥ずかしい?僕との口移し」
茅都さんはわたしの背中をさすりながらそう言った。
「恥ずかしいに決まっているじゃない……」
茅都さんの顔を上手く見れない。
きっとわたし今、顔がりんごのように赤いだろう。
「そうなの?じゃあ、妃翠が恥ずかしくなくなるまで待つよ」
茅都さんはそう言ってくれたけれど、恥ずかしさがなくなることなどないのだろう。
「……身体辛いでしょ?」
「ええ、一回寝るわね」
わたしに布団をかけてくれる茅都さん。
「うん……おやすみ」
茅都さんの言葉が聞こえ、意識がぷつりと切れる。
目が覚めたのはお昼ごろだった。
「あ、起きた?お粥つくったけど食べれる?」
茅都さんの声が聞こえる。
「ええ。ありがとう、いただくわ」
茅都さんはおぼんにお粥と緑茶を置いて持ってきた。
「ちょ、ちょっと……一人で食べれるわよ」
茅都さんはわたしにスプーンを渡してくれなかった。
「お姫さま、今日はたくさん甘えてください」
茅都さんは王子さまオーラをまとわせて言う。
「……っわ、わかったわ」
恥ずかしさと戦いながら茅都さんにお粥を食べさせてもらう。
「おいしい?ちゃんとつくれてるかな?」
茅都さんに言われ、こくこくと頷いた。
「よかった」
ニコっと笑った茅都さんがカッコイイと思ったのはわたしが熱のせいなのか。
昼食を食べ終わったあとはずっと寝ていた。
気づいたら夜の七時になっていた。
「おはよ、妃翠」
「おはよう……と言っても今は夜でしょう?」
「そうだね、妃翠は身体もう平気?」
茅都さんは優しい声色でわたしに聞く。
「ええ。……それよりも茅都さん今日はありがとう。それとごめんなさい」
わたしが言うと茅都さんは首を傾げた。
「ありがとうはなんとなく理解できるけど、ごめんなさいはよくわからないな。なんで妃翠が謝るの?」
茅都さんはわたしの頭を撫でた。
「だって、今日は普通の平日よ?大学だってあるじゃない」
わたしは朝から思っていたことを口にした。
今日は普通に大学がある日。
なのに、茅都さんはずっとわたしの面倒を見てくれた。
「……妃翠が謝ることなんてないよ。妃翠が元気になってくれるならそれでいいの」
茅都さんはいつでも優しい。
身体を起こそうとすると頭がガンガンと痛む。
身体もとても熱い。
「はぁ……げほっ」
咳も可愛らしいものではない。
これは風邪を引いてしまったようだ。
どうしようか。
茅都さんはもう起きているだろうか。
茅都さんに今日は大学に行けないと報告しなければ。
けれど、茅都さんに迷惑をかけてしまうのではないかという考えになる。
数日前、茅都さんの帰りが遅い日があった。
その日は普通に大学があり、茅都さんも大学に来ていた。
それなのに、茅都さんが帰って来たのは時計の針が夜の十二時を回った頃だった。
夕食は家で食べるとのことだったのでわたしもあまり遅くならないだろうと思っていた。
わたしも茅都さんになにかあったのではないかと心配で寝れなかったのだ。
あまり人のプライベートに踏み込んでしまうのも良くないのではないかと思い、なぜ遅くなったかの理由は聞かなかったが、茅都さんは明らかに疲れた表情をしていた。
ㅤただでさえ、疲れているだろう茅都さんに迷惑を掛けたくない。
わたしは熱を測ろうと思い、体温計を取りにベッドから降りた。
「……っ」
すでに身体が限界だったのかフラッと倒れそうになる。
「──危なっ」
ぎゅっと誰かに抱きしめられた。
意識がふわふわしていて誰だかわからない。
「妃翠、ごめんこんなに体調悪そうなのに気づいてあげられなくて」
意識がハッキリとしてくる。
「茅都さん……?」
喉が痛くて上手く声が出せず、掠れた声になる。
「そうだよ……なんでこんなに身体熱いのに立ち歩いたの」
「体温計……取りたくて」
わたしが言うと、茅都さんはわたしの身体をひょいと持ち上げた。
「え?茅都さんっ、この体勢恥ずかしいわよ……」
急にお姫さま抱っこなんてされたらすでに熱い身体が一層熱帯びてしまう。
「熱があるお姫さまには丁度いいと思うけどな」
茅都さんにそう言われ何とも言えない。
「ほら、熱測って」
茅都さんに体温計を渡される。
体温計から音が聞こえ、自分の体温を見る。
「三十九度……」
茅都さんに見せると頷いた。
「さすがにそれくらいあるだろうなとは思ったけど……結構高いな」
こんなに体温が高くなることがなかったので不安になる。
昔、今の体温よりかは低かったけれど、高熱が出たときに使用人に熱があることを伝えたけれど食事も出されず、倒れたことがある。
そのときは病院送りになったけれど、お父さまや継母さまは何一つ心配してくれなかった。
そのときに悲しいという感情を思い出した気がした。
「……妃翠?」
茅都さんの手がわたしの頬に触れる。
「あっ……」
わたしは涙を流していた。
「どうしたの?身体辛い?」
なにも答えられない。
茅都さんもお父さまたちと同じようにどこかへ行ってしまうのではないだろうか。
もう、見捨てられるのは嫌だ。
「水、取って来るね」
茅都さんがわたしのベッドから離れようとしたとき。
「だ、ダメ……離れちゃダメ……」
自分の口から発されたものとは思えない言葉が出た。
茅都さんは案の定驚いた表情をしていた。
「……今日はずいぶんと素直だね」
茅都さんはまたわたしのベッドに腰かけた。
(──いつもこんなに素直に甘えてくれたらいいのに)
茅都さんの心の声が聞こえる。
そう言われても甘え方がよくわからない。
「大丈夫、妃翠のそばから離れたりしないよ。……でも、水飲まないと妃翠の身体ずっと辛いよ?」
昔のことを思い出すと信用していた人に裏切られるのではないかと不安になってしまう。
茅都さんはきっとそんなことをするような人ではないとわかっているけれど。
「わかったわ……」
わたしは大人しくベッドに横になる。
少ししてから茅都さんが戻ってきた。
「お待たせ、一人で飲める?」
茅都さんの質問に疑問を抱いた。
「飲めるけれど……一人で飲めないって言ったらどうなるのかしら?」
わたしが聞くと、すぐに茅都さんの心の声が聞こえた。
(──これ、天然なのか?それとも僕が試されてるのか?)
わたしには理解できなかったがきっと茅都さんは深いことを考えているのだろう。
「んー……口移しで飲ます」
わたしは思わず水を吹き出すところだった。
「……な、なななにを言っているのよ!」
わたしは急に大きな声を出したからなのか咳が止まらなかった。
「よしよし、そんなに恥ずかしい?僕との口移し」
茅都さんはわたしの背中をさすりながらそう言った。
「恥ずかしいに決まっているじゃない……」
茅都さんの顔を上手く見れない。
きっとわたし今、顔がりんごのように赤いだろう。
「そうなの?じゃあ、妃翠が恥ずかしくなくなるまで待つよ」
茅都さんはそう言ってくれたけれど、恥ずかしさがなくなることなどないのだろう。
「……身体辛いでしょ?」
「ええ、一回寝るわね」
わたしに布団をかけてくれる茅都さん。
「うん……おやすみ」
茅都さんの言葉が聞こえ、意識がぷつりと切れる。
目が覚めたのはお昼ごろだった。
「あ、起きた?お粥つくったけど食べれる?」
茅都さんの声が聞こえる。
「ええ。ありがとう、いただくわ」
茅都さんはおぼんにお粥と緑茶を置いて持ってきた。
「ちょ、ちょっと……一人で食べれるわよ」
茅都さんはわたしにスプーンを渡してくれなかった。
「お姫さま、今日はたくさん甘えてください」
茅都さんは王子さまオーラをまとわせて言う。
「……っわ、わかったわ」
恥ずかしさと戦いながら茅都さんにお粥を食べさせてもらう。
「おいしい?ちゃんとつくれてるかな?」
茅都さんに言われ、こくこくと頷いた。
「よかった」
ニコっと笑った茅都さんがカッコイイと思ったのはわたしが熱のせいなのか。
昼食を食べ終わったあとはずっと寝ていた。
気づいたら夜の七時になっていた。
「おはよ、妃翠」
「おはよう……と言っても今は夜でしょう?」
「そうだね、妃翠は身体もう平気?」
茅都さんは優しい声色でわたしに聞く。
「ええ。……それよりも茅都さん今日はありがとう。それとごめんなさい」
わたしが言うと茅都さんは首を傾げた。
「ありがとうはなんとなく理解できるけど、ごめんなさいはよくわからないな。なんで妃翠が謝るの?」
茅都さんはわたしの頭を撫でた。
「だって、今日は普通の平日よ?大学だってあるじゃない」
わたしは朝から思っていたことを口にした。
今日は普通に大学がある日。
なのに、茅都さんはずっとわたしの面倒を見てくれた。
「……妃翠が謝ることなんてないよ。妃翠が元気になってくれるならそれでいいの」
茅都さんはいつでも優しい。