茅都さんと食事に行くことになった。
 食事処はいかにも高級そうな和食レストランだった。
 わたしはあまり外食に行かないので緊張していた。
 乃々羽お姉さまはよくレストランに連れて行ってもらえている。
 わたしはに誘いの言葉一つなく。
 気づけばお父さまと継母さま、乃々羽お姉さまはいなかった。
 何時間か経った頃、門が開き三人が帰って来ることがいつものことだった。
「妃翠、行かないの?」
 茅都さんの声が聞こえて現実に戻る。
「え、えぇ。ごめんなさい、ボーっとしていたわ」
 わたしは急いで茅都さんのところへ歩く。
「……お、美味しそうね」
 緊張しているのがバレバレなのかふっと笑われた。
「こういうところ慣れてないの?」
 そう言われハッとする。
 これで慣れていないと言えば綾城家での扱いがバレてしまうかもしれない。
「そ、そんなわけないでしょう……!か、茅都さんとお食事で緊張しているのっ」
 とっさに出た言葉だったけれどわたし何気に変なこと言っている気がする。
「……っ。急になに」
 ぷいっとどこかを向いてしまう茅都さん。
(──なんでこんな僕だけが照れてるんだろ)
 照れているという言葉に首を傾げる。
 なにに照れているのか。
 そう思ったが変に考えると能力がバレてしまう。
 それだけは絶対に嫌だ。
 茅都さんと食事をすすめる。
「……そういえば、気になっていたのだけれど雲龍家ってなぜ冷酷な一族っていわれているの?茅都さんもご当主さまだって優しいじゃない……って、わたし失礼なこと言ってしまったわ。ごめんなさ──」
「……妃翠は知らなくてもいいことだから」
 その一言で空気が重くなった。
「……っ」
 茅都さんの瞳も声色も冷たかった。
 この空気嫌だ。
 継母さまを思い出してしまう。
『──気味が悪いのよ!』
『……悪魔の子だもの』
『あなたなんかいなかったらよかったのに』
 嫌な言葉しか出てこない。
 こんなことをためらわずに言ってしまうわたしに非があるのだと実感した。
 その日は食事を終わらせすぐに帰宅した。
 夜はあまり寝つけなかった。
「はぁ……」
 わたしはため息をつき、小さな窓を開ける。
 今夜は満月。
「……あなたみたくわたしも堂々と生きれるのかしら。こんな能力も家のことも気にせずに」
 決して答えが返ってこないとわかっているけれど、綺麗に輝く月に問う。
 それがなにを意味しているのかもわからないがふわっと心地よい風が吹く。
「全てが上手くいけばいいのに……」
 そんなことをつぶやき、ベッドに向かい眠りにつく。