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『音楽に恋して』


第4回:『The Good Life:Till Bronner』(ソニー・ミュージック:88875187202)

今回は男性のトランペット奏者、『ティル・ブレナー』のご紹介です。

彼は1971年にドイツで生まれています。
9歳でトランペットを習い始めると、その才能がすぐに開花し、国内のコンクールで優勝します。
更に、15歳の時にジャズ・コンテストで優勝し、連邦ジャズ・オーケストラに最年少で参加することになります。

大学は名門ケルン音楽大学で、若干20歳でベルリン拠点のビッグバンドで活動を始めます。
そして、1993年にCDデビューし、1999年に発売したアルバムがスイングジャーナル誌のゴールド・ディスクに選定されると、日本でも知られるようになります。

そんな彼が2016年に発表したのが今回のCD『ザ・グッド・ライフ』です。

トランペットというとうるさい楽器のように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、彼がこのアルバムで出す音は落ち着きのあるしっとりとした音色です。
しかも、歌えます。
『歌うトランぺッター』です。
その声はかなり渋いです。

では、曲順をご紹介します。

1:The Good Life
2:Sweet Lorraine
3:For All We Know
4:Come Dance with Me
5:Change Partners
6:Love is Here to Stay
7:I Loves You,Porgy
8:I May be Wrong
9:O Que Resta
10:I’m Confessin’ that I Love You
11:I’ll be Seeing You
12:Her Smile
13:In the Wee Small Hours of the Morning

1曲目のアルバムタイトル曲『The Good Life』はミュート(楽器の先端に器具を取り付けて音色を変化させる)したトランペットの音で始まります。
くぐもった音が落ち着きのあるムードを醸し出し、味わい深さと思慮深さを運んできます。

良き人生、素晴らしい人生、豊かな人生……、
長いプロ生活の中で苦労や挫折を経験したであろう彼が取り上げるからこそ意味のある曲に深化できたのではないかと思います。

2曲目『Sweet Lorraine』で彼の歌声が聴けます。
軽やかなピアノのイントロに導かれて少し掠れたような渋い声で「スウィート・ロレイン」と甘く囁くように、そして祈るように歌います。誰かが彼女のハートを奪わないようにと。

3曲目『For All We Know』はアンニュイな佳曲です。
ミュートしたトランペットの音色がけだるい甘さを連れてきます。

4曲目と5曲目はダンスのことを歌う曲が続きます。
『Come Dance with Me』は一転してアップテンポの曲で、キュートな女性をダンスに誘う様がウキウキと歌われています。
チークダンスに持っていきたいようですが、さてどうなるのでしょうか。

『Change Partners』は踊る相手が決まっている女性に「パートナーをチェンジして僕と踊りませんか?」と静かに誘いかけており、トランペットの音色も優しく誘いかけるかのようです。

7曲目の『I Loves You,Porgy』はインストルメンタル(演奏だけの曲)ですが、アンニュイ(物憂げ)なムードのトランペットがゆったりとしたリズムで奏でられます。
片思いなのでしょうか? 
それとも、離れ離れになってしばらく会っていないのでしょうか? 
それとも、別れたあとの未練なのでしょうか? 
色々と想像してしまいます。

軽やかに歌い上げる12曲目の『Her Smile』に思わず体が動いてしまいます。
彼女の笑顔にぞっこんなのでしょう。
リズミカルでウキウキしてきます。

そして、呟くような歌と演奏の『In the Wee Small Hours of the Morning』で幕を閉じます。

落ち着きがあって、味わい深く、思慮深さを感じるアルバムです。
それは、彼がヨーロッパのミュージシャンだからかもしれません。
クラシックの伝統を受け継いできた血がこのアルバムに流れているように思うからです。
是非、じっくりとお聴きになってください。