右手に構えていた剣を捨て、貫いている骸の腹を蹴り、刀を強引に引き抜いた。
「……っ!」
 目の前にいる男に襲い掛かれば、どのような最期が待っているのか、容易に想像できた。
 けれど、それでも、男達は退けなかった。
 死の恐怖を振り払うように叫んで、突っ込んだ。
「哀れだな。こんな屑のために、命を懸けるなど。俺がこの家を壊し、負の連鎖を断ち切ってやる」
 ヴィアザは男達を次々に殺し、呟いた。
「たった二人に、なにができる!?」
 その言葉を聞いていた一人の男が叫んだ。
「見かけだけがすべてだと、思うな。……甘すぎるぞ」
 斬撃を受け、息も絶え絶えだった男を殺すと、低い声で吐き捨てた。
「なんなんだ、こいつは! こいつらじゃ、なにもできないというのか!」
 聞こえてきた叫び声に、ヴィアザは鋭い視線を投げた。
「今さら気づいたのか。こいつらはただ、ここで死ぬしかないんだよ」
「全員を殺すつもりか!」
「当然だ」
「お前達は状況報告しに、走れっ!」
 近くにいた男に言うと、彼は(はじ)かれたように動き出して、奥に向かった。
 無駄な男達の波がいったん止まった。

「さっさとかかってこい。我らが相手だ」
 男二人は剣を構えた。
「殺すだけというのに、飽きてな。ちょうどいい。どんな戦いになるのかな?」
 ヴィアザは冷笑(れいしょう)を浮かべながら、男達二人に突っ込む。
 ――がきんっ!
 刀と剣がぶつかり合い、硬い音が響く。
 それらを弾き返し、二人の腹を、ざっくりと斬りつける。
「ぐっ……!」
 二人は腹を押さえながら、剣を手にして立ち上がる。
「ほう? 雑魚よりはましな反応だな」
 笑みを深めながら、ヴィアザが言った。
「おらっ!」
 二人は突きを繰り出してきた。
 それは右手と、左肩を刺し貫いた。
「刺されたのに、なんで、そんな顔をしてるんだよ!」
「怪我のひとつやふたつで、動揺するわけがないだろう」
 ヴィアザは口端から鮮血を滴らせながら、吐き捨てた。
「なっ!」
 足払いを受けてしまい、二人の男達が床に倒れた。
「寝転がっていろ」
 ヴィアザは吐き捨てると、刀を床に突き刺して、右手を刺し貫いている剣をつかんで抜いた。
 男達が驚く中、傷ついた右手で、左肩に突き刺さっている剣をつかんで抜いた。
「どう見ても、深手だろうに……」
「なんでそんな涼しい顔をしてるんだよ!」
 男二人が怯え出した。
「今さら怖くなったのか。感情が麻痺しているのかと思っていたが、違ったか」
 右手をだらりと下げたヴィアザが、鼻で(わら)った。
「ここは好きに通っていい!」
「だから、生かしてくれぇ!」
 情けない悲鳴が響き渡った。
「特別扱いなどしない。俺は、この家にいる人間全員を、殺さなければならない」
 言いながらヴィアザは、左側にいる男の心臓を刺し貫いた。
「し、死にたくないっ!」
「手遅れだ、諦めろ」
 男の胸倉をつかみ上げたヴィアザは、心臓を刺し貫いた。


 最奥へと続く扉を強引に蹴り開けた。
 広い部屋の奥の椅子で、ふんぞり返っている身なりのいい男がいた。近くにいる少女に、ナイフを向けていた。
「それは困るが……人質のつもりか? バカバカしい」
「なら……ぐっ!」
「てこずったのか?」
 発砲音を聞いたヴィアザは、肩越しに振り返った。
「数が多かっただけ」
 そこには銃口から煙が出ているライフルを構えた、セリーナがいた。グレーのライフルの名前はウノメナ。やはり、彼女の射撃技術はかなり高い。

 貴族の男は脚を撃たれ、痛みに騒ぎ出した。
「血が……! 貴族であるわしの血が……!」
 ナイフなどほっぽり出して、溢れ出す鮮血をどう止めたものか考えているようだ。が、パニックというのもあり、いい案が浮かばないらしい。
「こっちだ! こい!」
 ヴィアザは少女に、視線を向けて声を張った。
 少女は弾かれたように、さっと顔を上げてこちらへ駆け寄ってきた。
「あの場所へ」
 ヴィアザが低い声で告げると、セリーナは少女を連れて、家を去った。


「殺してやるよ」
 痛みに騒いでいる貴族に近づこうとしたが、使いの男が立ち塞がった。
「死にたいのか」
 ヴィアザは嘲笑(あざわら)うと、刀を繰り出した。
 男の腹を刺し貫き、無造作に刀を引き抜く。鮮血が溢れ出す傷に、強烈な蹴りを叩き込んだ。
 男はその勢いに耐えきれず、壁に激突。激しく咳き込んだ。
「後で相手してやる。それと、返す」
 部屋の入口に置いてあった、ずしりと重い印つきの袋を、二人の間に向かって投げつけた。
「あの子どもを引き取るのなら、返して当然だ」
「勘違いしていないか? 貴様らに金など必要なかろう?」
「大きな石が詰め込まれているだけで、金のコインが一枚もありません!」
 使いの男が中身を見て叫んだ。
「騙したな!」
「それがなんだ? 貧しい者達の人生を、命を、金の袋ひとつで買い取ることがおかしいんだよ。値段がつけられないものなのに、勝手につけて。それらは売り物じゃあない」
 ヴィアザは貴族の男を睨んだ。
「黙れ、黙れ! 代々そうしてきたから、やったにすぎん!」
「代々そうしてきたから赦されると? ふざけるな」
 ヴィアザは怒気をあらわに吐き捨て、刀を貴族の男に向けて駆け出した。