セリーナはヴィアザの靴を脱がせて、ベッドに座ると、ヴィアザの顔を眺めた。
 美しいのに、その表情は苦悶に満ちている。
「本当に、あなたは、修羅そのものよ……」
 セリーナは呟くと、横になってヴィアザを抱きしめた。


 ヴィアザが意識を取り戻したのは、それから三日後の夜だった。
「ここは……?」
「隠れ家よ。身体は動かさないで、話せるなら、薬飲んでくれる?」
「薬……?」
「ニトさんからもらった、解毒薬。毎日飲まないと効かないんですって」
「分かった」
 ヴィアザが薬を飲むと、ふうっと息を吐き出した。
「まだ、あちこち痛むでしょ?」
「……ああ。俺はどれくらい、寝ていたんだ?」
「三日よ」
「俺のことはもういいから……」
「それは、動けるようになったら言って?」
 セリーナは、凄みのある笑みを浮かべて言った。
「……分かった」
 それから七日の間、ぽつぽつと話をしながら、ヴィアザは解毒薬を飲み続けた。

 そんなある日の夜、ドアを叩く音が聞こえてきた。
 セリーナが、ドアを開けた。
 かなり上等なものを着た兵士長が、姿を見せた。
「セリーナ、ヴィアザ・ヴァンフォール。両名をここで殺す」
「話は外で聞くわ」
 氷のような冷たい声で言い、セリーナは外へ出た。
 周囲を見ると、大勢の兵士が逃げ場を塞ぐように展開していた。
 宰相の(めい)できたのかもしれない。
「国の裏を取り仕切る者など、要らんのだよ」
「推測なんだけれど。この国のすべてを手中に収めたいだけでしょう?」
「分かっているのなら、大人しく明け渡せ」
「お断りよ。ここで全員殺してあげる」
 セリーナはリヴォルバーを構えて、正確に撃ち始めた。
 五人の兵が首を撃ち抜かれて倒れた。
「特殊な弾なのかっ!」
「違うわ、普通の。鎧って面倒なのよね。敵に回ると厄介」
 と言いながらも、セリーナは次々に兵士を撃ち殺していく。言っていることと、やっていることが正反対である。
 前方にいた兵士全員を始末すると、後方に移動して、全員を殺した。
 残りは兵士長だけだ。
「たった一人の女相手に、敵わないだとっ!」
「バカね。数が増えても結果は変わらないわよ? あたし達とあんた達では、多分、質が違うのよ」
 セリーナはそう言うと、兵士長の首を撃ち抜いた。

「終わったわよ。なんでも使えそうなものを持っていきなさいな」
 セリーナが声を張ると、貧困街の者達が出てきた。が、全員武器を持っている。
「どういうこと?」
「お前と、男を殺せば、一生遊んで暮らせる金を払うっていう奴がいてな。おれらは、殺しにきたんだ!」
「なんだ。敵なのね」
 セリーナの纏う空気が変わった。
「ひっ!」
「一気にいくぞ!」
 金に目の眩んだ男達が、いっせいに襲いかかった。
 空気を裂くのは十回の銃声。
「があああああっ!」
 十人の男が、心臓を撃たれて、バタバタと倒れた。
「あんたらなんかが、あたし達を殺す? バカも休み休み言ってくれない? この国一とも言われる兵士達ですら敵わなかったのに。人間って、欲望には勝てないのかしら。それとも、あたしがお金に無欲なだけかしら」
「うるせぇんだよっ!」
「それは、あんたの方よ」
 セリーナのリヴォルバーが火を噴いた。
 頭を撃ち抜かれて、その男は死んだ。
「これで半分くらいは殺したかもね。死にたいなら、殺してあげるわよ」
「ちくしょう!」
 逃げようとした男の心臓を背後から、撃ち抜いた。
「あんなに息巻いていたのに、死ぬと分かったら逃げるの? 変わるの、早すぎない?」
 言いながらセリーナは、引き金を引き続けた。
 弾込めをしていると、一人の男がナイフを手に襲い掛かってきた。
 そのナイフを左手で受け止めて、右手に構えたカオドグラルで、頭を撃ち抜いた。
「あーあ。怪我する予定じゃなかったんだけれど」
 痛みに顔をしかめながらも、掌だったため、まだリヴォルバーを扱えると判断した。
 逃げる者全員を、殺し尽くした。
「お終いっと」
 セリーナは左手を気にしながら、リヴォルバー二(ちょう)をホルスターに仕舞った。
 家の周りにはかなりの数の骸が転がっている。それを一瞥しつつ、セリーナはニトがいる医務院に向かった。


「夜遅くにすみません。セリーナです」
「ヴィアザ君になにかあった?」
「いえ、ちょっと怪我をしてしまって」
「えっ!? 奥へ入って!」
 セリーナは申しわけなさそうに、治療室へ入った。

「診せて」
 セリーナは、鮮血の滴る左手を見せた。
「怪我はここだけ?」
「はい」
 ニトは薄手の布をあてて、手早く包帯を巻いた。
「お終い。七日くらいで治ると思うけど。治るまではリヴォルバーを握らないでね?」
「弾込めくらいはできますか?」
「あんまりしてほしくないけど、それくらいなら大丈夫」
「ありがとうございました」
 セリーナはニトに金のコイン一枚を渡して、医務院を出ていった。


 セリーナが隠れ家に戻ると、ベルトとホルスターを外した。
 ヴィアザが目を開けていた。
「なにがあった?」
「その前に薬飲んで。そしたら話すから」
 言いながら薬を飲ませた。
「多分、宰相の兵士達と、金に目の眩んだ男達を殺してたの。ちょっと左手怪我しちゃったけれど」