それから二日経った夜、セリーナはリッラの許を訪ねた。
 あまりの出来栄えのよさに何度もお礼を言って、店を出た。
 いったんテントに寄って、服を仕舞うと、隠れ家へ足を運んだ。


 セリーナが中に入ると、煙管を片手に紫煙を吐き出すヴィアザの姿があった。
 ヴィアザの怪我は傷跡を残すだけで完治していた。
 依頼を昨日から再開していた。
「依頼は?」
「今のところ、まだないな」
 二人で他愛のない話をしていると、二度ドアがノックされた。

「開いている」
 ヴィアザが言うと、普通の恰好をした一人の男が中に入ってきた。服装からして一般街の者だろう。
「貴族のオトナを殺してほしい!」
「なぜ?」
「家族全員を殺されたから!」
「金は?」
「これだけしかないけど」
 男はテーブルまで歩みを進めると、金のコイン五枚を出した。
「後悔しないか? 俺に頼むってことは、もう引き返せないんだぞ?」
「後悔なんか、しないっ! あいつらを殺してくれっ!」
「分かった。決行は今夜。ちゃんと殺してくる。だから、好きに生きろ」
 男が隠れ家を出ていった。


 ヴィアザは五枚のコインを金庫に放り込んで、マントを羽織った。
 フードを目深に被り、両手に黒の革手袋を嵌め、刀を帯びた。
「いくぞ」
 その言葉にセリーナがうなずいた。
 オトナ家は歩いて十分ほどのところにある、小さな家だった。
 ヴィアザがドアを蹴破って先陣を切った。
 一階と二階に分かれ、男達を殺し始めた。

 セリーナは二階に上がりながら、引き金を引いた。
 バタバタと男達が倒れていく。一撃で命を奪いながら、先へ進んだ。
 弾込めを瞬時に行いながら歩いていくと、ひとつの部屋にいき当たった。
 ハイヒールでドアを蹴破ると、十人の男達が待ち構えていた。
「どれだけ数が増えようと、みんな死ぬだけよ?」
 突っ込んできた男の額を撃ち抜き、倒れたそれを横に蹴り飛ばした。
 隣の男にそれがぶつかり、派手に転んだ。
「どんな手を使っても、無駄なの」
 セリーナは二人目の男の心臓を撃ち抜いた。
 男が三人、射程内に入ってきた。
 三回の発砲音が鳴る。
 頭と心臓を撃ち抜かれた男達がバタバタと倒れた。
 固まって動けなくなっている男数人を殺すと、一階に戻った。

「一階の方が、敵が多かったのねぇ」
 無残な骸を前にそう言い、ハイヒールでそれらを踏み潰しながら奥へと向かった。


 そのころ、ヴィアザはというと、わりと広い廊下で、男達と対峙していた。
 かなりの数の男達がずらっと並んでいた。
 ヴィアザは溜息を吐きながら、突っ込んでいった。
 一人の男の頭を刺し貫いて、引き抜きながら、再度突きを放った。
 それで二人の男を殺した。
 すっと立ち上がって、振り下ろされた剣を右手で受け止め、今度は腹をざっくりと斬りつけ、喉を刺し貫いた。
 右手につかんでいた剣を捨て、無傷の男達との距離を一瞬で縮め、一撃で殺していった。頭か心臓を刺し貫かれて、バタバタと倒れていく。

 骸から刀を引き抜いていると、背後から数回の発砲音が聞こえてきた。
「上はもういいんだな」
 振り返りながら言うと、リヴォルバーを構えたセリーナがいた。
「ここはあたしに任せて。ちょっと待って、道を作るから」
「道?」
 ヴィアザは首をかしげながら立ち上がった。
 セリーナはスタスタと歩いていくと、列の真ん中にいる男達全員を瞬時に殺した。
 バタバタと骸が倒れる中、さらに奥へ続くドアが見えた。
「はい。完成」
「ありがとうな」
 ヴィアザはふっと笑うと、骸を踏み潰しながら、先へ進んだ。


「待っていたぜぇ! 〝闇斬人(やみきりびと)〟!」
「なんだ、ここが最奥じゃないのか」
 ヴィアザは目の前にいる男を見て、溜息を吐いた。
 男は刺突剣を手にしていた。
「なんだと?」
「俺のなにを知っている?」
「お前が人間じゃねぇってことだよ!」
「なんだ、それだけか」
 突っ込んできた男の刺突剣を腹に受けた、ヴィアザが言った。
「なにしてんだ、お前えっ!」
 ヴィアザはすぐに右手で男の手ごとがっちりとつかむと、突き刺さった刺突剣を抜きにかかった。
 さらに鮮血が溢れ出すのも構わず、ほんの数分で武器を抜き切った。
 男は茫然とするしかない。
「その剣、厄介だから使えなくしてやる」
 ヴィアザは左から右に刀を振り抜いた。
「はあっ!?」
 刺突剣がぽきりと折れて、折れた切っ先が床に転がった。
「あああああ」
 傷を負ってもなんとも思わないだけでなく、武器まで壊されて。
「ほかに武器持ってねぇのかよ、ったく」
 ヴィアザは吐き捨てると、男の心臓を刺し貫いた。
 どさりと倒れた骸から刀を引き抜くと、次の部屋へと向かった。

 次の部屋には短剣を持った女がいた。
「やあ。初めまして」
「俺達は敵同士。挨拶など不要」
「あはは。怖い怖い」
 ヴィアザが突っ込んで刀を振るうと、短剣で受け止める女。だが、押し返すことができない。
「貴様はどうやって、死ぬのかな」
「強いけど……!」
 女が左手に隠していた短剣を握り、腹を斬りつけて、いったん後退した。
「二刀流だったか」
 口端から鮮血を滴らせながら、ヴィアザが(わら)った。
「力で敵わないなら、こうするっ!」
 先ほどよりも素早い動きで、距離を詰めてきた。