それから三月(みつき)が経ったある日の朝、依頼を再開したヴィアザの許を、ボロボロの服を着た青年が訪れた。
「ヘドナ家と、ミリー家を、潰してほしい」
「理由は?」
 フードを目深に被ったまま、低い声で尋ねた。
「昔、ヘドナ家で働いてた。けれど、ある日突然、辞めさせられて、すべてを奪われたんだ。彼らの影響がない、貧困街にまで逃げて、なんとか生きてる」
「ミリー家は?」
「ヘドナ家より下の貴族だ。追っ手の中に、ミリー家の者がいた」
「そうか。決行は今夜。もう、引き返せないぞ?」
「構わない。金は、これしかないが」
 青年は銅のコイン一枚をテーブルに置くと、頭を下げて出ていった。


 それから数時間後の夜、黒ずくめの恰好(かっこう)をして待っていると、セリーナが隠れ家を訪れた。
 依頼内容と二手に分かれることを伝え、二人で貴族街に向かった。

 セリーナはミリー家に向かった。
 ドアを蹴り開けて、出てきた女に銃口を向けた。
「ご、ご用件は?」
「ここにいる人間を全員、殺しにきたのよ?」
 セリーナは女の心臓に狙いを定めて、引き金を引いた。
 どさりと骸が倒れた。
 それを踏み潰しながら、先へ進んだ。
「誰だっ!」
 背後の骸に気づいた武装した男達がわらわらと出てきた。
「〝戦場に輝く閃光〟」
「ちっ! なんとしてでも殺す!」
「できるものなら、やってみなさいな」
「うるさいその口を閉じろっ!」
 セリーナはリヴォルバーを両手に装備し、突っ込んでくる男達を待ち構えた。
「おらっ!」
 五回の銃声が響いた。
 一人目は頭、二人目は心臓、三人目は頭、四人目は心臓、五人目は頭を撃ち抜かれて、その場でバタバタと倒れ出した。
 セリーナは怪我をしていない。
「この女ぁ!」
 セリーナが弾込めをしているのを隙と見た男が、突っ込んできた。
「遅いのよ」
 セリーナは男の攻撃が届くよりも早く、弾を込め終えると、リヴォルバーが火を噴いた。
 男は心臓を撃たれて、倒れた。
「隙がないだと!?」
「人を殺したのが初めての、ひよっ子じゃないんだけれど?」
 セリーナは冷たく(わら)った。
 一秒足らずで二(ちょう)のリヴォルバーに弾を込め終えた。
「なんとしてでも、弱らせろっ!」
「無駄だって、どうして分からないのよ」
 セリーナは溜息を吐き、右手にカオドグラルを構えて、突っ込んできた男三人に狙いを定めて撃ち続けた。
 一撃で男達を沈め、瞬時に弾を込めると、今度は左手にヴァ=シを構えた。
「取り囲んで襲い掛かれっ!」
「ふうん」
 男達に取り囲まれても、セリーナは動じなかった。
 息を合わせて、男達の剣が振り下ろされる。
 セリーナはその場にしゃがんで、回し蹴りを放った。
 振り下ろそうとしていた剣がいっせいに乱れ、男達全員がすっ転んだ。
 セリーナは真正面と背後の男に銃口を向けた。
「考えたところで、やっぱり無駄なのよね」
 呟くとセリーナは、体勢を立て直そうとしている男達を、次々に殺し始めた。
 銃声がいくつも響き渡った。
「あんただけね。結構な数がいたけれど。ひょっとして、ここの(あるじ)?」
 セリーナの背後には、数多くの骸が無造作に転がっている。
「ひっ! もうなにもしないから、生かしてくれ!」
「無理な相談ね。だって、恨まれるようなことをしたんだから、罰くらい受けて?」
 うっとりするほど美しい笑みを浮かべたセリーナは、引き金を引いた。
「これで終わりっと」
 セリーナは骸を踏み潰しながら、返り血で汚れたハイヒールを気にしつつ、念のため、生存者がいないかどうかを確認した。
 それを終えると、誰もいなくなったミリー家を後にした。


 そのころヴィアザは、ヘドナ家で戦闘を開始していた。
 背後には無残に斬られた骸の数々。
 革靴でそれらを踏み潰しながら、ヴィアザは先に進む。が、無傷ではない。
 腹を深く斬りつけられている。それでも一切気にせず、ヴィアザは男達に斬撃を放った。
 断末魔と悲鳴が上がって、ふっとやんだ。
「時間がかかっても、仕方ないか」
 美しい顔を歪めながら、ヴィアザは駆け出した。
 一撃で男達を殺し、いとも簡単に命を奪っていく。
 息が乱れることもないし、疲れを一切感じさせない。
「ほう。少しは骨のある奴が出てきたか」
 前方にあらわれたのは、がっちりした体格をした一人の男。
 太い剣を肩に担いでいた。
「久し振りに強そうな男に会えて、嬉しいぜっ!」
 男が言いながら剣を振り下ろしてきた。
 ヴィアザはそれを右手で受け止めた。
「なにっ!」
 がっちりと剣をつかまれてしまっているため、男は身動きが取れない。
「貴族の家だからか、持たせる武器の品質もいいみたいだな。だが」
 ヴィアザはそこで言葉を切り、左手に構えた刀で、腹を刺し貫いた。
「がはっ!」
 ポタポタと男は鮮血を口から零しながら、睨みつけてきた。
 それを見つつ、冷笑を浮かべたヴィアザは、手にしている剣を横に強く振り抜いた。
「なんだとっ!」
 男は派手に転ぶと起き上がろうとした瞬間に、刀の切っ先が突きつけられる。
「図体がデカいってだけで、有利だと思い込むから、こういうふうになるんだよ。バーカ」
 言葉とは裏腹に、ヴィアザは冷たく(わら)った。