ヴィアザの背後には、数多くの骸でいっぱいになった。それでも、彼の動きは止まらない。
 その場にいる者達の命を、容赦なく奪い続けること、約一時間。
 全員を、殺し尽くした。
 セリーナの姿がなかったので、奥に向かったのかもしれないと思った。
 骸をぐちゃぐちゃと踏み潰しながら、元締めと思われる男が入っていた方向に、歩いていった。


 そのころセリーナは、細い道を進んでいた。
 次から次へと出てくる男達を一撃で倒しながら。
 狭かった道が急に広くなった。
 ――いったいどんな構造になっているのかしら。
 そんなことを思いながら、リヴォルバーのグリップを握った。
 前方には十人の男達。
 返り血で汚れてしまったハイヒールを気にしつつ、端から順に心臓に狙いを定めて撃ち続けた。
 バタバタと男達が倒れた。
 骸をハイヒールで踏み潰しながら、先へ進む。
「そこにいるのは分かってるから、出てきて仕掛けたら?」
 誰もいないはずの少し広めの場所で、セリーナが声を出した。
「なんで分かるんだよっ!」
 五人の男達が、顔を覗かせた。
「ふふっ。なんででしょうねぇ? あたしの誘いに乗ったわね」
 セリーナはにこりと笑いながら、男達五人の額を撃ち抜いた。
 一撃で死んだ彼らを、一瞥しながら先へ進もうとしたが、一歩踏み出した足をすぐに引っ込めた。
 次の瞬間、一発の弾丸が地面に撃ち込まれた。
 セリーナは無言で背中に背負っていたウノメナを構えた。
 弾を込めると、その場にしゃがみ込んで、敵の位置を探った。
 セリーナから数メートル前方、右の曲がり角に人の気配を感じた。
 ――夜目って本当に役に立つわねぇ。
 セリーナはそう思いながら、左側に移動して、射程内にその姿をおさめた。
 すかさず、狙いを定めて引き金を引いた。
 どさりとなにかが倒れた。
 近くまで歩いていくと、頭を撃たれた男が倒れていた。
 死んでいるのは分かっていたが、確認のためハイヒールで軽く蹴った。
 反応がないので、次へと進んだ。


「いったいどうなってんだ。ここは」
 ヴィアザがセリーナを見つけて、近くまで歩いてきた。
「あたしにもさっぱり。それにしても相変わらず、怪我が酷いわね」
「それは変わらんだろう」

「誰だっ! ごふっ!」
 出会い(がしら)に顔を出した男の心臓に刀を突き立て、骸を捨てた。
 また広いところに出た。
 ヴィアザとセリーナは首をかしげながら、次々に男達を殺していく。
 肉を断つ音と、銃声が辺りに響き渡った。
 かなりの数の男達を殺していたが、二人は息が一切乱れていなかった。疲れている様子がまったくない。
 誰一人、ヴィアザとセリーナが奥へと進む足を、止めることができなかった。
 そうこうしているうちに、狭い道を抜け、また広い場所に出た。


「とうとう、ここまできやがったか」
 そこには数人の男に守られた元締めがいた。
「ああ。俺達はここを完膚なきまでに、潰さなければならないからな」
「怪我してる奴とは思えん殺気だな」
「さっさと終わらせてやる」
 ヴィアザが不敵に(わら)うと、男達に向かって突っ込んだ。
 あっさりと男三人を殺し、振り返ると、セリーナの背後に元締めがいた。
「動くな」
 元締めが言いながら、ナイフを取り出した。
「……あたしを人質にするつもり? ……甘いわね」
 それまで黙ってセリーナが、低い声で言うと、右手に構えていたカオドグラルを、背後に向けて引き金を引いた。
 ――バシュッ!
「ぎゃああああっ!」
 右脚を撃たれた元締めは、ナイフを投げ捨てて痛みに騒ぎ出した。
「そうくるとは思っていたが。女だからって舐めてかかるから、こうなるんだよ」
 ヴィアザの言葉にうなずいたセリーナは、溜息を吐いた。
「ホント、うるさいわね」
 セリーナは言いながら、元締めの喉を撃ち抜いた。
 声がぴたりとやんだ。
「こんなところで、殺し屋の育成をなぁ?」
「殺し屋なんて、誰かに教わるようなことないわよ。こういうのは潰すに限るわ。それに、殺し屋の本質に気づいていない者達を、育てるなんておかしいのよ。咎人を増やしたところで、得なんかないの」
 セリーナは言い、元締めの心臓を撃ち抜いた。


「これだけ殺しておけば、誰かがこの場所を使うこともないだろうな」
 帰路についたヴィアザが、夥しい骸を見ながら呟いた。
 セリーナはなにも言わず、ついていった。
 地上へ戻ると、セリーナは思わず息を深く吸い込んだ。
「あ、早くニトさんのところにいかないと!」
 セリーナはヴィアザを急かした。

 しばらく歩くとニトの医務院が見えてきた。
 ヴィアザがドアを開けて入ると、ニトがやってきた。
「毎回毎回、酷いもんだね」
 ニトは溜息を吐きながら、治療を指し示した。
 ヴィアザは苦笑しつつ、中へ入っていった。

 ニトが治療室に入ると、半裸になったヴィアザがいた。
「棘があるけど、毒とかの攻撃は受けてない?」
 ヴィアザが無言でうなずくと、ニトは少し安心したようだった。
「まったく、これだけ出血していて、よく倒れないよね」
 ニトが手を動かし始めた。
 いったん布で鮮血を落としてから傷を縫い、薄い布を刺し貫かれた傷に手早くあてる。両肩にも同じ処置をした。
 鞭の棘でできた傷は浅かったため、清潔な布をあてた。
 ニトは包帯を取り出して、肩を含めた上半身に巻きつけて、最後に右腕も覆うと、端を縛った。