「助けて!」
 ヴィアザがドアを開けるなり、少年が飛び込んできた。
「なにがあった?」
 ヴィアザは少年の肩に手を置き、片膝をついた。
「い、妹が、貴族に連れていかれた! 金のコインの袋なんて、なくていい! ぼくが助けにいきたいけれど、すぐにやられちゃう。お願い! 二人で生きたいだけなんだ!」
 少年は荒い息を吐きながら、必死に(まく)し立てた。
「分かった、家に帰っていろ。連れ戻してくる」
 ヴィアザは力強く肩をつかんで離した。
「ありがとう! それと、これ!」
 金のコインの袋を受け取ったヴィアザは、出ていく少年を見送った。


「話は歩きながらな。ちょっときてくれ」
「ええ」
「その前に……」
 ヴィアザは呟くと、どこからともなく別の袋を持ってきて、中身を移す。ずしりと重い金のコインの袋を、部屋の隅に置いた。
 ヴィアザは空になった印つきの袋を、丸めてポケットに突っ込む。
 テーブルに置いてあった革手袋を嵌め、フードを目深に被ると、刀を帯びていることを確認し、外へ出た。


「いくぞ」
 二人は夜道を駆け出す。
「どこの貴族か、分かったの?」
「ああ」
「どうして少年がきたの?」
「俺はあの場所を、どうしようもなく困ったときに訪れるよう、すべての民に伝えてある。噂話として……な」
 ヴィアザは、口端を吊り上げて(わら)った。
「噂話としてって……! 上手い方法じゃないの。でも、あたしはそういうの疑ってたから、頼ろうとは思わなかったわね」
「それはどうも。それもひとつの答えではあるんだ。……いい機会だ。互いを見極めようじゃないか」
 ヴィアザは不敵に(わら)った。
「その方が手っ取り早いわ」


 二人が隠れ家を出て、三十分が経ったころ、貴族の家に辿り着いた。
「ここだ。なにかと悪名高い」
「ふうん。命を奪えってこと?」
「そうだ」
 ヴィアザは刀を抜き、足を進める。
「了解」
 セリーナは右手で、カオドグラルのグリップをつかんだ。
「ここは――!」
 その一部始終を見ていた門番が、声を荒げた。
「シュワルツ家だろう。知っている」
 呟くと同時にヴィアザは、男に斬撃を放った。首を正確に斬っている。
 セリーナはそれを見ながら、鮮血の(したた)る刀の色に目を奪われた。美しい(こい)(あい)だ。
 それに、相当な手練れだ。背中を預けるには最適だろう。敵に回すには惜しい。
 セリーナは思いながら、カオドグラルをホルスターから引き抜いた。
「て……!?」
 叫ぼうとした男に銃口を向けて、セリーナは引き金を引いた。
 正確に心臓を撃ち抜いた。
 それを横目で確認したヴィアザは、かなりの腕だと思った。
「雑魚なら、任せて」
「分かった。さっさと当主を殺して終わらせる」
 ヴィアザは屋敷の戸を蹴り開けた。


「誰だ!」
「〝闇斬人(やみきりびと)〟」
「〝戦場に輝く閃光〟」
「な、なんで、通り名を持つ者が、二人も……!」
「自分のことしか考えない奴らなのに、手を組んだだと!」
「それは偏見だな。手を組むことだってあるし、全員が自分のことだけ考えて、動いているのではない」
 ヴィアザは吐き捨てつつ、男の心臓を刺し貫いた。骸から無造作に刀を引き抜いた。
 セリーナが天井に向かって、左手に構えたヴァ=シの引き金を引いた。一瞬で男達の視線を奪った。
「さっきいた男はどこへいった!」
 異変に気づいた男達が騒ぎ出した。
「ぎゃああっ!」
 奥へと続く廊下から、悲鳴が聞こえてきた。
「先にいかれたか! くそっ! なっ……!」
 指示を飛ばそうとしていた男が倒れた。
 心臓にはセリーナの放った弾丸が撃ち込まれている。
「逃げるぞ!」
 男達は武器を捨てて、生きるために逃走を試みた。
 しかし、セリーナはそれを(ゆる)さなかった。弾は少々無駄にはなるけれど、仕方がないと思い、引き金を引き続けた。その間に弾込めも手早く行いながら。
 その場にいた男達十人を、再起不能に陥れていく。
 みな床に倒れ、痛みに喘いでいる。
「何度経験しても、絶叫には慣れないわ」
 セリーナはぽつりと言う。右手のカオドグラルで一人ずつ、息の根を止めていった。命()いをする者がいたが、すべて無視して引き金を引いた。緑のロングワンピースの裾が鮮血に染まっていくが、本人は一切気にしなかった。
「お(しま)い、と。ちゃんと助けられたのかしらねぇ」
 目の前で命が散る瞬間を目にしても動じることなく、セリーナは骸をハイヒールで踏み潰すと、先へ進んだ。


 そのころ、ヴィアザは屋敷内の廊下を突き進んでいた。ひしめき合う雑魚達を一人ずつ殺しながら最奥に向かっていた。
 服には見ただけでは分からないが、多くの返り血がついていた。
 扉の前に、二人組の男がいるのを確認し、ヴィアザは舌打ちをした。
「それにしても、邪魔な奴らだな」
 目の前にいる男達に向かって、斬撃を放った。
 二人の男達が痛みに喘ぎ出した。
 ヴィアザは右側の男が持っていた剣を奪うと、二人に向かって、剣と刀を繰り出した。
「ぎゃあああっ!」
 その一撃で、ふたつの骸ができた。