二人の周りには、二十の惨たらしい、骸が転がっている。
 その先には剣を構えた男と、短剣を構えた男がいた。
「貴様らで、最後か」
「なんとしてでも、殺してやるっ!」
「できるものなら、ね」
 ヴィアザとセリーナは互いに目を合わせ、にやりと(わら)った。


「おらあああっ!」
 剣を構えた男が叫びながら、ヴィアザに突っ込んできた。
「うるさいんだよ」
 ヴィアザが刀で剣を受け止めた。
「黙れ、黙れ! こんなところで、死ぬわけにはいかない!」
 感情に任せた攻撃を刀で受け止め続ける。
 互いに一歩も引かなかった。
 男の焦りを見抜いていたヴィアザは、あえて守りの手を抜いた。
 隙と思った男が読み通り、攻撃を仕掛けてきた。
 ヴィアザはにやりと(わら)った。
 腹に男の突きを受け、右手でがっちりと手ごとつかんで、動きを止めた。
「なにっ!」
 それから逃れようとジタバタし始めたが、ヴィアザの手は離れなかった。
「俺はな、貴様のような、感情的になる男が、大嫌いなんだよ」
 口端から鮮血を滴らせながら、ヴィアザが(わら)った。
「ひっ!」
「なんでもかんでも、表に出せばいいってもんじゃねぇだろ。時には抑えることも必要だと、俺は思う。ただ、気に入らないんだよ」
 ヴィアザは吐き捨てると、右手を離して、後ろに飛びのいた。その拍子に剣が抜けた。
「これだけの怪我をしていて、なんで、なんで、動けるんだよ!」
「わざわざ教えることではない」
 ヴィアザは距離を詰めて、斬撃を放った。
 それは僅かに躱され、男の攻撃を胸に受けた。
 鮮血が派手に飛び散った。
「お前、心臓刺したら、死ぬよな?」
「試してみたけりゃ、好きにしろ」
 ヴィアザは不敵な笑みを崩さずに言った。
「そうさせてもらうっ!」
 男は渾身の一撃を放った。
 それを躱さず心臓に受けたヴィアザだったが、笑みが深くなった。
 口端と刺された心臓から、大量の鮮血を滴らせていたが、それでもなお、ヴィアザは立っていた。
「ななな、なんでっ! 心臓を突き刺したんだぞ!」
「それは人間相手の場合だろ?」
 動揺している男を睨みつけ、ヴィアザが言った。
「じゃあ、人間じゃないってことなら、お前はいったいなんなんだ!」
「貴様に言う必要はない。……さらばだ」
 ヴィアザは男との距離を詰めて、首を刎ねた。
 斬られた頭部と、身体が同時に倒れた。


「向こうは決着がついた。こちらもずっと様子見というわけにもいくまい」
「ええ、そうね」
 セリーナは、男の動きを注視した。
 真っ直ぐに突っ込んでくるのを見ながら、右肩を狙って撃った。
「っ!」
 撃たれた男は動きを止めて、右肩に手をあてた。
「あれだけの男達。いや、それ以上に殺しているのだろう」
「だったら、なんだって言うの?」
 セリーナは男に銃口を向ける。
「お前……痛みを、知っているか」
「なんでそんなことを聞くのかしら。……知っているわよ。それなりに」
「他人に死という最も重い〝痛み〟を与え続けて、辛くはないのか?」
「辛くないとは言えないけれど、だんだん麻痺してるかもねぇ。人を殺すことでしか、生きられないのだから。自分が生きるために、誰かを殺している。という感じかしら。なに言ってるんだか、分からなくなってきたけれど」
「そうか、お前は人間か?」
「ええ。そうよ。でも、死ぬ気はないの、ごめんなさいね?」
 にっこりとセリーナが冷笑を浮かべた。
 男はその美しさに、一瞬見惚れてしまった。
「あたしは敵よ? 見惚れてるってことは、死を受け容れたと同等よ?」
 セリーナは言うが早いか、引き金を引いた。
 男は心臓を撃たれ、その場に倒れた。


「邪魔者は排除できたわね」
「ようやく殺しにいけるな」
 二人は八百屋まで戻った。
「全員殺したぞ」
 ヴィアザは強引に中に土足で押し入った。
「はあっ? に、逃げろっ!」
 この店の主が素っ頓狂な声を上げた。
 出入口はセリーナが塞いだ。
 次の瞬間、二回の発砲音が響いた。
 妻と子どもが心臓を撃たれて、その場に倒れた。
「そ、そんな……」
 主は涙を流した。
「この国を出ようとしていたのに。なんで、殺されなきゃならない!?」
「さてな。そこまで俺達は聞いていない。俺の存在に怯えて生きてきたのか?」
「そうさ! いつ狙われるのかと思っていた!」
 主が叫んだ。
「運が悪かったな。さっさと殺してやる」
「ちくしょうっ!」
 恨みがこもった叫びを聞きながら、ヴィアザは主の心臓を刺し貫いた。


「これで、終いか。さっさと帰るぞ」
 重傷であるはずのヴィアザはそう言うと、ふらつきもせずに、骸が転がる部屋を出ていった。
 セリーナは骸を一瞥して、追い駆けた。
「まったく。怒られても知らないわよ?」
「仕方ないだろ」
 ヴィアザは吐き捨てた。
「まったく」
 そんな話をしている間に、医務院の前に辿り着いた。



「俺だ。入るぞ」
「はい。……なんでそんなに怪我してくるの! ボロボロじゃない! ほら早く入って!」
 ニトが血相を変えて、ヴィアザを治療室へ。

「まったく。これだけの怪我をしておいて、よく生きてるよね」
 ヴィアザはニトの言葉に苦笑するしかない。マントとワイシャツを脱いだ。
「敵が多かったんだ」
「そっか、なんて言えると思う?」
 ニトが手当てに必要なものを用意しながら、睨んできた。
「だよな」