真っ直ぐ見つめながら、ヴィアザは告げた。
「え、えっと……通り名が二つ!? 誰もいないんじゃないの? あなたみたいな人」
「二つ持つのは、俺だけだ。〝闇斬人(やみきりびと)〟は誰に知られても、独り歩きしても、構わない。だが、もうひとつの方は、隠しておかなければならなかった。軽々しく、口にしてはいけない」
「そうだったのね」
「ついでだ。もうひとつ秘密を明かしてやる。俺は人間ではない」
「はぁ!?」
「ヴァンパイアだ。分かりやすく言えば、吸血鬼、か」
 ヴィアザが煙管を見ながら、目を細めた。
「生きていくためには、確か……。血が必要でしょう? どこで手に入れているの?」
「ワインを代用している。高価なもんじゃない。一般街で普通に買えるものさ。もうなん十年も、本物の血は口にしていない」
「へぇ……。本当にいるのね、ヴァンパイアなんて」
「驚くな、という方が無理だ」
 ヴィアザは煙管を眺め、苦笑した。
「少しは情報を渡しておかないとね。……あたしの武器はこれと、ライフル」
 セリーナはごとりと、リヴォルバー二挺をテーブルに置いた。
「ほう」
 ヴィアザがリヴォルバーを見て呟いた。
「左手で使うのは銀色で撃つたびに撃鉄を起こすシングルアクション式のヴァ=シ。右手の真っ黒なのは、撃っても撃鉄が上がる、ダブルアクション式のカオドグラル。名前はあたしが付けた」
「かなり使い込んでいるようだな」
「まあね。……本当に、この国は見ているだけで嫌になるわ」
 セリーナは苦笑してリヴォルバー二挺を仕舞い、溜息を吐いた。
「と、いうと?」
 ヴィアザが先を促した。
「国の中心だけが豊かで、貧困街なんて、生きるのに精いっぱいな人達が溢れてる。同じ国なのに、ここまで違うなんておかしいわ」
「それは俺もずっと思っていた」
 同意するように、ヴィアザはうなずいた。
「できることなら、こんな差をなくしたい。けれど、一人じゃ無理だわ。殺ししかできないあたしなんて」
「人間一人の力なんて、たかが知れている」
「あなたの通り名はよく耳にするわ。……ねぇ、手を組まない?」
 二人の話を遮るように、ノックの音が聞こえてきた。
「その返事は後だ」