周囲を見回すと、着飾った連中が大勢いた。
 なにかのパーティーか? と思ったが、近くにいた男の胸を刺し貫いた。
 ひとつの骸が倒れ、その様子を見ていた女が悲鳴を上げた。
 それを聞きつけ、様子を見にきた男が、派手に尻もちをついて、逃げ出そうとした。
 が、一発の弾丸がどこからともなく放たれ、男の足許の床を穿(うが)った。
「誰も、逃がさないわよ」
 出入口にセリーナが立ち塞がった。カオドグラルを構え、引き金を引いた。
 女が心臓を撃たれて、床に倒れた。
 部屋の奥では、ヴィアザが男を殺し、鮮血の滴る刀を構えていた。
「し、死にたくないっ!」
 出入口まで逃げてきた男を、セリーナが殺した。
「悪事を働いているくせに、生きたい、ですって? なら、手を染めなければよかったのよ」
 セリーナは冷たく言い放った。
「まだ、戦えるか?」
 部屋の奥にいたヴィアザが、セリーナの近くにきた。
「ええ。さっさと終わらせましょう?」
「……後ろは任せたぞ」
 ヴィアザは背を向けながら言った。
「分かったわ」
 セリーナとヴィアザは、互いの背中を預け、それぞれの武器を手に、殺しを再開した。
 あちこちで悲鳴が上がり、次々に命を落としていく。殺意の有無は関係なかった。発砲音と、刀が肉を断つ音が、響き渡った。
 数多くいた人間達を殺し尽くすまでにかかったのは、およそ十分。
 その最中、セリーナは男二人が、逃げていくのを目にした。
 目を合わせた二人は、骸を踏み潰しながら、廊下へ向かった。


 男が先にいかせないためか、阻むように立っていた。
「俺が相手をする。そこにいろ」
 ヴィアザの低い声にうなずいたセリーナだったが、なにが起こってもいいように、ヴァ=シのグリップを握っていた。
「弱そうな男だな。一人で大丈夫なのかな?」
 大剣を構えた男が嘲笑った。
「見かけだけで判断するのは、間違っているぞ」
 ヴィアザは冷笑を浮かべ、瞬時に距離を詰め、刀を振り下ろした。
 男はひょいと攻撃を躱した。
「おっと! 怪我をしているくせに、そんな変わった武器で、おれを殺せるのかな?」
 男の(あざけ)りは続いた。
「殺せるとも。今まで数えきれない人間を、斬ってきた」
「勝手に言ってろよ。おれには敵わないさ」
「腕に自信があるのか。俺はそういう奴が大嫌いだ」
「おれも、お前のことが大嫌いだよ! 躱せるもんなら、やってみなっ!」
 男は言い放つと同時に、大剣を横に回転させた攻撃を繰り出してきた。
 ヴィアザはその場で力強く跳躍した。
「なにっ!」
 男は思わず声を出すが、すぐさま動きを変えられない。
 そのまま、廊下の壁へ激突し、壁が抉れていった。
 男の背後へ降り立ったヴィアザは、動きが止まったところで、駆け出しながら突きを繰り出した。その攻撃は男の腹を刺し貫いた。
「がっ……!」
 ヴィアザは無情にも、腹の傷を抉った。
 鮮血を吐き出した男を見たヴィアザは、刀を無造作に引き抜いた。恐ろしいほど冷笑を浮かべたまま。
「お前ええ!」
「じきに死ぬが、もう少し、頑張ってもらわないとな」
 ヴィアザは口端を吊り上げて(わら)いながら言った。
「殺して、やる!」
 男が鮮血をドバドバと吐きながら言った。
「やれるものなら、やってみろ」
 ヴィアザが挑発すると、男が大剣を振り下ろしてきた。
 刀で受け止めたのを見た男はさらに力を込めるが、びくともしなかった。
「ちくしょう!」
 悔しそうな顔をする男を一瞥し、ヴィアザは大剣を弾き返すと、心臓を刺し貫いた。
「くそおおおおっ!」
 叫んでこと切れた。
「うるさいんだよ」
 ヴィアザは刀についた鮮血を殺ぎ落として、言い放った。
 骸を踏み越えて、部屋のドアを蹴り開けた。


「死を届けにきた。だが、その前に」
 ヴィアザは部屋に入るや、手ごろな置物を手にして、窓に向かって投げつけた。
 硝子(ガラス)が割れ、煙がいっせいに出ていく。
「余計なことを……!」
「俺には効かんが、人間には毒だ」
 ヴィアザは言い放った。
 セリーナは窓まで走っていき、蹴って硝子を割る。詰めていた息を吐き出した。生き返ったようだ。
「お前、いったい……?」
「人ではない、とだけ言っておく」
「人間ではないなにか、だと! そこの女、そんな奴といて平気なのか!」
「ずいぶん動揺してるようだけれど。あたしは平気だし、あんたと違って、差別なんかしないわ」
「な、なんだと……」
「貴様は罪を犯している。しかもとても重いときた。貴様の命ひとつで(つぐな)えるとは、とうてい思えないが、ここで幕引きとさせてもらう」
 冷ややかに眺めながら、ヴィアザが告げた。
「黙って殺されるような人間ではない!」
 部屋の中にいる男がライフルを片手に、なにかのスイッチを押した。
 どこからともなく、黒ずくめの男達が十人、部屋に飛び込んできた。
 しかも、全員武装している。
 入ってきた五人に視線を送っていたヴィアザは、ちらりと見て、顔を歪めた。
 不敵に(わら)う男と目が合った。
 こいつらはおそらく、この男の護衛。安全なところまで逃がそうというわけか。
 男は彼らに守られながら、部屋を出ていった。
「半分ずつ、といこうじゃないか」
 ヴィアザは不敵に(わら)いながら、目で奴らを追えと告げると、理解したセリーナがうなずいた。