会場の真ん中にいる男に狙いを定めて、引き金を引いた。
 その弾丸は男の心臓を撃ち抜いた。男は即死。どさりと倒れ、どくどくと血で床を汚していく。
「きゃあっ!」
 女の悲鳴で、周囲に動揺が広がった。
「誰がやった!」
「こっちへ逃げろっ!」
「誰も、逃がさない」
 ヴィアザは出入口を塞ぐように、立ちはだかった。
「そこを……っ!」
「黙れ」
 ヴィアザは瞬時に男に近づくと、心臓を刺し貫いた。
「貴様ら全員、この男と同じになる」
 そう、声を張った。
 その様子を見ていた、全員の顔から血の気が失せた。背後ではどこからともなく銃声が響く。
「ただで死ぬわけにはいかん!」
 誰かが叫び、武装した男達がじりじりと距離を詰めてきた。
「かかってこいよ」
 ヴィアザは低い声で挑発した。
「おらああっ!」
 一人の男が叫びながら、ヴィアザの腹を刺し貫いた。
 続いて二人の男が、胸と左肩を刺し貫いてきた。
 ヴィアザは思わず、口から鮮血を吐き出したが、唇を噛み締めた。
「これで少しは弱ったと、思ったのか?」
 怪我をしているとは思えない低い声を聞いた男三人は、ぎょっとした。
 次の瞬間、腹を刺し貫いていた男に膝蹴りを叩き込んだ。右手で左肩に刺さった剣を一息で抜いて構え、慌てて距離を取った二人の男達の心臓を刺し貫いた。
 不気味なほど静まり返っている中、ヴィアザは剣を捨てた。骸に突き刺した刀をそのままにして、柄から手を離した。腹と胸に突き刺さっている剣の柄を握ると、一息で両方とも抜いてしまった。
「ば、化け物がいるっ! 急所を刺しても、まだ生きてやがるっ!」
 その様子を見ていた男が叫んだ。
「なんとでも言え」
 ヴィアザは言いながら、刀を骸から引き抜いた。
「さてと、全員、地獄へ送ってやるよ」
 赤い目で男達を睨みつけた。
 ヴィアザは男達の距離を一瞬で詰めると、刀を薙いだ。
 三人の男の首を正確に斬り裂いて、だっと駆け出した。
 ――心臓を刺し貫くのは、この人数じゃあ、面倒だな。
 そう思いながら、首を狙って次々に斬撃を放った。
 刀を振るうごとに、鮮血が飛び散る。
 ヴィアザはなんとも思わず、刀を振るい続けた。
 それから十分ほどで、その場にいた人間全員を殺し終えたヴィアザは、いつの間にか途中で発砲音がやんだことを不思議に思いつつ、奥へ向かった。


 そのときセリーナは、最奥の部屋にいた。
 狙撃している最中に、傍まできた使いの男に、会わせたい人がいると言われ、警戒しつつついてきた。
「それで、あんたが、この組織のリーダーってこと?」
「そうだよ、セリーナ。君のことはよく知っている」
「たとえば?」
「わずか十歳でリヴォルバーを扱えるほどの才を持っており、その腕だけで通り名を手にするほどの力を得た。あの男はいったい誰だ?」
「答えるわけないでしょう?」
 セリーナは冷たく言い放った。
「本当に、組織をたった二人で潰そうとするなんてね。感謝の気持ちは一切ないのかな?」
「ないわ。そんなもの、とうの昔に斬り捨てたわよ」
 セリーナは吐き捨てて、カオドグラルをホルスターから抜いた。
「残念だ」
 男が近くに置いてあった槍を手にし、立ち上がった。
「おらっ!」
 繰り出された槍をセリーナはひらりと躱した。
「いつまで躱していられるかな?」
 セリーナは次々に繰り出される、攻撃を躱し続けた。
 その形勢が続くこと、十手。
「っ!」
 セリーナが引き金を引く。その弾丸は右肩を撃ち抜いた。
 痛みに顔を歪める男を、冷ややかな目で見る。
「これくらいで……!」
「なら、動けなくなるまで、続けるだけよ」
 セリーナが低い声で言葉を返すと、数回の発砲音が響いた。
 右脚、左腕、腹を撃ち抜いた。
 鮮血が滴り落ち、男はおぼつかない足取りになった。
「……甘く見ていた。たまたま、うまく切り抜けてきただけだと思っていたのに。怪我のひとつもできないまま、死ぬしかないのか」
「そういうこと。そこら辺にいる雑魚とは、頭の回転が違うわね?」
 セリーナは冷たい目で男を見つめて、引き金を引いた。
 それは心臓を撃ち抜き、骸は壁に向かって倒れた。

「……終わったか」
「ええ。あなた、血塗れじゃないの」
「仕方ないだろう」
 ヴィアザは骸を踏み潰しながら、入口まで戻った。
 もう日が明けており、ヴィアザはすぐにフードを目深に被った。
 無言で屋敷を出た二人は、医務院へ向かった。


「入るぞ」
「はいはい」
 きたのがヴィアザと分かったのだろう、ニトは苦笑して中に入るように身体を退()けた。
「ちょっと待っていてね」
 セリーナはうなずくと、近くにあった椅子に座った。

「あ~あ、本当に酷いな、これ」
 ヴィアザは無言でマントとワイシャツを脱いで椅子に座ると、ニトが溜息を吐いた。
「仕方ない。戦場が三つあったからな」
「多すぎない?」
「さてな」
 ヴィアザは苦笑し、誤魔化した。
「腹と胸、左肩を先にやるから」
 その言葉にヴィアザがうなずいた。
 ニトは血を落として、すべての傷を縫った。腹と胸と左肩に薄手の布を当てた。背中まで貫通していたので、そこも布で覆ってしまう。包帯を取り出して手早く上半身を覆うと、端をぎゅっと結んだ。