「先に組織を潰す。俺はここの貴族街と、一般街の支部を。残りふたつを頼めるか」
 その言葉に、セリーナがうなずいた。
「本部の前で、合流して徹底的に殺す。かなり時間を取られるかもしれないが」
「いついくの?」
「三日後の夜」
「分かったわ」
「疲れただろう。いったん帰って休め」
 セリーナはうなずくと、隠れ家を後にした。


 ――セリーナの話には驚いた。殺しをしてもなお、生きようとしている彼女に。今の彼女を突き動かしているのは、おそらく、復讐心。戻れないところまで、きてしまっているのだろう。最初は生きるため。そして、自分の意志で行動するようになって、悪人の手下であったことを知る。情の欠片もなく、ただ殺されないために引き金を引いたが、結果としてその場にいた全員を殺す。両親を亡くし、生きるために腕を磨いた彼女は、なにも知らされないまま、彼らのいいように使われた。そして、そんな屑を殺して、それでもなお、組織を潰したいと言ってきた。その真意は、自分と同じ目に遭う人間を、一人でも減らしたいから、かもしれない。
 ヴィアザは天井を見上げた。


 それから三日後の夜、セリーナは大量の弾丸をポーチに入れて、隠れ家を訪れた。
「本当に、いいんだな?」
 ヴィアザがマントを着て、黒の革手袋を嵌め、刀を腰に帯びながら尋ねた。
「ええ。あんな連中は、こういうときに殺しておかないと」
「分かった。金は要らん。さっさといくぞ」
 マントを(ひるがえ)したヴィアザは、隠れ家を出た。

 一般街まで向かい、二手に分かれた。
 セリーナは地図を片手に、まずひとつ目の支部へ。
 ポーチのポケットに地図を仕舞い、ドアを蹴り開けた。
「なんだ、てめぇ!」
 中で酒を呑んでいた一人の男が、声を上げた。
「あんた達にはここで死んでもらう」
「たった独りで潰しにきたのか? こんな女相手にやられるわけねぇよ!」
 武器を手にした男達が嘲笑(あざわら)った。
「見た目だけで、決めつけないことね」
 セリーナは言いながら、引き金を引いた。
 ――バシュッ!
 一番手前にいた男が心臓を撃たれて、どさりと倒れた。
「なっ……!」
 男達は目の前で起こったことなのに、信じられないという顔をしていた。
「言ったでしょ? 死なせてあげるって」
 セリーナは無表情で言った。
「さっさと仕留めるぞっ!」
 男達は剣を片手に、セリーナのところへ向かってきた。
 振り下ろされる剣の数々を、華麗な身のこなしで躱し、正確に弾丸を撃ち込んだ。
 そこにいた男達十人を再起不能へと追い込んだ。
「なんだ、てめぇはっ!」
「〝戦場に輝く閃光〟よ? あたしは、あんた達には負けない」
 セリーナは冷たい声で言いながら、一人ずつ殺し始めた。
 命乞いを一切聞かず、引き金を引き続けた。
 しばらくして、呑んでいた男達は、一人の女の襲撃により、骸と化した。
 ハイヒールで骸を踏み潰しながら、二階へと上がった。

「お前か。全員殺したのは」
 数本の剣の切っ先を向けられても、セリーナは動じなかった。
「ええ。リーダーはどこ?」
「襲撃者に教える奴などいない」
「そう。じゃあ、やり方を変えるだけよ」
 セリーナは素早く右手でカオドグラルのグリップを握り、ホルスターから引き抜いた。
 警戒を滲ませる男達を冷ややかに見つつ、引き金を引いた。
 ――話を聞くのは一人でいい。それ以外は殺す。
 そう思いながら、一方的な殺戮(さつりく)を始めた。
 距離を詰められないようにしつつ、一撃で男達を殺していく。
 セリーナは男達の接近を一切させず、次々に殺していった。
 残ったのは、遠巻きに見ていた男。
 骸となった男達を見て、顔から血の気が失せている。
「リーダーはどこ?」
 カオドグラルを突きつけて、セリーナが尋ねた。
「……三階」
「教えてくれてありがとう。でも、ここで死ぬのは変わらないの」
 セリーナは男の心臓を撃ち抜いて、さっさと三階に向かった。

「いつかこんな日がくるだろうと思っていたが。やはり君の仕業だったんだね。セリーナ」
「あたしに会ったことある?」
 セリーナは警戒心を剥き出しにして声を出した。
「君が殺した貧困街支部の男はね、弟なんだ。よく、君の話も聞いたよ。ほかの支部も誰かからの襲撃を受けている。あの地図は、君が持っているのでは?」
「だったらなに?」
 セリーナは冷たい声で聞き返した。
「この組織を潰してどうするつもりだ? 似たような連中なんてこの国にはたくさんいる」
「復讐なの。誰であろうと殺すわ」
 セリーナは銃口を男に向けた。
「ここまで強くなった君には、我々の考えに賛同してほしかったが」
「無理ね。あたしは、生きるために強くなった」
 セリーナは言い放った。
「ならば、その力、ここで見せてもらおうか!」
 左側に跳びながら、引き金を引いた。
「くっ……!」
 右肩を撃たれた男は、左手に剣を持ち替えて、攻撃を当てようとする。
「無駄よ。どれだけ間合いに入られないように、実戦で磨いてきたと思っているの?」
 セリーナは右側に跳んで左肩を撃ち抜いた。
「こんなに俊敏だとは……!」
「でも、遠距離だけが得意ってわけでもないのよねぇ」
 男の腹に向かって回し蹴りを叩き込んだ。
「ごふっ!」
 男が壁に激突した。