少女は闇市に近い、人通りの少ない道に男を連れてきた。
「用事はなんだ」
 少女が無言で、銀色のリヴォルバーを手にした。
「こ、殺すつもりか!」
「いいえ。でも、地獄を見るかもしれませんね」
 少女は左手に構えた銀色のリヴォルバーの引き金を引いた。
「あがああああっ!」
 左肩と右脚を撃ち抜かれた男がじたばたと、暴れ出した。
「この男で間違いないですね。では、連れていきます」
 いつの間にか、少女の傍らに、一人の男がいた。
「あ、報酬です」
 男から袋を受け取った。
 中にはそれなりの金銀銅のコインが収められていた。
 少女はその足で、テントを構えている男の許を訪れた。
「無事終わったようだね」
 満足そうに男がうなずいた。
「はい」
「その金で、テントを買った方がいい。できたら、教えてくれ」
「分かりました」
 少女はその場を去った。

 昼間にテントを買い、設置も終えた。
 一番小さいテントだったが、それなりに快適に過ごせそうだ。
 少女はボロボロのベルトと、ホルスターを見下ろした。
 ――新しくしよう。
 袋を手に、少女はテントを出た。

 新しいホルスターとベルトを買い、袋に突っ込んだ。
 その帰り道、男のテントの前を訪れた。
「すみません」
「おや? どうしたんだい?」
「テント、できたんで。一応と思って」
「ああ、そういうこと。場所は?」
「貧困街の外れにあるテント群です。入口の布が緑になってます」
「うん、分かった。依頼があったら、誰かいかせるから」
「分かりました」
 少女はテントを後にした。

 自分のテントに戻り、ふうっと息を吐き出した。
 出かけている間は気にならなかったが、男の怯えきった顔が、離れてくれない。忘れたいのに、忘れられない。
 少女は他人事のように感じながら、夜を待った。

「います?」
 夜になってすぐ、一人の男がテントの布を叩いた。
「はい」
 少女は、布を引き上げて、男を中に入れた。
「今回は、殺しの依頼だ。ダメならすぐに言って?」
「初めてですが、やってみます」
「じゃ、一般街に向かって。そこにターゲットはいる」
 男からその人物の容姿を聞き、少女は見送った後、買ったばかりのベルトとホルスターを身に着け、夜道を駆け出した。


「すみません、ちょっとお話、いいですか?」
 一般街に差しかかると、目的の人物を見つけ、声をかけた。
「あら、なんの用?」
「とりあえず、こちらへ」
 建物の間の袋小路に、少女は女を誘導した。
「それで、なに話って?」
「話はありません。ですが」
 少女は言いながら、右手にリヴォルバーを構えた。
「誰か、誰か!」
 悲鳴を裂くように発砲音が響いた。
 少女は、右脚を撃ち抜いた。
「痛いっ!」
 女はすっ転んで、痛みに呻いた。
「叫んでも無駄です」
 少女は言いながら、リヴォルバーの引き金を二回引いた。
 右肩と腹を撃ち抜いた。
「こんなところで、死ぬのは嫌っ!」
「そんなこと言われても、困るんですよ」
 少女は言いながら、心臓に狙いを定め、引き金を引いた。
「がはっ!」
 大量の鮮血を吐き出して、倒れた。
 女の頭を靴で軽く小突いた。反応がない。ちゃんと、死んでいた。

「依頼は終わったんですね。報酬です」
 少女は慌てて、袋を受け取ると、その場を後にした。

 依頼をこなしてすぐ、テントに戻ると、その場に腰を下ろした。
 茫然とする中、涙が溢れ出してきた。
 殺した女の最期の顔が、脳裏に焼きついて、忘れられない。
 ――もう、引き返せない。一線を越えてしまった。この手はもう穢れてしまったんだ。
 少女はそう思いながら、泣き続けた。
 ――頼れるのは、この腕だけ。もう失うものはなにもない。だから、なんだってやれる。
 少女が視線を上げた。感情の見えない顔をしていた。


 それから十年が経った。
 強い女性へと変わったセリーナは、落ち着いた緑の足首までのロングワンピースに、黒のハイヒール姿で、テントにいた。
 ベッドの上には使い込まれたリヴォルバー二(ちょう)がホルスターに収められており、年季の感じられるライフルも置かれていた。

 ライフルを見つけたのは、貧困街の外れの闇市場。その中の武器専門露店だった。
 店の前を通りかかり、銃器を見ていたところ、店主に声をかけられた。
「あんたみたいな人が、くるような店じゃないよ」
「フフフ、こう見えても自分の身くらい守れるわ」
 セリーナは言いながら、自分の腰に視線を落とす。そこにはちゃんとリヴォルバー二挺が収められていた。
「そう。では、美しいお客さん、なにをお求めで?」
 店主らしい声を聞き、セリーナは少し店内を見回す。
「そうねぇ……。実用性に特化……というか、殺傷能力の高いライフルを探してるの」
「でしたら、こんな感じになりますが?」
 店主は店の奥から銀と黒のライフルを持ってきた。
「空撃ちしてもいいかしら?」
 セリーナの言葉に店主がうなずく。
 まずは黒の方から。少しずしりとしているが、持てないわけではない。が、撃ってみて分かった。こちらは少し扱いづらい。
 次に銀のもの。先ほどの使いにくさなど一切なく、手に馴染むような感覚すらある。これはかなり手入れも行き届いているし、ここまでの上物には、今後出会えないかもしれない。
「これ、幾ら?」
 リータは十五枚の金のコインで銀のライフルを買い、背中に背負ってテントへと戻った。