「っ!」
「手を離せ。貴様らを地獄に送ってやるよ」
 震える手を離した子ども達は、ヴィアザを見つめた。
「一瞬で殺してやる。母と思っていた人物の目の前で、な」
 ヴィアザはナイフを抜いてそれを左手に構えた。左端にいた少年に近づいていき、心臓を深々と刺し貫いた。
 それを十四回繰り返し、子ども達全員を殺した。
「ああああっ!」
 女が叫んだ。
「貴様には、聞きたいこともあるしな」
「な、なによっ!」
「俺が殺した子どもらの中で、トサという子はいたか?」
「ええ」
「貴様はいつから、子ども達を暗殺者として育てようと思った?」
「最初から。そのために、ここを作った。孤児院とすれば、子どもなんていくらでも手に入るし」
「まったく。善人(づら)した悪人に会うとはな」
(たち)が悪いわ」
 セリーナの言葉に、ヴィアザはうなずいた。
「その通りだ。さて、貴様には、苦痛の中で死んでもらう」
「そんなの……っ!」
 言葉を遮るかのように、左手に握っていた刀を振り下ろした。
 右手が斬り落とされ、女が叫んだ。
 痛い痛いと、暴れ回っている。
 それを冷ややかな目で、ヴィアザとセリーナが見つめた。
「まだ始まったばかりだというのに。そんなに騒いでどうする」
 ヴィアザは言いながら、左手を斬り落とした。
 女が叫んだ。
 続いて、右脚、左脚を斬り落とした。
「ついでだ」
 ヴィアザは言い放つと、胴を斬り落とした。
 なにもできない女はただ叫ぶことしかできなかった。
 かなりの鮮血に塗れていたが、ヴィアザは気にせず、とどめを刺そうと刀を動かした。
「貴様には、こんな最期が似合いだよ」
 ヴィアザは心臓を刺し貫いた。
 うるさかった悲鳴が、途絶えた。

 地獄と化した一室でヴィアザが振り返ると、二階から誰かが降りてきた。
「なんだよ、これ……! お前がやったのか?」
 無造作に転がる骸を見て、男が言った。
「まだ、生き残りがいたのか。そうだが?」
 ヴィアザは軽い口調で返した。
「許さねぇ!」
 男はどこからともなく、剣を取り出してきて、襲い掛かってきた。
「なぜそんなに怒っている? ここの連中はみな、咎人だ。だが、やり方が中途半端なんだよ」
 ヴィアザは刀を構えて剣を受け止めると、不敵に(わら)った。
「なんで、全員殺した!」
「生かしておく方が、酷だと思うが?」
「くっ……! お前を殺す! 今、ここで!」
 男は唇を噛んで、剣に力を込めるも、圧される様子はない。
「殺せなさそうだが?」
「黙れ!」
 ヴィアザは繰り出された剣を、躱さずに受け止めた。
 腹を刺し貫かれたが、ヴィアザの冷笑は消えない。
「なんでだよ! 深手なのに!」
「《《たったこれだけで》》深手だと? 俺にとっては普通のことだ、怪我なんて」
「なっ……! 暗殺者ってのは、殺しを(たの)しんでいるもんだと思っていた」
「少なくとも俺達は違うぞ。愉しんでいるようなバカがいたら、すぐに殺しているさ」
 ヴィアザは吐き捨てた。
「変わり者なんだな。まあいいや。さっさとここで死んでくれ!」
 男は腹の傷を抉った。
「そのセリフ、そのまま返してやるよ」
 ヴィアザは左手に構えていた刀で、突きを繰り出した。
「がはあっ!」
 それは男の右胸を刺し貫いた。
 男から息をするたびに、ひゅーひゅーと音が聞こえてきた。
 鮮血がだらだらと零れ落ちる。
 ヴィアザも口端から鮮血を滴らせながらも、笑みを深めた。男の腹を蹴り飛ばした。
 乱暴に刀が引き抜かれ、男は壁に激突した。
 腹に突き刺さった剣を、一息で抜いた。
 壁が派手に壊れ、男がゆっくりと立ち上がった。
 その足許に鮮血のついた剣を投げた。
「俺はこんなところで死ぬ気はない」
「こんな真似して、生きられると思うなよ!」
「敵など大勢いる。彼ら全員を殺すだけだ。俺はここの連中とは違う。自分が罪を犯していることから、逃げはしない」
 ヴィアザは口端を吊り上げて(わら)った。
「だからなんだよ、人殺し! 仮初めかもしれなかった平穏を壊して、なんとも思わないのか!」
「貴様も薄々気づいていたのか。その様子だと、疑いきれずにいたんだな」
 ヴィアザは鼻で(わら)った。
「そうさ! こんなに温かい場所を失うくらいなら、疑わずにいるしかなかった! ここはとっても居心地がよかったからっ!」
「貴様も被害者、というわけか。だが、貴様の方が死に近づいているぞ?」
 ヴィアザは低い声で尋ねた。
「深手を負ってる奴に、言われたくない」
「少し、話をしすぎたな。これで、終わらせてやる」
「やれるもんなら、やってみろ!」
 二人は同時に、突っ込んだ。
 ヴィアザは右胸を、男は心臓を刺し貫かれた。
「がはっ! なんで、なんで、死なないんだよ!」
「冥途の土産に教えてやる。俺はヴァンパイアだ。こんな武器では死なない」
「くそおおおおっ!」
 男は悔しそうに叫んで、息絶えた。

あああああ。こんな、こんなふうになるなんて……!」
 そこへ依頼をしてきた男が姿を見せた。
「言われた通り、壊した。それでお前は、これを見てどうするんだ?」
「報酬なら、ほら」
 慌てた様子で金のコインを渡した男は、室内を見て茫然としていた。
「なんて、(むご)い……。私には、無理だ……。彼らの死を背負いながら、生きるなんて、できない……!」