「ただの孤児院ではなかった、ということか。面白い、相手になってやる」
 ヴィアザはぞっとするほど冷笑を浮かべると、刀についた鮮血を殺ぎ落とした。
「狙いを定めて、投げて!」
 女の声に従った十五人もの子どもらが、ヴィアザに向かってナイフを投げつけてきた。
 ヴィアザはそれを躱さずに、すべて受け止めた。
「ほう、どれも殺傷能力が高いナイフか。投げさせたのはまだいいかもしれないな」
「っ――!」
 上半身と両腕をナイフで刺されているのに、平気で話しているのだから。
「しかし、十五か所も刺されると面倒なんだよな……」
 ヴィアザは呟きながら、左手に持っている刀を、床に突き刺した。
 彼らの視線が集まる中、ヴィアザは一本ずつナイフを抜き始めた。
「な、なんですって!」
 ヴィアザは周りの視線など一切気にせず、ただナイフを抜いては床に落としていく。
 数分ですべてのナイフを抜いてしまった。
 どれもナイフの中ほどまでしか刺さっていなかった。
「直接刺すなら、もっと深くなったかもな」
 ヴィアザは刀を手にした。
「なら、これなら? 弾切れになるまで続けなさい!」
 女の一声で、子ども達は隠していたマシンガンを構え、ヴィアザに向かって撃ち始めた。
 連続した発砲音が続く中、ヴィアザは一歩も引かなかった。
 発砲音がいっせいに止んだ。
 煙で曇る中、ヴィアザはブンッと刀を振り下ろした。
「なっ……!」
 そこには、弾痕ひとつ見当たらないヴィアザが立っていたからだ。
 あれだけの弾丸をすべて無効化したのだろう。(あし)(もと)には斬られた弾丸が数多く転がっていた。
「一発も当たらないなんて……。いったい、何者なの?」
「〝闇斬人(やみきりびと)〟」
 ヴィアザは口端を吊り上げて(わら)いながら、それだけ口にした。
「そんな大物がなぜここに?」
「答えは貴様らが教えてくれただろ? 孤児院の裏事情の一部を。ずいぶんと、手慣れた扱いだった。訓練させているのも分かった。遠距離でも確実に人間を殺すように、な」
 ヴィアザは鼻で(わら)う。
「なら、あなたが生きているその理由は?」
「それくらいは教えてやるか。俺は人間じゃない、とだけ言っておこう」
「この数で勝てないはずがない。一斉射撃っ!」
 ――だから、無駄だと言っている。
 ヴィアザは溜息を吐きながら、だっと駆け出した。
 弾丸の雨をすべて斬り捨て、無効化。少年達に刃を振るった。
「ぎゃあああっ!」
 まずは一人。心臓を刺し貫いて、もう一人に突っ込んだ。
「なんでっ!」
 派手に転倒した少年は、武器を手に駆け出そうとした。
 その道を遮るかのように、ヴィアザが立ち塞がった。身体のあちこちから鮮血を零しながら。
「ひっ!」
「覚悟もなければ、代償として、なにかを差し出そうともしない。指示に従うだけの人形のような連中……か。教えてやるよ、殺しがどんなものなのか」
 ヴィアザは囁きながら、丸腰の少年の心臓を刺し貫いた。
「ぐうううっ!」
「命を奪う。それは最も重い罪だ。決してしてはならないことだ。それを、殺しの実感がないからいい、なんて理由で一線を越えさせる。間違ってんだよ! ここの〝大人〟は! ここでの生活しか知らない奴らばかりだった。だから、違いに気づかない! ここの子ども達に罪はない? はっ、よく言えたもんだな。貴様ら全員、咎人(とがにん)なんだよ!」
 ヴィアザは怒りを爆発させた。その間に、ひとつの骸ができあがった。

「なんでこうも、頭の回転が速いのよ……」
「有名な暗殺者なんだから、回転が速くて当然よね?」
 女の背後に人影があらわれた。
「なにをしにきた?」
 女の背後に立っている人物が誰か分かったらしく、ヴィアザが尋ねた。
「そうねぇ、手伝いみたいな? あの場所の入口に、人がいたから話を聞いて、ここにきたってわけ」
 そこには、女の頭にカオドグラルの銃口を突きつけたセリーナがいた。
「あなたは……?」
「〝戦場に輝く閃光〟」
「っ!」
 女が顔を歪めた。
「大人はこれだけ? あ、入口にいたの、うるさかったから、殺したわよ?」
「多分な。まあいい」
 ヴィアザは十五本のナイフを、子ども達の背後の壁に次々に投げつけた。
「そんな……」
 呟く少年らの横顔はとても暗い。
「直接かかってこい。遠距離での攻撃はやめろ。傷つけるというのはどういうことか、知りたかったら、こい。貴様らの死は確かだが、足掻くぐらいならいいだろう」
 ヴィアザは左手に刀を構えた。
 一人、また一人と、ナイフを手にした。
 全員がナイフを手にしたのを確認すると、ヴィアザは溜息を吐いた。
自棄(やけ)か? 女を助けるためか? それとも、生きたいがためか」
「わあああっ!」
 十五人の子ども達がいっせいに声を上げて、ナイフを振りかざし、襲い掛かった。
 ヴィアザはその様子を見ながら、刀を床に突き立てて、片膝をついた。
 十五本のナイフが、ヴィアザの上半身を刺した。
「これで分かっただろ? 力のない貴様らに、こういうのは早すぎる。それに、貴様らの見たものはすべて(まぼろし)だ」