パメラは白魔法医師のラーバスに、体に(きず)があるか確認してもらった。

 何も問題ないということで、私は一安心だ……。

 私たちは夕方、ラーバスに街の川の外周(がいしゅう)にある小さな料理店に(まね)かれた。

 女性看護師のポレッタは家に帰ったらしいが、この街は不気味だし魔物がでるので心配だ。

 料理店にはちゃんと料理人もいるし、お客は少ないがきちんと経営している。

 客は街の住人だろう。

「こんなに食料があるなんて。グレンデル城の城下町みたい」

 私は料理を食べながら言った。

 牛肉や野菜のコース料理や、パンもあり、今のご時世では考えられない豪勢な食事だ。

 ラーバスは言った。

「物資や食材はジャームデル王国から届いています」

 物資や食材が届く……?

 しかも悪名(あくみょう)高き戦闘国家、ジャームデル王国から? 

 確かあの国はイザベラ女王と関係が深いと聞く。

(おい、アンナ。料理をあんたの能力で調べたほうがいい)

 隣に座っているパメラが、私に耳打ちした。

 私はあわててうなずいた。
 
 (うたが)うのはいけないと思ったけれど、料理に毒があるかを透視(とうし)魔法で見た。

 料理から緑色の「(アーダ)」は出ていない。

 毒はまったくなさそうだ。

 私とパメラはホッと息をついた。

「この街は二年前に、ジャームデル王国が(さび)れたゾートマルク村を改造して造り上げた街なのです」

 ラーバスがそう言ったので、私は思わず聞いた。

「なぜジャームデル王国がそんなことを?」
「私はジャームデル王国に(やと)われただけの白魔法医師なので、(くわ)しくは知りません」
「ラーバス、あなたはジャームデル王国の人間なの?」
「私は安い金でジャームデル王国に(やと)われた、単なる白魔法医師ですよ。しかし医者として(ほこ)りをもって人を診察(しんさつ)診療(しんりょう)します」

 そしてラーバスは静かにこう言った。

「この街はジャームデル王国の実験施設(しせつ)なのです」

 私たちは眉をひそめた。

「実験施設(しせつ)だと? 一体何の実験施設(しせつ)なんだ?」

 ジャッカルは(なか)ば声を強めて聞いた。

「先程の魔物……グールは、この村の川の内周(ないしゅう)に住む街の住人なのです。それをジャームデル王国は監視(かんし)しています。私が知っているのはその程度です」

 驚く私たちを尻目(しりめ)に、ラーバスは静かに続けた。

「夕方から住人はグールとなり、朝になると普通の人間に戻っていく。しかし人間に戻っても正気(しょうき)はないが」
「お、おいおい! それが本当ならやばいじゃないか。今は夕方だろ? そのグールとやらが川の内側(うちがわ)から来るぞ!」

 ジャッカルが声を上げると、レストランにいた数名の客はこっちを見やった。

(アホ! 声がでかい!)

 パメラがジャッカルを(ひじ)小突(こづ)いた。

 ラーバスは再び言った。

「石橋は開閉式になっており、夕方は川を(わた)れません。グールは川を(わた)ることはほぼありません」
「では、昼にパメラを襲っていたグールは?」

 私が聞くとラーバスは答えた。

時折(ときおり)、昼にグール()する者がいるのです。そういうときには私の魔法で眠らせます」
「あたしを(おそ)ったグールは? 担架(たんか)であいつの家に運び込んだんだな?」

 パメラは少し怒っているようだった。

「そういうことです。元は人間ですからね。彼にも家があります」
「周辺住民は危険じゃないのか?」
「私の魔法で眠っているから大丈夫です。朝になればグール()()けます」

 私はローバッツ工業地帯の村のターニャを思い出していた。

「となると……私の知り合いの娘さん、ターニャもグールになっていたのですね」
「私もそう思います。なぜここから離れたローバッツ工業地帯の村に、グール()した子どもがいるのかは不明ですが」

 うーん……確かに謎だ。

「あなたたちはローバッツ工業地帯の村人を治癒(ちゆ)する協力者を探しているのでしょう? この街のニ十キロメートル南に、ルバイヤという村があります。そこには白魔法医師たちの(かく)(ざと)があります」

 白魔法医師たちの(かく)(ざと)

 私はそんな場所があるのか、と驚いた。

「ウォルターさん、ジャッカルさん、あなたたちはかなり腕が立つとみえるが」

 ラーバスはウォルターとジャッカルを見やった。

「私から見ると、まったく力が解放されていない。特にウォルターさん、あなたはまだ力を秘めていますね。──私の知り合いには『聖騎士(パラディン)』という職業(ジョブ)についている者がいます。あなたは今の騎士(きし)から、聖騎士(パラディン)転職(ジョブチェンジ)するべきだと思う」
聖騎士(パラディン)!」

 ウォルターは驚いたように声を上げた。

「伝説の職業(ジョブ)じゃないか。騎士《きし》よりもずっと強く位の高い職業(ジョブ)だ……! ぼ、僕にそんな資格があるのか?」
「あなたならその力を備えているのでは? ルバイヤ村に人間の力を引き出してくれる人がいます。それに加え、ルバイヤ村の者ならあなた方の要望に(こた)えて、たくさんの協力者を派遣(はけん)してくれるかもしれません」
「そ、それはすごい!」

 私は思わず声を上げた。

 ルバイヤ村に行かなければ……!