「……あなた方、何者……?」

 青年は私たちを(にら)みつけていた。

「待ってください!」

 私は叫んだ。

「落ち着いて! 私たちは敵ではありません。──その死霊病(しりょうびょう)の原因を探りに旅をしているのです」
死霊病(しりょうびょう)の原因……?」
 
 青年は地面に落ちている自分の杖を拾い上げながら言った。

 この青年の年齢(ねんれい)は恐らく──二十代後半くらいだろう。

 着ている白ローブの形、腕につけている紋章(もんしょう)を見るとこの青年は白魔法医師に間違いない。

 白魔法医師とは治癒(ちゆ)魔法を(あつか)う医師のことだ。

 この白魔法医師は誰の味方だろうか?

「僕たちは旅の者だ。仮住(かりず)まいをしている村に病人がおり、協力者を探している。僕たちは人を(きず)つけることはない」
 
 ウォルターが淡々(たんたん)と言った。

 それを聞いた青年の顔から、警戒(けいかい)の色が消えたように思えた。

 素性(すじょう)(かく)してこう言えば良かったのか……さすがウォルター……。

「ふむ。私は見ての通り白魔法医師です。自己紹介くらいはしておきましょう。私はラーバス・アンテルムという者です」

 ラーバスは(おだ)やかに、それでいて力強く言った。

「あなたたちのお知り合いにも病人がいると。……しかしここには近づかないほうがいい。早く帰りなさい」
「なぜだ?」

 ウォルターが聞くと、ラーバス白魔法医師は答えた。

「このゾートマルクは死霊病(しりょうびょう)の街だからです」

 死霊病(しりょうびょう)の街……。

 い、一体どういう街なんだろう?

 私が考えていると、ウォルターは一歩前に進み出て聞いた。

「そのことについて(くわ)しく教えていただきたい。僕たちも手ぶらでローバッツ工業地帯に帰れない」
「ほほう? ローバッツ工業地帯から来たのですか? あそこはもう(さび)れてしまったと聞くが……しかしね、この街は危険なのですよ。帰ったほうが身のためだ」
「どう危険なのですか? あなたも白魔法医師ならば、ローバッツ工業地帯に来て私たちの友人の娘さん──ターニャを助けてあげてください」

 私は少し腹を立て、ラーバスを見やって言った。

「ターニャは死霊病(しりょうびょう)だと思われるのです」
「何ですって?」

 ラーバスは私を見た。

「ローバッツ工業地帯の村に、死霊病(しりょうびょう)患者(かんじゃ)がいるのですか?」
「私はその死霊病(しりょうびょう)というものがどういうものか知りません。しかし、死霊病(しりょうびょう)を見たことがある人が、ターニャを見て『これは死霊病(しりょうびょう)だ』と言いました。また、村人のほとんどが体内に毒素を抱えています」
「……ふむ……」
「もっと助けがいります。あなたも協力していただけませんか」
「無理ですね」

 ラーバスは冷たくそう言った。

「帰ってください。邪魔です」
「そんな言い方はないじゃありませんか。あなたは白魔法医師でしょう? 人助けをするのがお役目では?」

 私は自分の言い方は、大変ぶしつけで傲慢(ごうまん)だと自分でも分かっていた。

 しかし何としても協力者が欲しかったので、こんな言い方になってしまった……。

「私には仕事がある。君たちの相手はしていられないのです」

 ラーバスはもう礼拝堂(れいはいどう)のほうに戻ろうとしていた。
 
 そのとき──。

「きゃあああ!」

 叫び声がしたので後ろを振り向くと、パメラの背中に何かがいる!

 ひ、人型(ひとがた)の魔物が抱きついている?

 こ、この魔物、どこから出てきたんだろう?

「ちょっとおお! あたしが何したっていうのよ!」

 パメラはわめいているが、魔物はパメラの背中にべったりと抱きついて離れない。

 その魔物は(はだ)が紫色で爪が伸び、(きば)が生えている。

 しかし服を着ているし、髪の毛が生えている……。

 えっ? 

 ──人間?

 魔物はパメラの首を、腕で後ろから()めようとしている。

「どけえっ、この野郎! パメラ、地面に倒れろ!」

 ジャッカルが声を上げた。

 パメラは男性を背負ったまま、よろよろと地面に倒れ込んだ。

 ジャッカルはその魔物を、自分の武器の八角棒(はっかくぼう)(なぐ)ろうとした。

「攻撃するのはおやめなさい!」

 ラーバスがジャッカルに向かって声を上げた。

「地上の者よ、眠れ!」

 ラーバスが呪文を(とな)えた。

 するとジャッカルとその紫色の人型(ひとがた)の魔物は、一緒に地面に突っ伏して眠ってしまった。

 い、今のは強制睡眠(すいみん)魔法──! 高度な白魔法だ!

 この人型(ひとがた)の魔物は一体?

 パメラはあんまりびっくりしたのか、わんわん泣いている……!

 ジャッカルも寝てしまっているし、ど、どうなってしまうの?